第97話 コーヒーが飲みたい 6

 中国明朝の北京、その紫禁城。時間は既に午後二時を過ぎている。後に天安門と呼ばれることになる承天門前に二人の男が立っていた。


「おい盧将軍、ここは何処だ?」


「はい、ここは承天門ですね。」


「御花園までどれ位だ?」


 御花園とは明王朝の歴代皇帝が、后妃達と遊楽をして過ごす場所だ。


「はい五キロ以上ありますね。」


「あの野郎、御花園に転移すれば良いものを!」


「はい、お茶目ですね。」


「どこがだ!おい、門番開けろ!」


「ん、誰だ?あ!へ、陛下。こんな時間にこんな場所で何を?」


「良いから、開けろ!」


 そして、彼らは全ての門でこの遣り取りを繰り返しながら五キロの道程を歩いて御花園まで帰るのであった。



 一方、エチオピアの亜里沙達はコーヒーを求め待ちをさまよっていた。


「ちょっと、どういう事?誰もいないじゃない。」亜里沙は苛ついていた。


「多分、オスマン帝国兵の所為でどこかへ避難しているんじゃないの?」エリカも直射日光の強烈さで苛ついている。


「私、帰って良い?」ディルは既にやる気が無くなっていた。


「千奈、近くでコーヒーの木が生えている場所わかる?」


『では、ハエ型ドローンを多数飛ばし探索します。少々お待ちください。』


「もう少し速そうなのないの?例えばツバメのような速そうな鳥とか。」


『制作してみます。大きいと本物との違いを少なくするために時間がかかります。鳥の種類はツバメで良いでしょうか?』


「だったら、ツバメとハヤブサでお願い。」


『承知いたしました。話している間にハエ型ドローンがコーヒーの木を発見しました。案内します。』


 するとハエ型ドローンがやって来た。


『付いて行ってください。』千奈が促す。


「皆行くわよ。」


「「はーい。」」低い声で返す二人。二人ともだれている。


 ドローンに付いていくと赤い実を付けた木が沢山あった。


「これがコーヒーの木?」


『そうです。赤い果実の種がコーヒーです。』


「どうやって種を採るの?」


『売れた果実を乾燥させて種を採るようです。』


「え?て、手作業?」


『はい。ただ、乾燥させた後に種を採る機械は製造可能です。』


「直ちに、製造開始して。でも誰もいないから実を誰から買えばいいの。苗はないのかな。千奈、近くに誰かいない?」


『そこから、西へ300m行った農園の端に小屋が有るようです。そこに二人存在しています。』


「じゃあ、そこへ行くから訳してね。」


「早く行こうよ。早く行って早く終わらせよう。」エリカは早く終わらせて暑さから逃れたいようだ。


「ねぇ、私病気みたい。私飛行機に戻ってていい?」ディルは仮病で楽する方法を選んだ。


「ほんと?だったら、紫禁城まで送るから。今日は自宅でゆっくりしてなさい。」亜里沙は仮病とは思いつつも優しく提案した。


「え?コーヒー飲んで甘いもの食べながらドラマみたいよ。」


「あんたは病気なんでしょ?ドラマなんか見たら悪化するよ。」


「もう治ったみたい。さぁ、行くよ。」


「どんだけ現金なんだよ。こりゃ、唐の武則天みたいになるんじゃないの?」


武則天とは我儘の限りを尽くし中国の三大悪女と呼ばれる中国史上唯一の女帝だ。


「誰?武則天て?」


「すっごい美人だったらしいわよ。」


「なるほど!だったら私は武則天みたいになるというより、もうなってるよ。」


「そうだね。既に武則天級の自分勝手さだね。」


「なによそれ。似てるのは綺麗なところだけだよ。」


「自分で言ってりゃ世話ねぇわ!」亜里沙は既に呆れていた。こりゃ、ダーリンの側室にならなくてよかったと本気で思う亜里沙であった。


 くだらない話でディルをディスりながら歩いていると小屋についた。中の二人は三人に気づいたのか、外を確認し、三人が兵ではなく若い女性であることを確かめると中から恐る恐る出てきた。二十代後半の男女で夫婦のようだ。


「(エチオピア帝国語千奈訳)こんにちは。コーヒー豆とコーヒーの苗を売っていただけないでしょうか。」


「(エチオピア帝国語千奈訳)ほ、本当かい?今年はオスマン帝国の兵士がここら一帯に入り込んで暴れまわってるから、もう売れないと思ってたんだ。」


「(エチオピア帝国語千奈訳)オスマン帝国兵ならもう倒したからいないですよ。」


「(エチオピア帝国語千奈訳)もういないのかい?よかったぉー。じゃあ、安くしておくよ。」


「(エチオピア帝国語千奈訳)あ!お金持ってません。」


「(エチオピア帝国語千奈訳)それじゃ、売れないけど。兵士を倒してくれたお礼に少しなら分けてあげるよ。」


「(エチオピア帝国語千奈訳)だったらきんならどう?お金の代わりになるでしょ。」


「(エチオピア帝国語千奈訳)きんなら大丈夫だよ。」


「(エチオピア帝国語千奈訳)ちょっと待ってて。」


 そう言うと、亜里沙は消えてチナチアットへ転移した。


「千奈、きん用意して。」


『既に用意してあります。金の延べ棒100g2本です。これで2020年の価値でなら約100万円です。』 


「100万円なら、かなり買えるよね。じゃ、行ってくる。」


 亜里沙はコーヒー農園の小屋へと転移した。


「(エチオピア帝国語千奈訳)おまたせ、金100gあるよ。これでどれだけ売ってくれる?」


「(エチオピア帝国語千奈訳)え?こんなに?こんなにあれば、この農園が買えるくらいです。」


「(エチオピア帝国語千奈訳)だったら、ここ政情不安定でしょ?オスマン帝国攻めてきてるし。うちにコーヒー農園作るからそこで働かない?給料はたくさん出すから貧乏暮らしとはさよならできるよ。どう?」


「(エチオピア帝国語千奈訳)本当ですか?ですが、今日初めてお会いした人を簡単には信用できません。」


「(エチオピア帝国語千奈訳)そうですね。今日はコーヒー豆と苗を売って頂いて、後でその苗を育てる場所を見ていただいて判断していただきましょう。家も用意しておきます。数日ください。また来ますので。」


 ありさは普通に話しているのだが、千奈が丁寧に訳しているので敬語になっている。


「(エチオピア帝国語千奈訳)コーヒー豆は実ではなく乾燥させて豆にしたものが良いですよね。」


「(エチオピア帝国語千奈訳)それでお願いします。今何キロくらいありますか。」


「(エチオピア帝国語千奈訳)今200キロ位ですね。」


「(エチオピア帝国語千奈訳)では、全部頂けますか。」


「(エチオピア帝国語千奈訳)ではすぐに用意します。」


 亜里沙は、日本でコーヒーを流行らせ恒久的にコーヒー豆の重要を確保しようとしていた。その為に今回の豆を殆ど味見用に使うつもりだ。


 暫くすると、夫婦がコーヒーを台車のようなものに乗せてやって来た。


「(エチオピア帝国語千奈訳)こちらが、生豆200キロです。」


「(エチオピア帝国語千奈訳)ねぇ、すぐそこだから一度うちに来てみない?晩ごはんごちそうするわよ。」


「(エチオピア帝国語千奈訳)え?本当ですか?オスマン帝国兵の影響でここ最近ご飯がまともに食べれてないんです。本当にご馳走になってい良いんですか。」


「(エチオピア帝国語千奈訳)もちろんよ。」


「(エチオピア帝国語千奈訳)この豆はどうやって運ぶんですか。」


「(エチオピア帝国語千奈訳)私が乗り物まで持っていくから一緒に来て。それとすぐお風呂に入ったほうが良いわね。千奈お風呂用意しておいて。」


『承知いたしました。』


 こうして、三人と夫婦はコーヒー豆200キロと共にチナチアットまで転移した。転移した理由は、UFOの様な飛行機が降りて来たら夫婦は絶対怖がって乗ってくれないと思ったからだ


「(エチオピア帝国語千奈訳)ここは何処ですか。」


「(エチオピア帝国語千奈訳)船のような乗り物の中よ。お風呂に入って。着替えも用意しておくから。お風呂の入り方は千奈が声で教えてくれるから。千奈は召使いのようなものよ。」


 こうして夫婦がお風呂で寛いでいる間に生豆を少々焙煎していると夫婦が風呂から上がってきた。夫婦にはお茶と食事を提供しリビングで寛いでもらっている間に那古屋城に到着した。

 

 那古屋城へ到着すると機体を地上3m付近に浮かべて地上へ降りる。信長の部屋へ行くと、何時いつものように信長は珠と三好政勝と妻木と4人でスイカを食べていた。


「コーヒー買ってきたわよ。」


「本当か?待ったぞ。ところでその人達は誰だ?」


「この人達は、エチオピアのコーヒー農園の人達よ。沖縄にコーヒー園作るでしょ?そこの管理をしてもらうために雇おうと思って。実際にこっちに来てもらうのは今コーヒーの実が付いてるからそれをすべて収穫してからということになるけど、エチオピアは、エチオピア帝国とオスマン帝国の争いが今後激化するから、もしかしたら早まる可能性もあるのよね。だから、早めにコーヒー農園の場所確保して農園の整備して。」


「そうか、じゃあ、明日一緒に行くか。」


「(エチオピア帝国語千奈訳)この人が私の旦那この国の王子様?みたいなものよ。明日一緒に農園の場所見に行くけど希望があったら言って。今日は、ここに泊まって明日、現地視察のあとで送るから。」


「(エチオピア帝国語千奈訳)はい。お願いします。新しい場所を見てみたいです。コーヒーの栽培に適した土地かどうか見てみたいです。もし適していない場合変更も可能ですか。」


「(エチオピア帝国語千奈訳)もちろんよ。だって未だ決まってないんだから。かなり暑い場所ね。暑いほうが良いんでしょ。」


「(エチオピア帝国語千奈訳)まぁ、限度はありますが。」


「(エチオピア帝国語千奈訳)もう夕方ね。晩御飯だけど食べれる?さっき食べたばかりだから。」


「(エチオピア帝国語千奈訳)そんなに頂けるんですか。」


「(エチオピア帝国語千奈訳)当然でしょ。」


 そして、那古屋城ではアフリカからの客人のために宴会を催し、宴会は夜更けまで続いた。明日はコーヒー農園の用地視察だ


亜里沙はふと気づいた。


「ところで、ディル?あなた帰らなくてもいいの?」


「ん?・・・・」ティルは味噌カツを口に詰め込んでいた。


あまりの居心地の良さに帰りたくないディルラバであった。


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