第101話 行方不明のエリカ

 ここはフランスの南、神聖ローマ帝国の西に位置する国、サヴォイア公国、サボイア公爵の治める国。そのサヴォイア公爵の家ではある問題、と言う程でもないが話題が持ち上がっていた。


「お父様、ホームステイするという女の子はどうなったのですか。予定ではもう来ているはずですが。」


サヴォイア公爵の長女のセリアが父のシャルル・ド・サヴォイア公爵に来ているはずの女の子二人について聞いてみた。


「それが、神の依頼でちょっと遅れるらしいんだ。一週間のうちには終わるだろうということだったんだが。」


「そうなんですか。アレックスと同じ学校に通うんですよね。」


アレックスというのは彼女の妹でアレクサンドリーヌ・ド・サヴォイア、サヴォイア公爵の次女でマルガリータ・ド・サボイのクラスメイトだ。


「そうだ。そこで魔法の勉強をするらしい。」


「試験は通るのでしょうか。試験は例の事件以来入学者を厳しく査定するようになったとアレックスが言ってました。」


「転生者だから大丈夫じゃないのか。」


「転生者でも大きい魔力が在る者は少ないと聞きます。在っても土魔法とかバリアとか火を点けたり、飲水程度を出したりが殆どで攻撃魔法を持つものはほぼ居ないと聞きます。私が知る限りマルガリータしか知りません。」


「だが、普通の人でも炎を出せれば合格するんだから、転生者ならそれくらいは簡単だろう。」


するとそこへ、これから学校へ向かおうとする妹のアレックスがやって来た。


「アレックス、うちにホームステイしてお前の学年に転入することになる娘が来るのが数日遅れるようだ。同じクラスになったら仲良くしてやれよ。」


「えェ〰、私はSクラスよ。選ばれたSクラスなの。今度来る娘がどんなに魔力が在っても、火を点けるのが関の山でしょ。」


「お前はどれだけ選民思想が激しいんだ。」


「選民思想ではなくって、自分の努力がプライドを生んでるのよ。必要なことだよ。努力の証よ。まぁ、運良く同じクラスになれたら仲良くするよ。」


アレックスは転生者ではないのでは二人は転生に関わることは内緒にしている。おかしいと思われるからだ。


ともかく、ホームステイの女の子が来るのはもう暫くかかりそうだ。




そのころ信長はチナチアットで夜間飛行を楽しんでいた、訳ではなくエリカを探していた。亜里沙は行った場所にしか転移していないので、そこを探す。そして、琉球国から付近を調べた時に居なかったからそこも除外。日本は千奈が新たに造ったハヤブサ型ドローンを飛ばし探索。チナチアットは材料を手に入れる為に行った上海近郊の鉱山と北京を探すことにした。もちろん、皇帝厚熜こうそうも盧将軍もディルも一緒だ。皇帝のお付の者はふたりとも執事だが歳なので那古屋城に残っている。


「どこを探しに行くんだ?」


厚熜が信長に話しかける。


「まずはこの飛行機の材料を収集した上海近郊の鉱山だな。次は北京か。」


「この間、ウイグルに助けに来てもらったぞ。」


「ウイグル?何してたんだ?」


「このディルを見つけに行ってたんだ。」


「いえ、セスナでドライブしている時に私がウイグルには美人が多いという話をしたら陛下がウイグルの砂漠にセスナを止められて。」


盧将軍が説明する。


「あー、それで動けなくなったんだろ?不便だな重力魔法がないと。」


「ホントだぞ、俺にくれよ、それ。」


「いや、それ無理だから。」


「それで、その時にウイグルでディル様を発見されたんです。」


「人を遺跡みたいに言うなぁ‼」ディルは次第にその性格を表に出してきた。


「ディルは既に中国の悪女だな。東太后と呼ばれるように紫禁城の鍾粋宮ジョンツイゴンに住まわせてやるぞ。」


「信長様もう直ぐ上海付近です。下降しますので付近の探索をお願いします。」


千奈に促され信長は付近の探索を始めた。


「お!居たぞ。西南西へ向かってくれ。」


十数キロ西南西へ低空で飛行していくとエリカを発見した。エリカもこちらに気づいたようで手を降っている。千奈は飛行機を地面付近まで下降しエリカを乗せた。


「もう、どうしてこんなに遅くなったの?このチナチアットがあればすぐに探せるはずでしょ?」


「いや探す場所が多すぎて最後にここに来たんだ。」


まさか、存在を忘れて宴会をしていたとは言えない。信長は話題をそらすことにした。


「それで、亜里沙はどうした?」


「それが大変なの!それも教えたかったから急いで探してほしかったのにぃ!亜里沙が信行の奴隷にされちゃった。」


「え、何だって?奴隷になったのか?」


「そうよ。それでどこかに連れて行かれたの三人共消えちゃったのぉ!」


「じゃあ、二人は死んでなかったのか。でもなんで琉球の人に掛かった魔法が解けたんだろ。」


「亜里沙は大丈夫かな。」エリカは泣きそうな顔で心配している。


「あいつは大丈夫だ。以前も奴隷になった振りをしていた事があったぞ。まぁ、本当に奴隷になったとしても大丈夫だ。死にはしないだろ。三人はどこに行ったかわかるか。」


「何も言ってなかった。」


「千奈、ハヤブサ型ドローンは今何機製造した?」


「未だ一機です。早急に製造します。」


「いや、それより衛星を先に作ったほうが良くないか?帰蝶なら大丈夫だろ。」


「いえ、どんな不慮の事態に陥るかわかりませんし、既に不慮の事態に陥っている可能性すらあります。」


千奈は信長の不安を煽って亜里沙の捜索を促そうとしたが、信頼しているというより、単に死んでほしいのかと思ってしまうほど信長の態度は冷たく頑なだった。


「いや、帰蝶なら大丈夫だろう。後回しだ。それより優先されるべき事がある。衛星を造れ。それが無いとヨーロッパと連絡が取れないだろ。」


千奈は亜里沙が居なければヨーロパもないだろうとは思ったが頑なな信長の態度を軟化させるの無理だと諦めた。



次の日、李氏朝鮮の首都、漢城府を三人の日本人が歩いていた。彼らは未だ子供で月代さかやきを剃っている訳でもないので今は普通の頭にしていて、チョゴリ(上衣)とバジ(下衣)にマゴジャ(重ね着する上着)を着ている。帰蝶はチマ(裳)とチョゴリを着ている。顔はあまり変わらないので服が同じだと話さない限り朝鮮人でないとは気づかれない。


「信行、これからどうするんだ?」武田義信は不安な顔で造った国の王であり参謀役の織田信行に計画を聞いてみる。


「俺達には、義信と帰蝶がいる。二人で王城を攻撃してもらう。まずは、門番が入れてくれる所まで入って、門番に止められたら強行しろ。相手を殺しても構わない。最終的に王を人質にしろ。民衆の前で殺してこの国を俺たちが奪取したことを国民に知らしめる。」


「大丈夫か?」義信は訝しげだ。


「おい。お前に加えて帰蝶まで居るんだぞ。この国の王城なんて一瞬で消しされるぞ。失敗したら日本まで転移すれば良いんだ、気楽にやれ。」


「わかった、やってみるぞ。」


武田義信はここ最近負け続けたことですっかり自信をなくしていた。逆に勝ったことがない織田信行は負けることに慣れているので落ち込むこともない。気概に富んでいる。


「帰蝶。まずはお前がやってくれ。」


「はい。ご主人様。それで何をやれば良いんでしょうか。こんな屋外では恥ずかしくってできません。」


「あの、お城を攻撃しろと言っているんだ。」


「お城でしょうか。天守閣がないからわかりません。」


「中国のお城と似ている城だ。」


「紫禁城でしょうか。そんな大きな城はありません。」


「いや、大きさじゃないが。小さいやつだ。」


「ご主人様のナニを攻撃するんでしょうか。」


「俺のの大きさは関係ないだろ!」信行は目を剥き怒った。


「だったら、義信のを攻撃するんでしょうか。」


しもの話はやめろ。しもは攻撃しなくていい。」


「え?しろは攻撃しなくて良いんですか?では、お疲れ様でした。帰ります。」


帰蝶は転移して戻っていった。



ここは残暑厳しすぎる尾張、那古屋城の信長の部屋。信長とその他の面々に加え明の皇帝厚熜こうそうが帰る準備をしていた。


「じゃぁ、そろそろ帰るか。じゃぁ、千奈さん。沖縄まで送ってくれるか。それと千奈三号を早めにお願いします。えーと、顔は洋風で。どうも中国にいると洋風の顔が恋しくなる。」


「でも結局、亜里沙さんには会えませんでしたね。」


盧将軍は寂しそうだ。


「あれ?厚熜くんまでいる。陛下、盧将軍先日はありがとうね。」


突如亜里沙が転移してきた。



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