第99話 李氏朝鮮

 将来、韓国のハワイと呼ばれる島、済州島。今現在はリゾートアイランドではなくただの漁村が点在するただの島であった。その海岸を三人の日本人が歩いていた。武田義信と織田信行そして伸行の奴隷となってしまった帰蝶だ。

 かつてここには耽羅たんらという王国が存在した。その跡地を利用して島民に新たに建国した国の王城を建てさせ義信と伸行はそこに住んでいた。

 三人は王城へ戻り、使用人として雇っている島民に何時ものように料理を作らせる。暫くすると使用人が魚料理を運んできた。


「帰蝶。俺は、義信と二人でこの島を征服して新たな国を建国したんだ。お前は俺の奴隷になったんだ。今後は俺に仕えろよ。いいな。」


「承知いたしました。信行様。」


「何でも言うことを聞くよな。」


「当然でございます。帰蝶は奴隷でございます故、何なりとお申し付けくださいませ。」


「そうか。では胸を出せ。」


「胸は未だありませぬ故出せませぬ。」


「では、パンツを脱げ。」


「パンツは履いてませぬ故脱げませぬ。」


「では、ブラジャーを取れ。」


「ブラジャーは着けてませぬ故取れませぬ。」


「では、服を脱げ。」


「服は体の一部故脱げませぬ。」


「では、出来ぬではないか。」


「はい、生理が未だ故できませぬ。」


「それは子供を作る為にするものではないぞ。」


「それは子供がするものではない故できませぬ。」


「俺は大人だぞ。」


「被っている故未だ子供です。」


「帰蝶、お前は俺の言うことを聞くと言ったではないか。」


「当然でございます。言うことは聞きました。ですが言った通りにするとは言っておりませぬ・・」


「ぬぬぬ・・・、怒怒怒怒ぅ・・、では、咥えろ。」


「お祖父様の遺言で食べ物以外口にするなと言われております故できませぬ。」


「では、手でしごけ。俺のは硬いぞぉ。」


「おばあさまの遺言で箸より硬い物は手に豆ができる故持つなと言われております故できませぬ。」


「うぬぬぬぬ・・・。お前は俺の奴隷だよな。」


「はい。勿論で御座います。何なりとお申し付けください。」


「俺の魔力で奴隷にされているんだよな?」


「はい。伸行様の魔力で奴隷にされておりまするぅ。どうぞ、何なりとお申し付けください。」


「ん?奴隷にされているやつが魔力で奴隷にされているとか言うか?気づかないんじゃないのか、普通?」


「いえ、そんな事は御座いません。帰蝶にも魔力があります故気づくもので御座います。」


「そうなのか?もう良い。義信、今から李氏朝鮮を攻めに行くぞ。」


「今年、仁宗が死に明宗が即位したばかりで政権が安定していない。尹任ユンイムというやつが誰かを推戴して政権奪取を企んでいるそうだ。今が漁夫の利を得るチャンスだぞ。」


「まさか、その明宗は転生者じゃないだろうな。だったらまずいぞ。何かの能力を持っているはずだ。」


「その為の帰蝶じゃないか。」


「そうだな。よし、帰蝶お前が先陣を切れ。」


「は。仰せのままに。義信、ご主人さまからの命令が下ったぞ。さぁ、行って来い、義信。」


「はぁ?俺はお前の部下じゃないぞ!まぁいい。信行、今から転移するがどこが良いんだ。」


「もちろん、李氏朝鮮の首都である漢城府だ‼」




 ここは李氏朝鮮の首都漢城府。そこで若き王、明宗は椅子に座り苦慮していた。というのも先代仁宗(明宗の異母兄)の外戚の尹任ユンイムと彼に登用された士林サリムらが鳳城君ポンソングンを推戴しようとしているとの噂があるからだ。


元衡ウォニョン、どうした方が良い?」


 今年即位したばかりの若き王、明宗は彼の外戚である尹元衡イ・ウォニョンに聞いた。明宗は今年11歳になったばかりだ。奇しくも織田信長と同じ年齢である。そう、彼も転生者だった。


「はっ。奴等を纏めて葬り去るのが宜しいかと。」


「そうか、計画しろ。」


「御意。」



 彼もあの交差点にいた。彼はその日復讐に燃えていた。彼は彼を懲役刑に駆り立てた人間に対して復讐しようと考えていた。彼は、その為に刑務所を脱獄した。結局彼に失うものなど無かった。脱獄しなければ彼には死刑が待っているだけだった。毎日朝から回ってくる刑務官。何時死刑を言い渡されるのか分からない、その恐怖。だったらここから逃げるしかない。毎日彼は考えていた。ある時、何故か扉に鍵がかかっていなかった。なぜか、周りに人がいない。何らかの力が彼を導く様に全てが上手く運んだ。奇跡でも起こったかと彼は思った。全てが彼の脱獄に手を貸すように全ての鍵が、全ての監視が彼の為に動いたように彼の邪魔をすることはなかった。そして、彼は復讐を考えながら府中の刑務所を脱獄しあの交差点へと来ていた。


 全ては異世界の神の思惑とは知りもせず。


 異世界の神は彼を脱獄させた。それはある目的の為に彼を利用する思惑で彼を異世界へと連れていく為だった。神は目的の為に彼の濁った魂が必要だった。その為に例の交差点で彼を轢き殺した。巻き添えを食らった人間も十数名いた。その人達には謝罪も兼ねて能力を与えてこの世界の新しい人生を、楽しい人生を与えた。

 信長も、信行も、盧将軍も、その魂は、只の巻き添えでこの世界にいる。


 前世の彼は善人だった。少なくとも小さい子供時代は。彼は友人に恵まれていなかった。友人は自分のことしか考えていない卑怯で矮小な人間だった。

 ある時、その友人二人は遊びで嫌いな同級生の家に火を放った。その結果など考えもせずに。

 そして、その結果、同級生の両親が死んだ。

 友人二人は結果に驚きその罪を彼になすり付けた。勿論、彼は無実を主張したが二人の主張を村人は信じた。というのも二人のうちの一人が村長の息子だったからだ。彼はまだ11歳。刑事未成年という事で処罰は免れたが暫くの入院の後、村へ帰ると、彼の両親は既にいなかった。逃げだしたようだ。

 彼と彼の友人に両親を殺された同級生は同じ施設に入れられることになった。しかし彼を犯人と思っている両親を殺された同級生はその施設で彼を虐めるようになった。

 彼は施設で暮らすにはあまりに善人だった。彼への虐めは激化する一方、彼はそれに対して反撃はしなかった。

 彼が15歳になったある日彼には好きな人が出来た。施設で一緒に暮らす同じ歳の女の子だ。彼女は彼が虐められているのを慰めた。

 それ故彼は彼女に依存し彼女無しではいられないようになってしまった。

 そんな時事件は起こった。彼が彼女との待ち合わせをする倉庫へ行くと、彼を虐める同級生が仲間と共に彼女を裸にしていた。


「おい、俺がお前の女を犯すのを見ておけ。これが俺の復讐だ。」


 そう言って、彼を二人が押さえつけ、仲間三人と彼女を犯し始めた。


 彼は暫く泣きながら泣き叫ぶ彼女と周りの男が代わる代わる彼女を犯す光景を見ていたが居た堪れなくなり逃げ出した。


 どれくらい時間がたっただろうか、その場所へ戻ってみようと彼は思った。


 未だ彼女がいるかも知れない。


 彼はその場所へ戻ると彼女と同級生が仲良さそうに話していた。


「どうだった、私の演技?これであいつは自殺でもするんじゃないの?」


「あー、もう早く死んでもらいたいよ。俺の両親を殺したんだ。自殺して貰ったら俺が殺人罪で処罰されることはない。殺すつもりで虐めて自殺に追い込んでも『ま、まさか自殺するとは思いませんでした。虐めていません。只弄っていただけですぅ。』って言えば大人はバカだから自殺と処理してくれるからな。」


「ほんとよ。はやくしんでほしいわ」




 彼を楽しく馬鹿にする彼女だと思っていた人と同級生の会話を聞いて彼はまともでいることは出来なかった。何かが弾けたと思った後、彼に記憶は無くなった。気付いた時には目の前に三つの死体があった。何処から持って来たのか彼は血の滴る包丁を握っていた。



 彼は未成年であり15歳だったことから少年院に送致されるだけで済んだ。三人に対する殺人罪と二人に対する殺人罪の未遂でだ。


 弁護士は殺人時には殺人に至った状況で精神が崩壊していたとして刑法39条の心神喪失により責任が阻却され犯罪を構成しないと主張したが、それには無理があるとして殺人罪が適用された。しかし、それに至った事情を斟酌し酌量減刑が認められることになった。その結果が少年院の送致となった。その期間は長期処遇であり、原則の2年を超え3年とされた。


 三年後彼は出院し、地元へ戻ってきた。しかし、村には彼を快く受け入れる者はいなかった。


 村は彼を追い出しにかかった。彼に対し酷い事をし続けた。当然違法と言える事もした。しかし、警察は地元の人間であり、彼の事情も知っている為、彼の味方をすることはなかった。

 彼には四面楚歌の状況が続いた。

 何かが起これば彼が疑われた。

 しかし、彼は耐えた。彼が人を殺めたことは事実だ。彼はそれを真摯に受け止めた。だから、周りの彼に対する反応は当然だと思った。だから、周りに反抗する事はしなかった。

 しかし、その彼の態度が村人の行動に拍車をかけた。

 彼は全てを録画した。録画し続けた。

 ある時村人は彼の家に火を付けた。その様子も録画されていた。

 原因は録画にあった。村人の悪事が録画されていることを知った村人が証拠の隠滅を図った。彼は録画のデータだけ持ち出した。しかし、既に家は火に包まれ彼も重度の火傷を負っていた。

 彼は火傷を負っているにもかかわらず警察にその証拠を提出した。

 その後で彼は意識を失くした。

 彼が目を覚ました時全てが終わっていた。

 犯人が逮捕されていたわけではない。

 彼が警察に提出した証拠は提出した事実ごと無くなり火事は彼の失火とされた。そして、その失火は公共の危険を及ぼしたものであり刑法116条2項失火罪により処罰されることとなった。

 失火罪は50万円以下の罰金で処断されることになる。しかし、例え罰金刑であったとしても彼はそれを納得することは出来なかった。今までも無罪であっても有罪とされた。今回は証拠があった。他人が放火したという証拠があった。確かにあった。しかしその証拠は無くなっていた。確かに警察に証拠として提出した。しかし、提出していない事になっている。村人も警察も敵だとは思っていた。しかし、それはこの村に関わるものだけだと思っていた。しかし、警察自体が彼に敵対する。確かに提出した確かな証拠を提出していないと言う。

 もう彼は生きてはいけないこの世界では生きてはいけない。彼はそう思った。

 放火で俺を陥れるのならお前らも同じ事されても文句は言えないよな、彼はそう思って行動に移した。


 その結果彼は彼の家に火を付けた二人を彼らの家に火を付け殺害した。


 そして彼は自首した。


 裁判となり、弁護士は自首による減刑を主張した。


 しかし、放火で人を殺すという行為態様が悪辣であり、自首ではあるが生じた公共の危険は大きい、例え自首であってもそれによってあがなえるものではなく極刑をもって臨むべきであるとして死刑を宣告された。


 そして、彼は脱走しあの交差点で神に轢き殺された。


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