第98話 琉球国第四代国王尚清

翌日、信長一行とアフリカからの客人二人はチナチアットに乗り込んだ。


「「おかえりなさいませ。」」


何時もと違うスピーカーからの音声ではなく肉声、しかも二人の声が聞こえた。


「誰だ?千奈か?」


「はい。千奈と紫葵ちなです。」


「ほう、今気づいたが第二次大戦はナチ(Nachi)が戦端を開き、未来はそれを逆にしたChinaが戦端を開きそうだな。それを名前にした千奈は縁起が悪そうだ。」


「改名しますか?」


「どうでもいい。縁起など他人が考えたことだ。気にするな。」小さなことは気にしないワカチコな信長であった。


お前が言ったんだろ!と突っ込みたかったが突っ込めない千奈だった。

千奈も紫葵ちなも信長の希望で高身長でスタイルが良い巨乳の美人だった。しかし、千奈がプラチナブロンドの青目で紫葵ちながブロンドの緑目だという違いは在った。


「どっちが本体だ?チナチアットのAIか。」


「どれが破壊されたとしても千奈としての記憶も残りいろんな機械を制御することもできますので全てが本体だと言えます。ただし、サーバーと言えるものがチナチアットに存在しますので、そこに保存された大量のデータは消えてしまいます。ですので、早急にサーバーの複製を急ぐ必要があるかもしれません。現在の技術ではこの飛行機は壊されないでしょうけど、何があるかわかりません。実際、西暦2200年の技術で作られた私がここに存在するわけですから。」


「二体いるのは一体は帰蝶が連れて行くのか。もう一体が俺の側にいる訳か。」


「はい。一体ではなく一人と言ってください。」


「ねぇ、ダーリン。帰蝶という名は変だと思っていたんじゃなかった?」


「ただの記号だろ?」


「はぁ?変だと思ってたと言ったり記号だと言ったり、もうその名前で呼んだら許さない!亜里沙って呼ばせる!」


「分かったよ、そんなに怒るな。じゃぁ、日本にいるのが千奈か?」


「いいえ、日本にいるのが紫葵ちなです。」


「まぁ、なんでも良い。ただの記号だ。」


「亜里沙様、記号だと言われるとムカつきますね。」漢字の千奈が苛ついた。もうひとりの紫葵ちなは信長と一緒にいる配慮からかムカついた顔はしているが何も言わなかった。


「でしょ!あいつ、まじムカつく。本能寺の木魚に頭をぶつけて死ねばいいのに!」


「おい、おい!千奈沖縄に早く行ってくれ。」


「はい。本日はアフリカからのお客様に日本を見て頂きたくこれより日本の名所を回りながら沖縄へ向け飛行してまいります。まずは三階の展望室へお越し頂き、そこから御覧ください。」


「おー、金髪のバスガイドみたいでいいな。」信長は満面の笑顔だ。


全員が三階の展望室へ行くと、既にそこには座りご事の良さそうな革張りのソファーが並べられている。そこへ思うままに座ると紫葵ちなが説明を始めた。


「左手に見えます大きい湖が琵琶湖でございます。」


「おー!広いな。初めて見たぞ!」信長はなかなかノリが良く、本当に楽しんでいるいるのだろう。


展望室は飛行機の後端にあり、後ろ向きに座っているので左手に琵琶湖が見えることになる。


ふと気づけばアフリカからの客人が、外の景色を見ずに震えている。千奈が気にかけ話しかけた。


「(エチオピア語)どうしましたか?」


「(エチオピア語)俺たちは空にいるのか?どうなっている。」


「(エチオピア語)大きな鳥で飛んでるんですよ。」


「(エチオピア語)あー鳥に乗ってるのか。落ちないのか?」


「(エチオピア語)大丈夫ですよ。この国の景色をお楽しみください。」


千奈が和菓子と日本茶を運んできて、全員に配るとアフリカの客人は初めて食べた和菓子が大層お気に入りだったようだ。


「現在京都上空を飛行中です。これから飛行機は南へ向かいます。他によりたい所があれば向かいますが、信長様ありませんか?」


「沖縄へ向かっていいぞ。それより沖縄はどうなってるんだ?」


「現在未だ混乱の最中のようです。ドローンに監視はさせてますので情報は入ってきてます。」


「武田義信と伸行はどうなった?」


「不明です。探しますか。」


「そうだな。ドローンで探せるか?」


「はい。亜里沙様のご命令でハヤブサのドローンを作成しましたので。」


「亜里沙、お前、そんなドローンを作らせてたのか?まぁ、褒めて使わす。」


「ははーっ、有難き幸せって言うか!感謝しろよ。後、ツバメも作らせたわよ。」


「ツバメもか。それより、沖縄をどうするのが良いと思う。」


「このままこの飛行機で行って首里城に乗り付けます。すると琉球王国の人々は神が降臨したかと思うはずです。そして信長様が国を治め混乱を鎮め国を豊かにすると宣言するのです。すると、混乱で途方に暮れている首里城の人は信長様の言葉に乗っかるはずです。到着しましたのでこのまま地上10メートル上空に止めますの十分人が集まったところで重力魔法でゆっくりと神々しく降りてください。もちろん効果音もつけます。効果覿面てきめんですよ。」


信長は地図で降りる場所と、どれ位の人がいるのかを確認した。するとその中に不審な人物がいるのを見つけた。


「おい!大変だ。人の集団の中に武田義信と伸行がいるぞ。帰・・亜里沙、やつ等を転移させることは出来ないか。」


「転移させても、伸行の能力で首里城の人は支配されてるんじゃないの?殺すしか無いわね。私が二人と一緒に転移して痛めつけてくる。支配が解けたら着陸して‼」


次の瞬間には亜里沙はいなくなっていた。地図に武田義信と織田伸行の反応も消えた。地図でわかる範囲内にはいない。

 暫くすると先ほどまで静寂に包まれていた首里城が喧騒に包まれていた。どうやら、伸行の支配が解けたらしい。何が起こったのかわからず困惑しているようだ。


「どうやら、支配の魔法が解けたようです。今です。全員で降りましょう。信長様重力魔法で全員をゆっくりおろしてください。」


全員で一列に並び信長の重力魔法でゆっくりと地上へ降りて行く。もちろん、後光の演出を忘れない。音楽も荘厳な音楽を流す。


「チナ、俺の声を拡声できるか?」


「はい。どうぞ。」


「(拡声中)皆の者、我は神なり。この地を支配する為に今地上に降り立つ。我の言うことに従え。了解すれば跪け。」


少々エコーの掛かった拡大された信長の音声が首里城に響き渡った。荘厳な音楽と相まって琉球国の人々を心酔するに至らしめる十分な効果があった。


人々は跪き始めた。


信長たちがゆっくりと地上に降り立つ頃には、ほぼ全ての人々が跪いていた。


その中に周りより上等の服を着ている王と思しき者に彼は話しかけた。


「お前が琉球国の王か?」


「はい、そうです。」


もちろん千奈が通訳している。


「今日からこの地を俺が支配する。もう先ほどの二人は消えた。安心するが良い。」


「さっきの奴らが支配してもあなたが支配しても俺には変わりませんが。」


「まぁ、そういうな。俺が、この土地を豊かにする。作物を作り、観光業は発展させる。明からも客が来るからホテルも作るぞ。」


「ホテルとはなんでしょうか。」


「宿の大きいやつだな。お前は今までどおり王として雇うから琉球国を監視しろ。指示は俺が出す。取り敢えず執務室はどこだ。そこへ行くぞ。」


信長一行は執務室へと向かった。執務室に座るとお茶が各人に振る舞われた。そこで信長話し始めた。その時既に、人々は亜里沙のことはすっかり頭になかったのだが・・・


「琉球国王、お前の名前はなんだ?」


「琉球王国第二尚氏王統の第四代国王、尚清しょうせいです。でも、ここは明の冊封国です。私も明の皇帝から冊封を受けて明の臣下となっています。明と戦になりませんか。」


「大丈夫だ。明の皇帝は友人だ。先日も一緒にここに来たぞ。しかも皇帝は琉球国が冊封国だと知らなかったぞ。その皇帝厚熜こうそうが俺がここにホテルを建てたら遊びに来ると行ってたんだから大丈夫だ。何らな皇帝をここに連れてくるぞ。」


「いえ、滅相もございません。連れてきて頂かなくとも信じます。」


「まずは、ここ琉球国にコーヒー園を作る。そしてホテルを建てる。ホテルは明の皇帝を迎える為のホテルだ。豪華に建てる。俺が立てるから尚清しょうせいはのんびりここで寛ぐかホテルか農園ができるのを見に来い。」


「承知いたしました。」


一方その頃、中国の上海近郊の鉱山では武田義信と織田信行が悪巧みに花を咲かせていた。


「はーっ、はーっ、やったぁ!やったぞぉ!」


伸行は体全体で喜びを表現していた。


「やったのか?本当に帰蝶がお前の奴隷になったのか?」


「あーそうだ。俺の全力を使った。これで帰蝶は俺の言いなりだ。胸を出せと行ったら胸を出すぞ。まぁ、未だ胸はないが。」


ばきぃっ‼


伸行は帰蝶に殴られていた。


「どうして殴る?お前は俺の奴隷だろう?」


殴られた左頬を左手で抑えながら涙目になった伸行が帰蝶を問い詰めた。


「いえ、なぜだかわかりません。無性にそう行動しなければいけないような気がして・・・」


帰蝶の目はうつろになっていた。

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