第100話 コーヒー農園

 その日信長は帰蝶のことなど思い出しもせず珠、千奈、紫葵ちなを周りに侍らせながら、後方を三好政勝と妻木、アフリカからの客人二人が付き従い、さらにその後ろを琉球国王尚清とお付の者二名が後を追いコーヒー農園に適当な土地を探して首里城から北へと向かい歩いていた。


 三十分ほど歩いたところで、その場所にある野山の麓の傾斜地が良いとのアフリカからの客人の忠告でそこに農園を作ることにした。奥に川もある。


「尚清殿、ここの傾斜地に農園を造っても良いな。」


「はい。結構でございます。後で農民に開墾させますか。」


「いや、俺が開墾する。」


 そう言うと吉法師はおもむろに両手を地面につけ目を閉じる。


 すると、地面が動き始め木が移動してくる。移動して来た木は一箇所に集まり、傾斜地には何も生えていない耕された土地が残った。広さは一平方キロメートルと言ったところだ。


「木は、地元の者を使い乾燥させてくれ。建造物の材料に使う。もちろん、建造物も家具も俺とこの政勝で作る。」


 尚清は口を開け目を見開いて開墾された土地を呆然と見つめていた。


「こ、これは、一体、何が起こったんでしょうか。」


「これは魔法だな。俺は神だと言ったろ。信じるか?」


 勿論大嘘である。


「ははぁ。信じます。」


 尚清は平伏してしまった。


「面を上げよ。」信長は、水戸〇門になった気がした。


「ははぁ。」


「川が近くにあるのは分かるが、水はどうだ?常に流れてるか?」


「はい。絶えず流れております。」


「おい、助さん。」


「誰が助さんだ!」政勝が突っ込みを入れた。


「政勝だろ、まさかつ、さか、すけ。ほら助さんになっただろうが。」


「どんな理屈だ!で、なんだ?」


「アフリカの客人が住む家を俺が立てるから、川からの水路を引いてくれ。土地の位置が高ければ水車を作って水を上げてくれ。」


「承知した。」


「お前は黄門様に対して態度がデカいな。」


「お前はいつから黄門様になったんだよ!肛門様で十分だぞ。」


「煩い!さっさと行け。開墾地の終点から100メートルほどの所に川がある。」


「川のすぐ横に作ればよかったのに。」


「おい、ここは沖縄だぞ。台風の名産地だ。雨が降ったら川が溢れるかも知れないだろ。治水の為に水路を川の横に作って、大雨の時に流せるようにしておくんだ。」


「なるほど。治水は必要だな。」


「ほら、さっさと行け。」


 信長はそう言うとまた地面に両手を付けた。すると大地が盛り上がり家の形になって行った。デカい家だ。最早家と言うより大邸宅だ。洋風の建物だ。


「千奈、訳してくれ。これがお前らの住む家だ。2階建てで10部屋あるぞ。ここに越して来れば、魚は食べれるし野菜も作れるぞ。どうだ、ここで働く気になったか?」


「働きたいそうです。直ぐにでも越してきたいですが。実を採取した後で引っ越したいとの事です。」


「それでいいぞ。それ迄には家具も出来るだろ。助さんに作らせるか。」


「信長様、格さんはどうされますか?」


「そうだな、居ないな。あ、居た。一益にするか。かずます、かずさん、かくさんだな。」


「印籠はどうしますか。」


「それは大人の事情でカットだな。」


 数十分後、政勝が帰ってきた。


 今水を止めてますが、木を植えれば水を流せます。


「コーヒーの木は実を採取した後で根巻してここまで持って来ればいいか。根巻は出来るか聞いてみろ。根巻したら帰蝶に運ばせるか。(。´・ω・)ん?ところで、帰蝶は何してるんだ?」


「亜里紗様は現在行方不明です。連絡が取れません。」


「ふーん、そうか。まぁ、あいつは大丈夫だな。殺す事はあっても殺されることはないだろ。」

 信長は帰蝶に絶大の信頼を寄せているのか関心が無いのかのどちらかだろう。


「よし、これで農園の外観は出来たな。あ、塀が無い。塀を作るかちょっと待て。」


 信長はまたまた、両手を地面に付け兵をイメージし力を込めた。すると農園の端が盛り上がり高さ2メートルの塀が農園を取り囲んだ。


「よし、これでひとまず終了だ。これからアフリカまで送っていくが、千奈、場所判るよな。」


「はい。勿論です。」


 次第に遠くの上空からモーターの高回転音がし始めた。信長が上を見るとセスナが飛んで来る。数分後セスナは迷うことなく信長の近くの道に着陸した。

 降りてきたのは明の皇帝厚熜こうそうだった。隣には盧将軍もいる。


「何しに来たんだ?」


「おい、連れないな。沖縄リゾート計画をどうとか言っていただろ。どうなったかと思ってな。それと大慶油田の合弁会社についてだ。計画を具体的に練ろうと思ってな。もう一つコーヒーはどうなったのかと思ってな。」


「大慶油田?合弁会社にすることになったのか?」


「帰・・、亜里沙に聞いてないのか?」


「いや、聞いてないな。それより、どうだ?ここがコーヒー農園だ。アフリカから連れてきた彼らがここでコーヒーを作る。今後さらに広げる予定だ。」


「何?コーヒー農園?豆はないのか?アフリカで採ってきたんだろ?俺はアフリカまで助けに生かされたんだぞ。ディル、豆は持ってきたのか?」


「はい、陛下。沢山ありますよ。」


「陛下はアフリカまで行かされたのか?大変だったな。」


「なぁ、こんな暑いところじゃなくてチナチアットでコーヒー飲ませてくれよ。テレビ見ながら。」


「なんで知ってるんだ?」


「亜里沙にチナチアットに乗せてもらったぞ。」


「仕方ないやつだな。あー、そうだ。尚清殿、彼が明の皇帝厚熜だ。」


「あなた様が明の皇帝厚熜様ですか。私は明より爵位を授かっており、この冊封国を統治しております尚清でございます。」


「俺も知らなかったぞ、沖縄が明の冊封国だったとは。」


「沖縄?沖縄とは?」


「あー、琉球国だ。まぁー、これからはこの信長がここを発展させるから安心しろ。俺もたまに遊びに来るからな。」


「はい。何時でもお越しください。でも陛下は日本語が上手なのですね。」


「気にするな。元は日本人のようなものだ。」


「じゃあ、陛下、と尚清殿も一緒にチナチアットに来るか。」


「はい。お邪魔いたします。神様の乗り物ですか?」


「そうだ。神の乗り物だ(大嘘)。」


 当然貴重のように転移することができる者などいないのでチナチアットに地上二メートルまで降りてきてもらった。


「こ、これが神の乗り物ですか?どうして、地に落ちないのですか。どうして浮かんでいるのですか。」


「もちろん神の乗り物だからだ(大嘘)。だから気にするな。海の上に浮かんでいる船みたいなものだ。理屈は多分理解できないぞ。俺も出来てないけどな。紫葵、全員にコーヒーを用意してくれ。」


 ブロンドの緑の目をした紫葵がキッチンへと向かった。


「おい、信長。あれは誰だ?どこで手に入れた?日本に金髪の白人がいるわけ無いだろ?」


「あれはロボットだ。この船のAIが自由に動けるように身体を造ったらしいぞ。」


「AIが自分で体を作ったのか?大丈夫か?人間を駆逐してロボットの国を作らないか心配じゃないか?」


「それ映画の見すぎ!ダダンダンダダン・・ダダンダンダダンのやつだな。」


「おー、チャララ~~ってやつだな。」


「まぁ、帰蝶がいるから大丈夫だろ?」


「お前は帰蝶と言って怒られないのか?」


「怒られるが本人がいないからな。」


「信長殿、亜里沙さんはどこに行かれてるんですか?」


 盧将軍が会話に割り込んできた。


「今、行方不明なんだ。ここに来た時、武田義信と信行がいて琉球の人々を魔力で支配してたんだ。だから帰蝶が奴等を連れてどこかへ転移して倒したらしい。琉球の人は支配から逃れられたんだが、それから行方不明だな。ま、心配することはない。帰蝶だからな。」


「そうですね。亜里沙さんですからね。何かあれば転移で逃げてくるでしょうし。攻撃魔法が使えなくても大丈夫ですね。」


「帰蝶は攻撃魔法が使えないことになってるのか?」


「え?使えるんですか?」


「多分あいつには使えない魔法のほうが少ないんじゃないのか。」


「信長様!それは機密事項です。」紫葵が大慌てで口止めしようとするが既に手遅れだ。


「はっ、そうだった‼」


「ま、同盟国だ。気にするな。それより、那古屋城に行ってみたいぞ。」


 皇帝厚熜は気にもしていなかった。




 そしてアフリカからの客人をエチオピアまで送って那古野城まで帰ってきた。既に夕暮れで空が赤く染まっていた。帰ってきた信長一行を見つけると平手政秀が近寄ってきた。


「若様、今お帰りですか。琉球国は如何でしたか。」


「傘下に入ったぞ。首里城の近くにコーヒー農園を作ってきた。オープンするのはエチオピアの農園の木の実を全て採取した後だな。それから彼が明国の皇帝厚熜と盧将軍だ。」


「え、明国の皇帝陛下ですか?日本語は大丈夫ですか?若、殿を呼んできます。」


 その後、末森城に使いを出し織田信秀が那古屋城までやって来て宴会が始まった。明の皇帝が直接織田家にやって来たことに信秀は大いに喜んでいた。


「明日は、将軍に会いに行くか?」


 信長は、明の皇帝が来日しているのなら当然将軍にも合わせなければ将軍の顔が立たないだろうと思い提案してみた。


「いや、もうそんな暇はない。明日沖縄まで送ってくれ。それから帰る。それより、チナチアットと同じ性能でなくて良いから、作れないか。あんな飛行機。」


「チナチアットの様に浮かぶ飛行機は重力魔法が使えないと無理だぞ。重力魔法で浮かべて飛ばすんだ。重力魔法が使えないとなるとチナチアットのように反重力推進エンジンが必要だ。となると、土星まで行く必要が出てくる。」


「あー、亜里沙がそんなこと言ってたな。」


「そんなことまで話してるのか!?あいつは。何やってるんだか。しかも行方不明だし。」


 一応、亜里沙のことを気にかける信長であった。


「そうか、誰か重力魔法が使えるやつを探すか。今AIが土星まで早く行けるエンジンを開発してるんだろ?」


「帰蝶に聞いたのか?あいつそんなことまで。帰ってきたらお仕置きだな。千奈どうだ?開発の進捗状況は?」


「未だ目処さえ経ってません。」


「だそうだ。」


「千奈さん。早く開発してください。それより、俺にも千奈三号を造ってもらえないですか。」


「突然陛下が丁寧に喋り始めたと思ったらおねだりかよ。でも千奈が陛下のもとに居ると陛下の情報がうちに筒抜けだぞ。」


「同盟国だろ。それに、色んな情報を教えてもらえる。この未開の中世では得難い情報も沢山ある。しかも前世でさえ知りえない情報も得ることができる。そんな得難い情報とテクノロジーを手に入れているお前に敵対したところで勝てるわけがない。だからこその同盟だ。」


「だったら、陛下が格さんになるか?」


「なんだそれは?」


「知らないのか?世直し旅の道連れだぞ。」


「でも、印籠は出さないぞ。控えさせもしないぞ。まぁ、考えては見る。」


「でも陛下。亜里沙さんが心配です。大丈夫でしょうか。」


 盧将軍だけが亜里沙を心配しているようだ。


「盧将軍は亜里沙の部下になるか?」


「陛下にお許しを頂けませんでした(T_T)。」


「兼任したらどうだ?普通は陛下の側にいて、何かあれば助けるとか。ところで、盧将軍。良い刀持ってるな?」


「はい、亜里沙さんに頂きました。ヒヒイロカネの日本刀です。」


「俺も使ってるぞ。それに魔力を通せば固くできるんだ。便利だぞぞ。」


「僕は魔力を通せば色んな効果を出すことが出来ますよ。火を出したり雷を出したり。」


「ほんとうか?付与魔法のようなことができるのか?俺も刀から火を出したいな。盧将軍は魔法も使えるのか?」


「魔法は使えないんです。」


「でもそれが本当なら、このチナチアットの様な飛行機を持ったらすごいことになるぞ。」


「なぜでしょう。」


「だって、チナチアットは機体全てがヒヒイロカネだぞ。飛行機から火を出したり、雷を出したりできるぞ。単に機体を固くするだけではない効果が得られるな。俺も神にお願いしようかな。」


「ほ、ほ、本当ですか?陛下、なんとか早く造ってもらいましょう。凄い飛行機になりそうですよ。」


「お前の飛行機にはしないぞ、盧将軍。俺のだ。」


「えー、紫葵さん、僕にも造ってくださいよぉ〰。」


「まぁ、暫くは無理だな。そう言えば、エリカはどこ行ったんだ?もしかしてエリカは帰蝶と一緒か? 千奈、エリカは今どこにいる?」


「調べてみます。エリカは亜理砂様と共に消えられたので一緒にいると思われますが。」


 その頃、上海付近の鉱山から上海を目指して歩いている女性がいた。彼女の名前は長尾景虎。彼女は将来上杉謙信と呼ばれることになる。


「もう、どうしちゃったのよ、亜里沙は。私を置いてけ堀にして。死んだら置いてけ堀の魚になって『置いてけ~、置いてけ~』って言ってやる。そしてのっぺらぼうになって狐の面を付けて脅かしてやるぅ!」



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