第111話 捕虜 

 どことも判らない砂漠の中を彩香は歩いていた。容赦なく照りつける太陽は、体の水分を奪っていく。日陰は無く、ただ日に身体を焼かれながら歩き続けている。

 喉が渇く。誰か助けて。誰でも良いから。魔法が使えるようになったがこの状況を脱することは出来ない。

 しかし、水は出せるようになった。

 だから、1時間も経たない内に水を出し、喉の渇きを潤す。

 生き返る。

 その間も身体は常に日光で焼けただれれていく。

 雲ひとつない。

 だけど、治癒魔法が使える。


 水を出すついでに火傷を治癒する。


 その間は冷たい氷を出し、額に当てる。しかし、氷はすぐに溶けてしまう。


 ずっとその繰り返しだ。


 どれ位歩いただろう。


 時間の感覚が全く分からない。


 お腹が減った。


 パンは未だ出せない。


 何時いつになったら魔法でパンが出せるようになるのだろう。


 そして、夜が来る。


 夜が来ると砂漠は途端に寒くなる。


 だから何かを燃やして暖を取りたい。


 だけど薪になるような物が落ちていない。


 だから、魔力で火を出し暖を取る。


 全力で出しても未だ小さな火しか出ない。


 そして長く持たない。魔力が尽きてしまう。


 魔力が尽きると気怠くなる。


 そして寒さに凍える。


 魔力が戻るとまた火をつける。


 その繰り返しだ。


 次第に、持続時間が長くなった気がする。


 神はステータスオープンと言えば現在の自分のステータスが見れるとか言ってたけど未だに見えない。どうなってるのか。


 そしてまた朝が来る。


 今日もまた暑さとの戦いが続く。


 一体何日経ったのか分からない。


 どれ位の距離を歩いたのかも分からない。


 既に一ヶ月くらいは経っているような気がする。


 神に騙されたような気がする。


 神でさえなかったのかもしれない。


 でも、魔法は使えるから本当に神なのかもしれないけど。


 しかし、魔法の力が弱すぎる。


 そのうち本当に強くなるんだろうか。


 また今日も暑い日差しの中を歩き続ける。


 歩き続けていると何時ものように蜃気楼が見えた。


 今度は本物であることを願って近づく。


 本物なら誰か居るかもしれない。


 誰もいなくても食料はあるかもしれない。


 一縷の望みをかけて蜃気楼かもしれないオアシスに向かって歩き続ける。


 今度は本物だった。


 とうとう本物のオアシスにたどり着いた。


 ここにいれば誰か来るかもしれない。



 オアシスの中へ入るとそこには小さな街があった。


 少数ではあるが人がいた。


 顔は東洋系。


 だったら、ここはサハラ砂漠ではないようだ。多分ゴビ砂漠辺りだろうと推測した。


 老人が湖の側で話している。小さな池のような湖だ。ただ沼と呼ぶにはあまりにも水が綺麗だった。湧き水でできた池だろう。


 食料を貰えないだろうか。


「すいません。食料を分けてもらえないでしょうか。」


「怎么办了?来自了哪里?在沙漠遇难了吗?(どうしたんだ?どこから来た?砂漠で遭難したのか?)」


「中国語ですか?ここは中国?ゴビ砂漠ですか?」


「正说什么。是哪里的国家的语言。(なんといっているんだ。どこの国の言葉だ?)

 」


 仕方ない、ジェスチャーで、手を口に持って何かを食べている動作を表現した。


「是什么?肚子饿吗?是什么想吃?(何だ?空腹なのか?なにか食べたいのか?)」


 相手もそれっぽいジェスチャーをしてきたので頷いた。


 すると彼が食料を持ってきてくれた。


 じゃがいもを潰したようなものと見たことがない果物だった。


 味は殆ど無い。塩気もない。だけど美味しい。空腹に染み渡る。


 果物の甘さが美味しい。久しぶりの甘味だ。生き返った気がする。


 だけど、これからどこかへ連れて行ってもらえないかどうやってお願いすれば良いのかわからない。日本に転移させてくれればこんなことで悩む必要なかったのに。


 一日中湖の側で寛いだ。久しぶりに木陰で涼しく眠れた。


 どれ位寝ていたのだろう、騒々しさで目が覚めた。


 目を開けると周りを初めて見る怖い顔をした男たちが青龍刀?を持って囲んでいる。どうしよう。


「不要引起骚动、抓住(騒ぐなよ、捕まえろ!)」


 何、こいつら。無理やり手をロープで縛られた。


「止めて。止めてよぉ〰。何だよぉ〰。止めろぉ〰。糞っ、」


 結局手を縛られてラクダに乗せられた。


 楽天的に考えれば、どこかの街へ連れて行ってくれるのだろう。


 だけど、普通手は縛らないよね。


 常識的に考えればコイツラは奴隷商人?私売られちゃうの?遊郭のような場所で働かされるとか。働かされたら梅毒に罹って未来から来たお医者さんに見てもらわないといけなくなる。ここは1545年とか星人ほしとが言ってた。コロンブスがアメリカ大陸についたのは、たしか、『いよー、国を見つけたコロンブス。ついでに梅毒もな。』だったから梅毒が輸出されてから既に半世紀。すでに世界中に広がっているかも。宣教師は宗教を広めているのか梅毒を広めているのかわかったもんじゃない。このまま売られていくのはなんとかしたい。逃げないと。だけど、ラクダでドナ・ドナされている分には楽でいい。逃げるのは大きい都市についてからでも問題ないし。だって私にはしょぼいけど魔法があるんだから。逃げる時に備えてロープは燃やして切っておこう。


 手に魔力を込めた。


 ロープに火がついた。


 魔力が尽きた。


 ロープは少し焦げた。


「どんだけしょぼいんだよ‼{{{p(●`□´●)q}}} むかつくぅぅぅぅう~~~っ!!!」


 暫くラクダの上で寝た。


 魔力が回復しているのがわかった。


 手に魔力を込めた。


 ロープに火がついた。


 魔力が尽きた。


 ロープは少し焦げた。


「(o ><)oもぉぉぉ~っ!! 」


 また暫くラクダの上で寝た。


 また魔力が回復しているのがわかった。


 また手に魔力を込めた。


 またロープに火がついた。


 また魔力が尽きた。


 ロープ焦げが少し広がった。


「ハ~ッρ(`O´*)チョームカツクー!..ナグリターイ!」


 またまた暫くラクダの上で寝た。


 またまた魔力が回復しているのがわかった。


 またまた手に魔力を込めた。


 またまたロープに火がついた。


 またまた魔力が尽きた。


 ロープが半分燃えた。


 後少しだ。喜びを声に出したらバレちゃう。


 夕方、私を捕まえた奴隷商人と思われる集団は更にそれ以上の人数の明らかに野盗だと思われる輩の集団に囲まれていた。


 げー、未だロープ切れてないのにぃ〰


 早く、奴等が戦っている内にロープを切って逃げないと。ラクダで逃げたほうが良いかな。でも、ラクダ無理!操縦できないぃ〰。


 燃えろロープ。


 ロープが燃えた。


 ロープが切れた。


 ラクダは?ラクダのロープはどうしよう。未だ戦ってるから、今逃げたほうが遠くまで逃げられるかも。でも、ラクダで逃げたほうが・・


 あー、しまった。魔力がもうあまりない。


 気付かれないように。気づきませんように。そ〰〰〰っと、そ〰〰〰っと、今だ。走れ!自分に言い聞かせた。


 走った。


 未だ戦っている声と音がする。


 ラクダの足音もする・・・って、こっちに向かって来てるじゃない!ひぃ〰〰〰っ!


 走った。途中足元に火を点けて走った。


 敵のラクダは火を踏みつけて追いかけてくる。


「もぉぉぉ~っ!!o(*>д<)o″))まっったく役に立たない魔法ね!」


「不要逃掉‼不要抵抗‼(逃げるな‼抵抗するな‼)」


 結局捕まった。


「我先强奸!(俺が先だぞ!)」


「为什么。我先强奸!(何言ってるんだ、俺のほうが先だ!)」


「乳房大!因此去先强奸。(おっぱいが大きいぞ!だから、俺が先にやるんだ。)」


 なんか男達が何か言ってるけど分からないけど、スケベそうなこと言ってるような気がする。でも体臭が酷い。


「匂いが臭いから近寄らないで。」


「女人正说什么。想早早强奸吗?(女が何か言ってるぞ。早くやって欲しいのか?)」


「被猜拳决定谁先强奸吧。(じゃんけんで誰が先にやるか決めるぞ)」


 なんかじゃんけんし始めたし、これじゃまるで誰が先にやるのか決めてるみたいじゃない。こんな異国でこんな臭い男たちとは子作りなんかしたくない。


「誰かぁー助けてぇ〰!」


『承知いたしました。大変遅れてしまい申し訳ありません。』


「え?だ、誰?どこにいるの?」


『目の前にいるハエです。』


「え?ハエが話すの?」


『話しているのではありません。指向性のあるスピーカーを使いあなたにだけ聞こえるようにしています。。神様のお願いであなたを助けて欲しいとのことでしたので。』


「は、ハエが助けるの?ハエじゃ無理よ!もう私強姦されるわ。そして、こいつらの仲間にもやられて子供の世話と夜のお相手をさせられるのよ。え~~~~~~ん。」


『泣かないでください。被害妄想気味ですね。ハエですがスタンガン程度の電撃は出来ます。』


「あなたも魔法が使えるの?だったら早く、気絶させて!ぎゃぁ〰、パ、パンツ脱がさないでぇ〰!ま、まずは上からでしょ。いきなり下からははしたないわよぉ〰。」


『・・・そんなこと言っても相手には通じてませんよ。』


「そんな事言う暇があったら早く気絶させて!やられちゃう!やられちゃう!早く〰!」


「不能等吗?不得已。(早くして欲しいのか?仕様がないやつだなぁ。)」


「ちょっとぉ、出さないで、そんな物出さないで!」


「我的东西大吗?(俺のは大きいだろ。)」


「イ”ヤ”ぁ〰〰〰〰!!」


 バタバタバタッ。


「な、何が起こったの?スタンガン?」


 男たちが皆倒れた。


『はい50万ボルトで行動不能にしました。』


「どうしてもっと早くしてくれなかったのよ!」


『失礼いたしました。面白かったもので。本当はもう少し見ていたかったのですが、これ以上は洒落にならないかと思いましたので実行しました。そんなことより大丈夫ですか。』


「なにが?」


『敵は未だ沢山いますよ。早く逃げなくてもいいですか。』


「早く言ってよ。さぁ、逃げるわよ。」


『戻ってラクダに乗ったほうが良いですよ。もう直ぐ暗くなります。暗闇に乗じてラクダを盗みましょう。』


「簡単に行ってくれるわね。私の魔法はしょぼいの。見つかったらアウトよ。レベルが上がるとかステータスが見れるとかとの話だったけど、ステータスも見れないしレベルも上がらないの。」


『これは失礼いたしました。』


ピロリロリン レベルシステムを開始します。現在、生活魔法と治癒魔法が使用可能です。レベルが上がれば新たなスキルを取得可能。

ピロリロリン 現在レベル1です。現在、一切スキルを所持してません。

ピロリロリン レベルが2に上がりました。

ピロリロリン レベルが3に上がりました。

ピロリロリン レベルが4に上がりました。生活魔法が上手になりました。


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