第108話 転移
翌日、神との約束の時間が迫る中、買い忘れたものがないか確認していた。しかし、もうすべて買えるものは買った。買えないものは仕方がないと諦める。
一つ、思い出した。犬が飼いたかった。ずっと飼いたかった。小さい頃犬がいたが死んで飼いたくなくなったけどまた飼いたい。そう最近思い始めた。
近所のペットショップをこの世界の最後に見たいな。
そう思って、ペットショップへ行った。
そこのペットショップはかなり大きなペットショップで色んな子犬が販売されている。小型犬が多い。が見ていると欲しくなった。しかし、小型犬を連れていけば他の動物にやられて直ぐに死んでしまうかもしれない。だから連れてはいけない。
これ以上見ていると、連れていきそうになるからもう帰ろう。
出口を目指して歩いていると黒い犬が居る。もう大人だな。そう思いながら通り過ぎようとすると犬が吠えた。見ると、未だ子犬だった。とっても大きな子犬だ。真っ黒で大きな頭だ10キロ近くありそうだった。子供なのに。生後4ヶ月だと言うのに既にかなり大きい。太い四肢に幅広のでかい顔。怖い顔なのに人懐っこくしっぽを振って見つめてくる。暫く見ていると店員が話しかけてきた。
「この仔は、売れ残っている状態なんです。大型犬でアメリカでは一番問題の多い犬種なんです。だから飼える人もあまりいないから売れ残りそうなんです。店長が好きで仕入れたんですけど。」
「なんて種類なんです?」
「この仔はロットワイラーですね。」
「どれ位大きくなるんですか?」
「50キロ以上にはなると思います。軍用犬として使われたりするし訓練はしやすいですよ。飼い主に忠実ですし。土佐犬のように飼い主を噛むこともないです。ほぼ。」
「へー、でもおたかいんでしょ。」星人はテレビショッピングっぽく聞いてみた。
「今なら、なんと、20万でオッケーです。半額以下です。今なら、ドッグフードもおつけします。実はこれ以上いられたら食費が掛かって仕様がないんです。注射も終わってます。どうですか?お持ち帰りですか?包みますよ。贈り物でも喜ばれる?」
店員さんもテレショップ風に返してきた。
「ではお持ち帰りで。更にドッグフードを50キロほど、ノミやダニ防止する薬も1年一回で済むのを10年分。」
「どこかに行かれるのですか?薬はそれ程持たないと思います。消費期限がありますので。効果がなくなるかもしれません。」
「でも買えなくなると思うのでまとめて。効果がなくなってもその時はその時です。」
アイテムボックスで肉が腐らないのなら薬の効果も来れないだろう。
「じゃあ首輪とリードをおまけしますね。ペットシーツはどうしますか?」
「外で飼うのでいりません。」
支払いを終え、説明を受けたという書類にサインをして後は帰るだけだ。
当然ペット保険は未加入だ。
「さぁ、帰るぞ。ぽち。」
「ワン!」
ぽちとは言ったものの、ぽちという外見ではない。ぽちはボツだな。
ぽち(仮)はしっぽを振りつつ付いて来る。そのまま家まで歩いて帰った。
家に帰った星人はアマゾンで購入したCASIOのスマートアウトドアウオッチを見た。この時計は太陽光発電で充電できるしGPSで位置も確認できるので買った。買ったあとで気づいた。衛星がないからGPSが使えない。GPSがないから地図が無意味。しかし、故障した時の為に普通のソーラー電波時計も購入した。しかしこれもソーラー充電は出来るが電波で時刻を合わせる機能は使えなかった。確認すると約束の時間まで後30分と迫った頃だった。
未だ、彩香は来ていない。やはり来るのが嫌になったか親に止められたかだな。仕方がない、無理強いはできない。
しかし、一応確認しておくか。
彩香にメールすると返事がない。電話をかけたが電源が入っていない。仕方なく彩香の家に電話をかけると、暗い声で対応された。何かあったのか?とは思ったが失礼だと思い彩香を出してもらえるようお願いした。
しかし、昨日彩香は亡くなったと告げられた。
時刻的に、うちから帰るときだろう。信号無視の車にはねられたとのことだった。
星人は呆然と空を見つめた。今まではそれ程ではなかったが一緒に来てくれると言われたことで彩香をより好きになっていた。
彩香がこの世界からいなくなった。もうこの世界には居たくない。漠然と彼はそう思った。
そこへ神が現れた。
「さぁ、準備はできたか。」
「はい、準備できました。」
「どうした、なぜ落胆している。」
「少々、嫌なことがありまして。」
「そうか。まぁ向こうへ行けば忘れるさ。その犬は連れて行くのか?」
「はい。連れて行きます。」
「名前は何だ?」
「ぽち(仮)です。」
「ずいぶん和風な名前にしたな。ロットワイラーだな。だったら、頭文字を取ってロワってどうだ?」
「じゃぁ、ロワにします。」
こうして犬の名前が決まった。
「では行くぞ。」
目が覚めるとロワが顔をなめていた。流石に子犬の唾液は臭くはない。がベタベタする。
周りを見回すと、森のなかに居るようだ。当然使えないとは分かってはいるが時計のGPSで位置を確認してみた。
すると場所が表示された。京都と琵琶湖の間の山の中のようだ。
神が配慮してくれたのかな場所がわかるようになっている。取り敢えず時計のGPSで地図を確認すると琵琶湖まで直ぐだ。徒歩三十分といったところか。琵琶湖で魚を採って夕食にしてキャンプだ。もちろんキャンプファイヤーは必須だ。
「ロワ、行くぞ。」
「ォワン。」
流石に子犬だ、楽しそうに付いて来る。名前を呼ぶと必ず目を見て尻尾を振る。怖い顔だが、未だ子供だからそれ程でもない。
歩いて琵琶湖を目指しているととんでもない事に気づいた。
神と連絡を取るにはどうしたら良いんだろう。当然異世界でその世界の説明があると思っていた。が、世の中甘くなかった。何の説明もなかった。分かっていることはここが元の世界の1545年の世界だということだ。
三十分ほど走ったところで琵琶湖に到着した。
テントを張り寝る準備をした。近くから薪になりそうな木を拾ってきて焚き火の準備をした後、釣りの準備をした。
竿とリールと疑似餌や仕掛けを出し、琵琶湖に竿を垂らした。
あまり釣りはやったことがない。これから試行錯誤が必要かもしれない。
琵琶湖に向かっていると暇だ。
色んな事を考えてしまう。だけど、今頭の中を占めているのは亡くなった彩香のことだけだ。
何かをやっていれば忘れられるが釣りのように何もする事が無いとどうしても考えてしまう。なぜ信号無視の車が・・後一日早ければ死ななかったかもしれないのに。なぜ、あの世界を去る前日にあんな事が起こる。やるせない怒りが噴出する。しかし、疑問なんかない。ただ起こっただけ。それが運命だったのだろうと受け入れるしか無かった。
ただ、元気に走り回っているロワを見ると気分が明るくなる。救われる。
十分ほど経っても釣り竿が動かない。
この世界では魚が存在しないのだろうと諦めた。止めようと思った時、竿が引っ張られた。勿論ブラックバスはいない、はず。食べたら美味しい魚だろう。
竿を引き上げようとするが引っ張られる。強い。かなり大きな魚だろう。琵琶湖のナマズだろうか。ナマズって食えるの?などと考えていると魚影が見え始めた。でかい。
網は?網!ん、か、買ってない。どうしたことだ初日から買忘れを見つけてしまった。
魚は逃げていった・・・
_| ̄|○ ガクッ
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます