第109話 砂漠

 その次の日、目が覚めた田中星人ほしとは自分がどこにいるのか判らなかった。周りを見回しテントだと気づいた時、自分の現在の状況に気づいた。そして、彩香が死んでしまったことを思い出し落ち込んだ。

 落ち込んでいる星人に気づいたのかロワが顔を舐めてくる。


「く~ん。」


「よし、よし。止めろ、分かったから。」


 星人は自然と笑顔になっている自分に気づいた。落ち込んでたらまるで逃げてこの世界に来たようで嫌になるから落ち込むのを止めることにした。


 取り敢えず今日は城下町へ行ってその城主の評判を聞いて暫く使えてみてこの世界のことを知ってのし上がっていくか、自分の力だけでのしあがるか元の世界へ帰るか決めることにする。会社で言えば試用期間。アマゾンで言えばプライムのお試し期間だ。1週間無料体験。いや、100万円貰っているから。1週間で100万円のバイトのようなものだ。1週間100万円体験だな。

 よし。100万円分の仕事をしよう。


 一番近いのは浅井だな。浅井久政はイメージ的に人間の小さな男といった印象がある。伝統に縛られ、新しい風を嫌い、信長を嫌い息子にまでそれを強要し、親子ともども頭蓋骨で信長に酒を飲まれることになる。明智光秀にその頭蓋骨で酒を呑むことを強要し、それを拒んだことで信長に叱責を受けた話は有名なようだ。

 まぁ、でもここから近いし、直接久政の部下になることもないだろうから先ずは小谷城のある浅井郡の城下町へ行こう。

尾張も行ってみたいが使えるのはお断りだな。苛烈な性格の信長に苛烈に叱られれば強烈に反抗して不登校ならぬ不登城になってしまうだろう。

人を道具としてしか見ない信長は、道具の性能を愛する人間だから性能がなければ重用されない、どころか首になってしまう。

やはり、織田家で働くのは夢だが最初からそんな地獄のようなところでは働きたくない。ここは織田家に比べれば甘い他の武将に使えるのが良いかもしれない。京にも近いから京で働きたいとも思うが将軍家に直接使えるのは不可能だろう。どこで働くにしても、信用と評判を付けて他家から引き抜いてもらうとか籠絡してもらうとかの結果としてより強い他家へ使えるのが良いな。かと言って、弱い武家に使えると強い武田とかに滅ぼされて一緒に打ち首になったりしたらたまらない。中位の強さの武将に使えるのが一番かな。

浅井は中くらいだろうか。織田と徳川の連合軍と渡り合ったと言えば凄く強そうだが姉川の頃の織田はそれ程強大ではなかった時期ではなかっただろうか。微妙なところだ。しかし、まぁいいか。


 何故か使える腕時計のGPSで小谷条の位置を確認した。

すると、現在地とは反対側だ。琵琶湖の北東の位置にある。これなら京都のほうが近いな。京まで10キロもない。小谷条へは、直線距離で50キロ。これは、小谷ではなく京へ行けといっているわけだ。京へ行けば日本全国の情報がわかるかもしれない。


「ロワ、京へ行くぞ。」


「ワン、う〰〰ワン。」


「何だ、途中の『う〰〰』は?まぁ尻尾振ってるから嬉しいんだろ。10キロ走るぞ。」


「わん。」


 こうして田中星人は10キロの道程を走って京まで向かうのであった。





 ここはどこかの砂漠、一人の少女が水を求めて歩いていた。木々が見えたからオアシスだろうと歩いていくと蜃気楼でどんどん遠ざかったり見えなくなったりしてどの方向へ向かへばよいのか、どうしてこんな所に私がいるのと神に悪態をついていた。こんな不運な運命に陥れたという自分の不運を神の試練と捉え、それを神の所為にした呪った発言ではなく、実際に神がこの場所に自分を置いた事への具体的な神に対する文句だった


 彼女の名前は一ノ瀬彩香。彼女は友人の家から帰る途中信号を無視した車に轢かれ死亡した。神は言った。


「いや~、申し訳ない。知人の家へ行く予定だったんだが運転が難しくって信号で間違えてアクセルを踏んでしまった。どうだ。お詫びに俺の世界で転生しないか。なにか能力を上げるぞ。空を飛ぶ能力とか。」


「あなた、もしかして戦国時代の世界から来た神様。」


「どうして知ってるんだ。」


「知人の家って田中星人でしょ。私達付き合ってるの。昨日からだけど。」


「そうなのか。」


「だから一緒に戦国の世界へ行く予定だったのに・・・」


「だったら、転生じゃなくて身体を再生して俺の世界へ転移という形でその体のまま行けば良い。星人も明日には転移する予定だ。一足先に俺の堺へ聞き星人を待っていれば良い。そして、一緒に旅をすれば良い。」


「嬉しい。星人と一緒に生きていけるの?」


「お前にお詫びをしないとな。なにか能力を与えることが出来るが、なにか欲しい能力はないのか?」


「能力?英検一級とか?」


「違う。そんなただの手段に過ぎない能力ではなく、って能力自体がただの手段に過ぎないか。生き残る上でもっと使える能力だ。英語話せても日本にはアメリカ人もイギリス人もいないぞ。良くてポルトガル人だな。1549年に来たぞ。覚え方は『以後よく来るポルトガル人、カステラ持って只今参上』だな。」


「あれ、ザビエルはスペイン人では?」


「良いんだ。ポルトガルの王の命令で来たんだから。それに1543年に種子島にも来てたんだから。能力は、魔法とか超能力のような能力だな。」


「ん〰、だったらぁ〰、星人が怪我するかもしれないでしょぉ〰、怪我したらぁ〰治してあげたいしぃ〰。治療する能力がほしい。それと、あいつは空手が得意でぇ〰凄く強いけど多勢に無勢、いくら星人が強くても相手が多ければいくら星人が強くてもぉ〰限界があると思うの。あいつは馬鹿だから自分の力でなんとかなると思ってるかもしれないけど。」


「確かに、そんなこと言ってたな。自分の力でなんとかする、だから能力は要らないってな。」


「でしょぉ〰!だから、そんな時に私がなんとかできる能力が欲しいぃ〰。」


「だったら、攻撃魔法だな。俺の世界の人間はあまり魔法は使えないんだが転生する人間は生まれる時に魔法が使える身体にしてやることもある。だが、お前は転移するからその体は元の魔法の無い世界の身体だ。だから魔法があまり使えない。だが鍛えれば使える様になるぞ。ゲームのようにレベルアップ制にするか?アップする毎に使える魔法が増えるようにするぞ。どうだ?」


「いえ、ゲームには興味が無いので結構です。」


「そ、そうか、でも、一応付けておいてやる。見たければステータスオープンと言えば見れるから。まぁ頑張れ。最初、魔法は攻撃魔法と言えるほど強くはないぞ。」


「うん、頑張る。」


「では良い旅を。」


「ねぇ〰、言葉は通じるの?・・・ってここどこぉ〰?ですかぁ〰?砂漠ぅ〰?ねぇどこかくらい教えてよぉ〰。もしかして鳥取砂丘ぅ〰?あーなるほど、鳥取かぁー、星人は近くにいるんですかぁ〰?それくらい教えてよケチ!」


彩香は砂丘にいて既に神はいなくなっていた

彩香は人のいる村へ向かうために砂丘を歩いた。

歩き続けること丸一日、未だに彩香は砂丘の中にいた。


「砂丘じゃないじゃない‼どこよここ‼日本じゃないのぉ〰?のどが渇いたよぉ〰!」


流石にここが鳥取砂丘ではないことに気づいた。


「ネェ、神様ぁ〰、ここどこ〰、このまま行けばいいのぉ〰、合ってるぅ〰、ここ鳥取砂丘じゃないよ〰、星人ほしとは戦国って言ってたから日本だよねぇ〰、ここ鳥取じゃないならどこよぉ〰、言葉通じるのぉ〰、日本まで遠いよぉ〰。ねぇ、ご飯はぁ〰、ないと私死んじゃ〰う、ねぇ〰魔法ってどうやって使うのぉ〰、これじゃぁ〰、売るだけ売ったら、アフターサービスを何もしない悪徳業者だよぉ〰?お腹空いたよぉ〰!魔法ってどうやって使うのぉ〰?パンよ出ろ!パンでないよぉ〰!どうやればパンが出るのかわからないよぉ〰。」


彩香の苦難は終わらない・・・





「あ、水が出た!( TДT)」

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