第103話 敗北

 十一歳の若き王明宗は驚きを隠せなかった。


「お、お前は・・・・・・・・・」


 次に続く言葉が出てこなかった。


「お前は誰だ?綺麗な外人さんだな。」明宗は単純に綺麗な千奈を見たことに驚いただけのようだ。


「(朝鮮語)【王様、何時日本の言葉を覚えられたのですか?さ、さすがです。】」


 若き王を利用して私利私欲を満たそうと考えている尹元衡イ・ウォニョンは王を持ち上げ政治を自分のほしいままに動かそうとしている。


「彼女の名前は千奈、私の名前は帰蝶よ。わかるでしょ。」


「帰蝶?織田信長の妻か?織田信長が使者を送ってきたのか。」


「(朝鮮語)【その女はなんと言っているんでしょうか。】」


「(朝鮮語)【織田信長の使者だ。】」


「(朝鮮語)【誰ですか?織田信長とは。】」


「(朝鮮語)【織田信長を知らないのか?あんなに有名なのに。】」


「(朝鮮語)【織田信長はあなたと同じ年。未だ十一歳で世には未だ知られてませんよ。】」千奈が説明を加えた。


「もうなんて言ってるの?わかりゃしないわ。」ちょっと苛ついた亜里沙だ。


「織田信長の話をしてます。歳がこの王様と同じだと教えてあげました。」


「それで、王様。あなたは神にはあったことがあるでしょ。その神があなたを外敵から守ってくれと言ったんだけどなぜ?」


「さぁ、わからないな。分かっても教えないな。俺は日本人が嫌いなんだ。日本人は俺に何をした。」


「さぁ、知るわけがない。」


「俺を罠にはめて犯罪者にしたんだ。その所為で親は夜逃げして、俺は施設に送られ、いじめられて罠にはめられて自殺するように仕向けられたから、だから、そいつを殺した。少年院に入れられ出てきたら、周りの目は冷たいわ、俺の家に火をつけるわ、警察はその放火を俺の不注意で火が出たんだと決めつける。だから俺は俺の家に火を点けたやつを二人殺した。そして俺は死刑になるところだったんだ。それが運よく脱走できて、これで自由だと思ったらこの世界の神だというやつに殺された。日本も日本人もこの世界の神も糞だ。俺は神が与えたこの力で日本と日本人に復讐する。できれば神にも復讐するがこの世界で復讐の機会と能力を与えてくれたから神への復讐は最後にしてやる。まずは日本と日本人に復讐する。お前は俺を守ると言っているが織田信長にも復讐するんだぞ。その俺をお前は助けるのか?違うだろ。まずはお前を殺して織田信長を失望させてやる。日本を征服して織田信長は殺してやる。さしずめ俺が明智光秀と呼ばれるようになるかもな。」


「復讐?あなたに酷い事を働いた私達がいた前の世界とここは違う場所だよ。お門違いよ。」


「元の世界の日本も帰れたら当然復讐するが、今は復讐できる日本がそこに在る。だからそこに在る日本に復讐する。そして、朝鮮の領土にして何度も賠償金をせしめてやる。俺はこれから日本人に復讐するが、まずはお前だ。」


 轟音と共に亜里沙と千奈に強烈な雷が降り注いだ。亜里沙のバリアを通り抜け雷は亜里沙と千奈の体に直接落ちた。


「ぎゃぁーーーーっ!!!」


 強烈な痛みが亜里沙を襲う。横を見ると千奈は既に意識がなく回路が過電流で破壊されているようだ。


 亜里沙の身体はほぼ全身が重度の火傷を負い後は死を待つのみと思われる状態になってしまった。


「おい、こんなクソガキ。外に捨ててこい。狼が食べるだろ。そっちのブロンド女はもったいなかったな。日本人じゃないだろうし。」


 亜里沙と千奈は城の外に捨てられた。

 衛兵はもったいないと朝鮮語で言いながらその場を後にした。

 辺りには肉の焼けた臭いが立ち込め、その匂いを嗅いだ狼が集まって来ている。

 亜里沙は狼が集まって来たことに気が付いてはいたが全く動けず強烈な痛みに意識をなくした。


 狼は亜里沙を食べ始めた。



 亜里沙が去った後、信長の部屋では皆で出されたスイカを食べていた。どれ位時間が経っただろうか。突然紫葵ちなが大声を出した。


「信長様大変です。亜里沙様と千奈が李氏朝鮮の王、明宗から攻撃を受けました。攻撃は亜里沙様のバリアを突き抜け直接攻撃を受けたようです。千奈は回路がショートしたと思われます。一切の通信ができませんので状況が全く判らなくなりました。すぐに助けに向かいます。信長様はどうされますか。」


「俺も行く。政勝とエリカ、お前らも来い。珠と妻木は留守番。」


 急降下で降りてきたチナチアットに乗り込むとチナチアットは上昇しそのまま大気圏を突き抜け宇宙空間を最高速度で漢城府上空まで進み、大気圏へ再突入して王城付近へやって来た。

 信長が地図で確認し亜里沙がいる場所へ来ると狼が周りに集まってきていた。信長はチナチアットから降り狼に向けアサルトライフルをフルオートで撃ちまくった。狼は驚き逃げ惑い殺され、信長に向かって来ては殺され、逃げた少数の狼以外殆どが殺された。

 信長は亜里沙に駆け寄り亜里沙を見たが到底生きているとは思えなかった。見える肌は焼けただれ、炭化している箇所もありかなりの部分を狼に食べられていた。


「アッタマ来たぁ!」怒ったのは三好政勝だった。


 政勝は迫撃砲をアイテムボックスから取り出し、王城に向かって砲撃した。しかし、砲弾は空中で爆発し王城には何らの影響も出なかった。


「何だ、あれは?バリアか?上空で爆発するぞ。」


 その後も政勝は数発の砲弾を放つがすべての砲弾が上空で爆発してしまう。亜里沙をここまでひどい状態に至らしめる能力に加え防御能力まで有るようだ。この事態に危機を感じた信長は対策を立てるために撤退することを決意した。


「おい、お前ら、ここは撤退するぞ。敵の力が亜梨沙をこんな目に遭わせるほど凄い上にこっちの攻撃も通らない。どうなってるんだ?」


 信長は亜里沙の身体を回収し、紫葵ちなは千奈の体を回収してチナチアットに戻り逃げるように飛び立った。すると、火の塊が王城からチナチアット目掛けて飛んできた。


「敵の攻撃が来ます。急上昇で大気圏外へ出ます。」


 攻撃にそれほどの速度はなく、チナチアットは迫りくる敵の攻撃を引き離し大気圏外へ出て難を逃れた。


紫葵ちな、あの攻撃は何だ?ミサイルか?」


「いえ、ミサイルではないと思われます。多分情報にないパターンですので魔法ではないでしょうか。」


 暫くすると、千奈が目を冷ました。


「お前は壊れてなかったのか?」


「壊れてません。強烈な電流が流れたので破壊を免れるために電流を遮断しました。ブレーカーのようなものです。」


「そうか、壊れてないなら良かった。狼にも食べられてなかったしな。」


 那古屋城に着く頃には亜里沙が目を覚ました。亜里沙が目を覚ますとその後は急速に身体が回復していき話せるようになった。


「何があった?」


「何が何だか。バリアを突き抜けて雷が落ちてきたわよ。心臓が止まった。止まったから力を振り絞って電流を身体に流して心臓を動かした。クっソぉ~、あいつ許せないなぁー。今度あったらぶっ殺す‼」


「気づいたか?政勝が王城に向かって砲撃したら上空で爆発した。あいつバリアも使えるぞ。凄いな。」


「何のんきなこと言ってるの。あいつは前世で人に嵌められて犯罪者にされたとかで日本人と日本をものすごく恨んでる。復讐するって言ってた。早く手を打たないと。日本が攻撃されちゃう。あいつの攻撃力は物凄かったから。こうなったら、武田義信と信行と一緒に王城を攻撃したほうが良いかも。」


「でも、神は何でそいつを助けろって言ったんだ?助ける必要もないくらい強そうだし、助けたくないくらい性格歪んでそうだぞ。」


「ホントにね〰。どうしちゃったんだろ。あの神は。」


 既に亜里沙は立ち上がり傷もなくなっていた。


「おい、一つ聞いていいか?」


「なに?」


「お、お前はゾンビじゃないよな?」


「違ぁ〰〰〰〰う‼ \(●`皿´●)」



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