第2話 異世界ですね


 光に飲まれ、忍は異世界へと転移された。そして、目の前に広がっていたのはファンタジーあふれる街並み……











 などではなく、汚らしい不気味で少し薄暗い森の中であった。ある意味、異世界だが、これは俺の予想していたものとは少し違っていた。


「たく、あのクソ女神。俺が世界を救わないなんて言ったもんだから適当にやりやがったな」


 こんな最悪な状況に怒りながらも歩き続けた。しかし、8時間が経過しても森からは出られなかった。嫌な予感がする。そう俺が思うとそれは大抵当たっている。それは今回も例外では無いらしい。




 ーー異世界生活3日目



  3日もたってなお、俺はまだこの広い森を彷徨ってる。ここの暮らしははっきり言ってゴミだ。水を飲みたければ、木の根をすすり、腹が減れば木の上に登り木の実を食べる。何故俺は、こんな訳もわからん状況でサバイバルせにゃならんのだ。



 ーー異世界生活一週間目


 女神殺す。女神殺す。女神殺す。女神殺す。


 ーー異世界生活10日目


 なにやら妙な、建造物を見つけた。なんだこれは? 非常に大きく、黄色いレンガ? のようなもので作られてる。 塔のようにそびえ立っており、とても大きい。



「なんだこーー」


 ……するな妙な気配が。狙ってる。そしてわずかな敵意。この気配の大きさ……人間か。



「誰だ? いるのはわかってるぞ変質者」


 俺がそう言うと、物陰から返事が返ってきた。


「……変質者じゃないよ。君の方こそ何者だ? 君もダンジョンに用があるのか?」


 物陰から黒髪の女が出てきた。若いな。見たところ年は18ってところだろう。美人なのに惜しいな。格好にまるで色気がない。放浪する旅人って感じの格好。薄汚れたブカブカのフードを大きくかぶってるって感じ。


「ダンジョンって、これがダンジョンか?」


「知らずに来たのかい? なら君は帰った方がいい」


 帰れと言われても、帰る家も街の方向も知らない。何より金がないしな。


「何も用がないわけじゃないさ。なぁ、このダンジョンには金や宝とかって眠ってたりするのか?」


「……あぁ、もちろん。中には、特別な力を持った神器やその他宝石など、宝が山のようにあるとされてる」


 まぁ、大方予想通りだ。神器とかはよく分からんが、宝石とかは金になりそうだな。入って攻略する価値はある。ついでに女神もハッピーだしwin-winだしな。ニッ


「ほう、そりゃいい」


「君も行くのかい? それなら私と協力をしないか? 数が多い方が攻略は早いし、ちょうど私も盾……味方が欲しかったところだ」


 なるほど、協力。悪くない……たしかに1人より2人の方がクリア率は格段に上がるしーーん? こいつ今、盾って言った? いや気のせいか。


「じゃあ、取引しようぜ。俺の取り分はダンジョンの宝の6割だ。勿論、お前に損はさせない。その代わりに、宝の4割と神器はお前にやるよ。どうだ? 思ったより悪い話じゃ無いだろ?」


 もしも、この条件で無理なら悪いがダンジョン内では敵同士だ。さぁ、どう出る?


「OKだ。というかむしろ宝も神器もいらないから君に全て譲るよ」


 なんだと? こいつは馬鹿なのか? じゃあ、何の目的でダンジョンに入るんだ?


「え? いや、いらないのかお宝を? じゃお前、ダンジョンに何しに行くんだよ?」


 そう聞くと、目を輝かせ少し距離を詰めながら、博識を発動させ熱心に語りかけてくる。


「決まってるだろ! 魔族を見に行くんだよ! ダンジョンにはいるんだ! かつては、この地に存在した魔族が! 私はそれをこの目に焼き付けたい! そして、あわよくば持ち帰りたい!」


 お、おう。なんなんだ、この熱量は……。


「わ、わかった。じゃ、取り引ーー伏せろ!」


 俺が、言葉を発し終わるより先に右方向から矢が飛んできた。

 すかさず、反応し俺と名前も知らん女は矢を避けることに成功した。間一髪だが。


 矢の飛んだ方向を見ると、そこには緑色の小さな人型のモンスターが、3体ほどこちらを睨んでいた。




「む? あれは、ゴブリンだな」


「ったく、これからって時に」


 面倒だな。でも、どうせ倒さなきゃ話が前に進まない。ともなれば、ここで駆除するのが吉か。まぁ、ゴブリンがどれほどの危険度かは知らんが、見た目的にも三体程度なら俺とこの女の2人で楽勝だろ。


「よし、俺は右から順に二体やるから、お前は一番左の一体をたのむ」


「断る」


「よし、じゃあ頼……ん? 今なんて言った?」


 え? こいつ今断るって言った? 気のせい? 気のせいだよね? いや、言ってたな。うん言ってたよ。


「おい、なんでだよ…… 一体くらいやれよ。俺たち同盟だろ。やれよ馬鹿野郎」


「魔力の無駄だ。あれくらい、君が1人で殲滅してくれ。できないなら、ダンジョンでも使い物にならなそうだしね。丁度いい機会じゃないか。君がどれほど使えるか、この目で見極めさせてくれ」


 おい嘘だろ? 協力関係のはずなのに協力してくれないんだけど? こんな事ありえるの? と、愚痴はここまでにしてさっさと雑魚潰して、ダンジョンクリアと行こうか。


「どれくらい使えるかだ? こんなもんで俺ァ測れねぇよ姉ちゃん。こんなもん1分……いや、2分で充分だ」


「期待してるよー」ヘッ


 嫌いなタイプだこいつ。



「さて、仕事の時間だ」


 俺がそう言うと、ゴブリンの一体が俺に飛びかかってきた。手には石斧を持ってる。


 真っ直ぐこちらに向かってき、オノを振り下ろす。


(これはかわして裏拳だな)


 攻撃を即座にかわし、ゴブリンの顔に裏拳が炸裂する。顔にメキメキと鈍い音を鳴らし、ゴブリンは30メートル程吹っ飛んで行った。


「あら、思ってたより軽いでやんの。よく飛ぶよく飛ぶ」


「グ……グギギー!!」


  仲間の死に少し動揺した様子だが、すぐに切り替え、ビビらずにもう一体が向かってきた。今度は、武器を持ってない素手の奴だ。


「悪いな。時間もねぇし、早く終わらせるぜ?<<五神流・奥義>>閃十拳!!」


 10発分の拳を一発に集約させて放つ強力な一撃。五神流の奥義だ。


「グギャア!」


 直撃し、ゴブリンの土手っ腹に大きな穴が空いた。



 よし、あと一匹だな。あれいない? 逃げたのか? と思った刹那、後ろに回られていたのか背後から大きな殺意を感じた。


 反射的に回し蹴りをしてしまった。これは、まぁ普通の回し蹴りだ。


「ぐぎゃぁ!」


 蹴ったゴブリンは、50メートルほど飛んで行った。



  ここで俺の身体の仕組みを話そう。俺は、生まれつき普通の人間よりも体が強い。曰く、筋肉の性質が特殊なんだとか。+αで量がとんでもない。だが、見た目は一般的だ。何故なら筋肉の密度が高く、凝縮されてるんだとか。他にも五感やら反射神経やら動体視力やらが高いらしい。いわゆる特異体質ってやつらしい。そんな、俺の背後を取るなんてあのゴブリン相当やるぞ。誇っていい。



「ほぉ、やるね。魔法も使わないで殲滅とは。見たところ、魔力による身体強化も使っていないし、それが君の素のスペックなんだろ。大したものだ」


(なるほど、外見よりもはるかに大きなパワー。珍しい、特異体質ってやつか。ダンジョン攻略後に体を見せてもらおうかな)ニッ



 ゾッ!


 なんだか、悪寒がしたが気のせいか?


「じゃあ、邪魔者も排除したし入ろうぜダンジョンに」


「あぁ、扉ならもう開けたよ」


 ガチャ


「え?」


 急に躊躇なく扉を開けるこの女に思わず俺は声が出る。


「さぁ、心してかかろうか!」


 そうこの女が言った刹那、びゅおぉ!! と、扉が大きな音を立てて、まるで掃除機で吸い取られるように俺達は扉に吸い込まれていった。

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