第5話・寄る辺なき主従の賃貸交渉

 「………狭いな」

 「お前行き先が無いからって入れてやったら第一声がそれかいっ!!」


 家に帰ってきて玄関に入ったらこうだった。つい先程のしおれた感じ何処行った。


 「いや、悪かった。ここが今日からの住み処と思って安心したらつい本音がな」

 「そこまで言った覚えはない。…けどまあ、話くらいは聞いてやるよ。靴脱いであがりな」

 「うん。感謝する」


 本当にそう思ってんのかね、と若干疑わしくはあったが、履き物を揃える姿などを見ると結構いいとこのお嬢さんみたくは見える。

 鎧はとうに脱いで…あれを脱いだと言えるかは別として、その下にあった姿は……うん、まああの光景は我ながら整理が必要かもしれない。




 「何とかしろとは?」

 「その鎧だよ!校門を出たとたんに通報されかねん、そのまんまだと」

 「されたら拙いのか?」


 どうしよう。常識の通用しない相手との会話がこうも思い通りにいかないと知って一気に後悔が襲ってきたわ。


 「いや、何とかしろと言われればなんとかなるが」

 「なら…っとお!」


 一瞬首から下が白っぽい光に包まれたかと思ったら、鎧と思しき衣裳はかき消え、代わりに白のブラウスに濃紺のパンツの、質素ではあるが清潔感にあふれた姿に変わっていた。


 「これで良いか?」

 「あ、ああ。良いけど…どうやったんだ?」

 「話すと長くなるが、いいか?」

 「ならいい」


 すげー不満そうだった。もしかして言いたかったのか?

 いやまあ、必要だと俺が判断すれば、力尽くでも聞き出すつもりだけど。


 道すがら、は黙りこくったままの道中であったので、訊きたいことも訊けず終いだった。

 ちなみにラジカセの方は俺が把手を持ってぶら下げてきた。なんでも浮いている状態を人に見られない?見えない?ように出来なくもないが認識にいろいろと不具合が起こる可能性があるから、とかなんとか。なんのこっちゃ。

 で、慌てて学校を出た頃はまだ宵には早かったし、家に着く頃には外灯もついていたから、ふっるいラジカセと学生鞄を両手に持った俺、一緒に歩いているのは金髪の美少女、という組み合わせであったから実に目立つこと目立つこと。

 これが東京だとか都会ならそう珍しいもんでもないだろうに、日本海側の地方都市の下町じゃあな。


 まあそれでも居心地の悪い思いをしていたのは俺だけで、こっちの方はどうにもそんな余裕は無かったっぽい。いや、知らない街で、俺についてくるので一杯一杯だった、ってことなんだろうなとは思うが。



 部屋に上げてやる。

 昼日中の間、誰もいなかったのだから当然のように暑気がこもってクソ暑い。

 何はともあれエアコンをつけると、居間に入ったヤツはまた図々しいことを言い出した。


 「うん、悪くない。一人で住むには過度に広いわけではないし。何より静かそうなのが気に入った。他の住人には珍しがられると思ってはいたのだが、案外あっさりとしたものだったな」

 「…まー、一度招いた以上、客人には違い無い。茶くらいは煎れてやるから大人しく待っとけ」


 俺ん家は管理人室といってもB棟一階端の二部屋をぶち抜いただけのものだ。間取りなんぞ他の部屋と違いは無く、単に隣と行き来できるだけのこと。母親がいるときは居間に使っているこの部屋の隣で彼女たちは寝泊まりしていたものだが、ここしばらくは人の出入りが無く、ただの物置と化している。

 そんな中から俺は、来客用の座布団を引っ張り出そうとしていたが、よく考えたら正宗がしょっちゅう来てんだからあいつが自分専用にしているのを使えばいいか、と居間に戻った。…にしても、なんで隣の家のあいつ専用座布団、なんてものがこの部屋にはあるんだろうか。


 「ほら、これ敷いとけば足も少しは楽だろ」

 「あ、ああ。ありがとう。…これは?こう、床に置いてその上に座ればいいのだろうか?」

 「そう、それでいい。暇ならこいつと話でもしてな」


 学校を出て以降、一言も喋らないラジカセをちゃぶ台の彼女の前に置く。普通に考えたら「アタマ大丈夫?」とでもツッコまれそうな光景であるが、一番アレなのが当のラジカセであるから全く問題無い。

 さて、台所に入って道具を確認する。

 親父はちゃんと片付けはしていったようで(あれで身の回りのだらしなさには容赦が無いのだ)、台所周りは整っていたので茶道具を出すのに手間取ったりはしなかった。

 俺の好みで番茶を濃いめに。日本人にさえ好評とは言いがたいのに、日本のお茶と言えば緑茶か抹茶だと考えているであろう外国人に供するのはどーかとも思ったが、そもそも当たり前の外国人とは言えそうもないのに、飲み食いするものがそのままで大丈夫なのか?


 「良い香りだな」


 …などといった葛藤は全くもって杞憂であったようで、ピンと背筋の伸びた奇麗な正座で、行儀良く両手で持った湯呑みから香る湯気を堪能されてしまった。順応しすぎだろう。


 「我には無いのか」

 「家電製品が茶を飲むたぁ斬新な冗談だ。むしろそっちのコンセントの方がいいんじゃねーのか?」


 分不相応というより意味不明な要求があったので、そちらに対しては適切と思われる対応をしてやったら呆れたようにため息をつかれた。肩があったらオーバーにすくめているところだろうな。ムカついたので二度目の渋い茶を出してやる。こちらとしてはむしろ親切で言ってやったというのに、腹の立つ。


 「…さて、いつまでもこうしてるわけにもいかないだろ。とっとと話を聞かせてもらおうか」


 急須の茶葉を一度入れ替えて二杯目を出してやったら、「茶菓子はないのか?」などと次第に増長の様相を呈してきたので、こっちのモヤモヤした気分を解消したら早々に退散願うべきだろうと、こちらから話を切り出す。まあ、流石に言いにくそうにそわそわしていたこともあったのだが…まさか夕食の催促をしているわけではないよな?


 「そうだな…まず、名乗りを上げておくべきであろう。私の名は、ヴィリヤリュド・シュリーズェリュス・リュリェシクァという」

 「び、びり…?ビリヤード?」

 「おい。人の名前をわざとらしく間違えるなどと失礼にも程があるのではないか」

 「いやふざけてんのはそっちだろ。一体地球上のどこの言語だよ」


 言ったらなんだが、これでも主要な言語は大体聞いた覚えはある。流石に会話こそ出来ないにしても、どう見ても白人の少女が話すような言語には聞こえなかったから変に思っただけだ。というか、適当に言ったんでなければ…?


 「おい、もう一回。よく聞き取れなかった」

 「仕方無いな…」


 と、今度は音節ごとっぽく繰り返して言ったのだが、それでもよく分からん。俺が首を傾げていると、


 「…分からなければ『シュリーズ』と呼ぶがいい。近しい者はそう言い慣わしている。私もその音は気に入っている」


 軽く胸を反らしてそう告げた。

 ふむん、と俺の中でこの娘の評価が少し高くなる。自分の名前を誇らしく語れるヤツにそう悪いのはいないもんな。子供相手に限定した俺の経験則だけど。


 「俺は日高小次郎。ヒダカ、コジロウ、だ。分かるか?」

 「どのように呼べば?」


 口の中で繰り返してから、彼女はそう問う。


 「別にどっちでも好きなように。あ、ちなみに日高が姓で小次郎が名前な」

 「セイ…?ああ、家族を示すものだったか。ではコジロウと。うん、この響きは良いな。精悍な感じがする」

 「お、おう…」


 普段意識もしない名前の良し悪しなんぞを正面切って褒められると、なんか…こそばい。照れ隠しを自覚して、湯飲みに残る茶を飲み干すと、この場にいるもう一人?のことを思い出して尋ねた。


 「で、そっちのは?お前さんの連れだろ?」

 「シュリーズと呼べと言ったが。まあ良い。こちらは名前は無いのだが、コジロウが言った『らじかせ』で良いのではないか」

 「んなテキトーな…」

 「別に我は構わんぞ。ただしその場合家主殿を名付け親として『お父さん』と呼ぶことになるが」

 「キモいからやめい!」


 得体の知れない無機物に父親呼ばわりされてたまるか。


 「では『らじかせ』と……決めておいてなんだがこの響きはなんだか緩いな。緊迫感が無い」

 「というか連れじゃなかったんかい…」

 「そのあたりも説明はさせてもらわねばならないだろうな…さて、」


 というかますます正体不明になりつつある気がする。


 「名前を覚えたところでコジロウ。何が聞きたい。ちなみに目下我々の目的は寝床の確保だ」

 「聞いてもいないことをいわんでもええ。と言ってもな…ああ、そうだ。端的に言えばどこの国から来て何が目的でこんな地方都市にいる。観光ならまず東京とか大阪だろうに」


 ふむ、とシュリーズは人差し指をあごに当てて考え込む仕草。癪に障るが、いちいちこういう動作が絵になる。


 「…故国のことを言えば、ヴィリヤルデ・ノーリェリンという。多分聞いたことはないと思うが」

 「おい、誤魔化すならせめて地球上の国にしろ」

 「誤魔化すつもりなら信じられるように偽るであろう。これが誤魔化しではない証しになると思うのだが」

 「………」


 一理ある。となるとこのビリなんとかという国が地球上に無いか、あるいは俺が聞いたことも無いだけで、とんでもない小国として存在しているのか。

 気がつくと、ラジカセはふよふよと浮かび始めている。例の羽根みたいなのも相変わらずだった。

 空飛ぶ家電製品、というシュールな絵柄を前にして納得せざるを得ないが…。


 「ゆーなれば今流行りの『異世界』というやつであろーか」

 「言い方が軽すぎないか?胡散臭さが余計に増すんだが」


 せっかくなんとなく察し始めてシリアスな雰囲気になってきたというのに。

 ていうか流行りて。何処の。


 「まあ落ち着けコジロウ。私とて衝撃を受けていないわけではないのだ。文物にて知り置いていた世界とはいえ、よもや自身で赴くことになるなど想像もしていなかったのだからな」


 見て覚えたんだろうが、今度は自分で茶を煎れて飲んでいた。


 「…ふう、この茶は美味いな。何よりもこの香りが心に平穏をもたらす」

 「そりゃ結構なことで。で、その異世界の方々が一体何をしに…いやその前にだな、知り置いていた世界、ってぇのは地球のことか?」

 「そうだな、分かりやすく言えば…コジロウ、平行世界という概念は知っているか?」

 「なんか聞いたことあるな…パラレルワールドだっけか?選択の枝分かれによって無限にその結果の異なる世界が広がっていくとかなんとか…」

 「ああ、こちらはそういう理解になっているのか。いや、私が言いたいのはそういうのとは違う。平行とは交わらないことを意味する。つまり、どこまで行っても触れたり重なったりはしない。近寄りもしない代わりに遠ざかりもしない。ただ、それがあることを知っているか知らないかの違いに過ぎない」


 そういや数学だか算数だかで習った気がするなあ。平行線の関係、とか行って誰かが皮肉っぽく笑っていたような気がするが、あれは誰だっただろうか。


 「私達の立場で言えば、あることを知っている。そしてコジロウ。お前達からすればあることを知らない。そんな世界だ」

 「いやちょっと待て、そんな都合のいい話があるかい。なんで俺らが知らないでおめーらだけが知っているんだ」

 「異界の門と言ってだな、本来はそういった世界を往き来出来る装置があるのだが、その存在を知るが故であるな」

 「なんかすげぇご都合主義って気がしてきたぞ…」

 「立場が違えばそうも思えるであろうな。例えば法を知悉した人間と、法の概念も知らぬ人間が法廷で争えばどうなる。お前の言うご都合主義とやらも見方を変えればそんなものだろう」


 要するにその異界の門とゆーもんがあったので平行世界という別の世界があることを知りました、ってことか。


 「異界の門については分かっていないことも多い。今の私の立場にはそれほど関わりもないことだから説明は省くぞ」


 むしろそうしてもらうと助かる。自分たちは異世界から来ました、とかその時点で俺の理解を超えてるっつーのに。


 「で、何しに来たのか、という話であるが………理由を細かく話すわけにはいかないのだが、簡単に言えば…その、家出してきた」

 「そりゃまた豪快な家出だな。年中外国に家出してるようなアホウは身内にいるが、若い女のやることでもなかろうに」


 家出、ねえ。

 信じられない話ではないが、こいつの言うことが本当であれば、地球上ですらない場所へ家出してきたことになる。そういう真似をすることがこいつの中でどれだけのハードルの高さなのかは知らんけど、よっぽどのことでもない限りそこまではせんと思うんだが、な。


 まあいいさ。それで行き先が無いというのも分かる話ではあるし、この場は納得しておくことにしよう。

 …なんか俺の中で、異世界云々が厳然たる事実みたいな扱いになっているが、あれだけいろいろ見せられりゃあ無理も無いってもんだろう。


 「しかし、それにしちゃあ随分と芝居がかった登場の仕方だったもんだ。狙ってやったのか?」

 「狙ってやったというか…うーむ、こう、劇的な出会いを演出してみようかと」

 「何の必要があってそんな真似すんだ…」


 そしてここに来てなんとなく、俺は親父の仕込みの可能性も考え始めていた。

 ラジカセの件はさておくとして、俺をからかうためだけにわざわざ海外の人間を用意するくらいなら普通にやりかねんし、今日出て行ったというのもタイミングとしては悪くない。羽を伸ばした気分でいる俺をおちょくるには最高のシチュエーションだろう。

 あるいは新しい母親のお披露目とかいう、犯罪として告発したいパターンだって無くも無い。

 …やべぇ、考えたら考える程しっくり来るんだが。

 でもなぁ。

 と、俺は所在なさげに耳にかかった金髪を指で玩んでいるシュリーズを見て思う。

 親父が見かねて囲い込むタイプにはあんまり見えないんだよな、これが。


 「なんだ、その胡乱なものを見るような目つきは」

 「こっちにゃこっちの事情ってもんがあんだよ。それでもう一つ聞いておきたいんだが」

 「なんだ」


 と、フワフワ部屋の中を漂い始めた中古のラジカセを指さして聞く。


 「結局、こいつは何なんだ?どうもおめーにも理解出来てないところがありそうだが」

 「我のことか?細かいことを気にするな。折角美少女と同棲する機会なのだから細かいことを気にせず享楽に身をやつせばいいもぐぶぁっ!」

 「容姿を褒められるのは悪い気分ではないが馬鹿な事を言って唆すな!その気になったら如何するのだ!」


 ああ、うん。見てくれは稀代ではあっても中身が残念だからその心配はしなくてもイイデスヨーと思ったが流石に口にはしなかった。俺にだって女の子のプライドへの配慮くらいは出来る。


 「どーでもいいけどせめて解体するのは話を聞き出してからにしてくれ。部品になってても話が出来るなら止めないが」


 家電製品とケンカをする金髪少女、というシュールな光景は目に焼き付けておくのも悪くは無いが、せめて事情を理解してからにして欲しい。


 「全く。壊れかけのレイディオゥが本当に壊れたらどうしてくれる」

 「冗談言える余裕あるなら大丈夫だわな。つかお前壊れかけなんか?」

 「カセットは再生できるがラジオは最近ノイズが多くてな」


 再生出来るんか。多芸なやっちゃな。


 「なら音が出なくなる前に言い残したことが無いようにしてくれ」

 「…何か意地でも壊れてやるものか、という気になってきたぞ。まあいい。そもそも我は基より彼女の側にあった者ではない。無縁、ということもないがな」

 「そういや名前すら知らない様子だったもんな。てことは、こちらに来てから知り合ったってことか?」


 空飛ぶラジカセ状の生物が地球原産というなら、是非捕獲して一攫千金を狙いたいところだが。


 「…当たらずといえども遠からず、というところだな。我は本来は、主と一体の存在だった。切っ掛けがあり、分かたれることとなったが…」

 「……私と共に在らんと、それに相応しい形を願ったらこうなった。そういうことにしておいて欲しい。これ以上細かいことはこの者にも私にも言えないが、その点だけは真実なのだ。どうだろうか」

 「………」


 あんまり細かく突っ込まれたくはないところなんだろうか。真剣にそう言われてしまうと、こちらとしても追求の矛先は勢いを失ってしまう。


 「わあったよ。大体理解はした。で、お前らこれからどうするつもりなんだ?」

 「そのことであるがな、コジロウ。我々がお前に声を掛けた理由でもあるのだが…どうか、ここを落ち着き先として提供願いたい」


 うん、まあさっきから会話の端々にそーいうニュアンスが感じられたから予想はしてたけどさ。


 「断る」


 そしてそれに対する俺の返答も予定通りなわけで。


 「何故だっ!」

 「いや当たり前だろーが。得体の知れない異国の女と空飛ぶガラクタ。ホイホイと家に入れてこれから一緒に暮らしましょう、なんて一般常識に照らしてありえんだろーが」

 「異界の二人が運命的な出会いを果たし、少年は少女を受け入れる。出だしとしては完璧だと思うのだな、家主殿」

 「勝手に受け入れることにすんな。俺は、巻き込まれた、だけだ。一般市民としてはごく当たり前の選択をしているだけだっての」

 「一般市民ではなく小市民というものであろう。もう少し男子たるもの、進取の気迫を持ったらどうか」

 「どっかで見たよーな聞いたよーな展開に人を当てはめ込もうとした分際で何が進取の気迫だ。せめてまだ見たことも聞いたことも無い新しい展開を作り上げてから威張れ、アホ」

 「アホは家主殿の方であろう。そんな展開思いつくようならとっくに物書きとして独り立ちしておるわ」

 「それもそうか、って単独飛行が可能なラジカセに出来ててまるかそんな真似。いやむしろ喋って踊れるラジカセならそれくらい出来てもおかしくは」


 「おい、待て」


 「そもそも話がずれてきておる。今重要なのは、我らの来し方ではなく行く末であり、それは当然家主殿の受け入れるところであるという確固たる結論に立脚しておるのだ」


 「おーい」


 「勝手に決めるなと言っているだろうが。いつ誰がお前らの世話するとか決めた」


 「ちょっと待てと」


 「決める必要などあるまい。そこに世界があり、我らが居る。それは既に決まった未来だと定まっているのだ」

 「認めんと俺は言っているわ!これ以上不法占拠を続けるというならこっちにも考えが…」


 「…言っているであろうがぁっ!!」


 「おわっ」

 「………なんだ主。落ち着きの無い」


 別に無視していたわけではないが、当面このガラクタの減らない口を黙らせることに専念していた俺を睨み付けながら、シュリーズは仁王立ちでぶんむくれである。


 「下らん言い争いをしている場合では無いだろうが!らじかせ、寄る辺なき我らにとっては真摯に交渉をする必要がある」


 …うん、まあこいつらの立場からすれば当然の態度ではあるだろうな。


 「そしてコジロウ。お主には私の居場所を作るという大事な務めがある!」

 「言い切りやがったなこのヤロウ!もう少ししおらしくしてりゃあ多少は気の毒にもなろうってもんだが、こうも図々しく出られると意地でも従ってなんかやるもんかってぇ気にしかならねえぞ!」

 「何を言うか!異世界から訪れた美少女。理解を超えたその身の上。冒険と事件の予感だ!さあ、少女を救うついでに世界も救う、王道の物語がお前を待っている!」

 「勝手に世界を滅びに瀕さすな!そんな物騒な展開は御免被るわ!」


 あーもう、こいつら主従揃って人の話を聞きやしねぇ。もういい加減実力行使で追い出す場面なんじゃねえのかとも思うが、一応でも女を力尽くでどうこうする気にもなれやせんし。なんとか自発的に出て行くようにどうにか仕向けんことには落ち着いて飯も食えん。

 …飯?

 なんか忘れてるような気が……なんだっけか。

 と、俺が首を捻った時、ピンポンピンポンピンポンと三度呼び鈴が鳴り、それが止むと同時に玄関が荒々しく開かれる音。

 それからごーかいな地響きと共に現れて曰く。


 「くぉぉぉじぃぃぃろぉぉぉ!今日はウチで晩ご飯食べろって言ってたでしょおがぁぁぁぁぁっ!何時まで待たせんの………よ?」


 玄関を開けてから居間まで一切の躊躇とタイムロス無しに上がり込んできた隣家の幼馴染みは、尻すぼみになった怒号が途切れた口もそのままに、片膝立てた俺と、腕組みして対峙する金髪少女を見比べてフリーズしていた。

 そうか。忘れていたのってこのことだったか。


 しかし、なんかとんでもない場面になってしまっているような。どうすんだよコレ。

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