第75話 大船団

 中国の朝はもやが掛かっているイメージがある。しかし、どこもかしこも靄がかかっている訳ではない。少なくともここの草原は晴れ渡ってもやも霧もなく視界は良好であった。


 吉法師一行は外で朝食を食べていた。


「今日午前中に材料採取して政勝のアイテムボックスに保存。午後から信行を探しに行くわよ。私は魔力集積装置に魔力を溜めておくから。」


 一行の中で唯一アイテムボックスの能力を持っている三好政勝は便利な荷物持ちと言える。


「どこにいるか分かんないだろ。」


「だからここから東に行けば九州だから南東へ進んで沖縄から貴方の地図の能力で探せばどこかで見つかるんじゃない?」


吉法師の地図の能力では狭い範囲だが誰がどこにいるのかがわかる。


「だったら試運転がてら行ってみるか。じゃあ、午前中は資源採集だな。出来ればきんが欲しいな。鉱物を取り尽くしてしまえばエリカがいた中国が世界を支配する世界のような未来にならないかもしれないな。」


 午前中、鉱物や貴金属、レアメタル、木材を採取した。その後、一行は外で昼食を食べている。


「帰蝶、どれくらい魔力溜まった?」


「まだ30%くらいね。大丈夫かな。その時は残った魔力で尾張まで転移すればいいか。でもこんな巨大なもの転移させられるか不安。既にかなり魔力使って減ってるし。飛行中二人は魔力を充填しててね。さぁ、出発よ。」


 五人はƆINᏌ⊥IᏌ⊥チナチアットに乗り込むと全員が操縦室に座った。操縦室にも他の部屋にもヒヒイロカネむき出しの無機質な空間になっている。今後は木材を使いフローリングや家具を作っていく予定だ。


「さぁ、出発するわよ。」


 帰蝶は魔力を込めて行く。しかし、加減が分からない。機体は一気に1000メートル上空まで上がったところで帰蝶が魔力を緩めたため停止した。


「こ、殺す気かヽ(`Д´)ノプンプン‼」


「ごめんなさいいぃ。m(。≧Д≦。)mスマーン!!」


「帰蝶様、珠と妻木が気絶してます。ァタフタo(゚ω゚;;;)o(;;;゚ω゚;;;)o(;;;゚ω゚)oァタフタ」


「漏らしてないでしょうね?」


「心配するとこそこ?∑(`□´/)/ ナニィィイイイ!!?鬼か‼ (-"-;) 」


「今1キロ上空よ沖縄まで距離800キロ。速度がどれだけ出るか実験するから。行くわよ。」


 機体は、帰蝶の意気込みに比例して一気に加速していく。


「今200キロ、400キロ、800キロ、1200キロ、音速越えたわ。1600キロ、2000キロ、マッハ2越えた。2800キロ、3000キロ。」


破裂音と共に音速を越えた機体はそれでも加速し続けていく。


「おい、帰蝶沖縄越えたぞ。」


「ほんと?ちょっと操作に夢中で。」


 20分ほどで沖縄を越えてしまったので帰蝶はUターンして戻り始めた。


「帰蝶、100メートルくらいに下げてくれ。」


「了解。沖縄本島が見えてきたわ。」


「違いますよ帰蝶様。琉球国ですよ。」


「じゃあ、那覇近辺から北上するわよ。どう、ダーリン信行いる?」


「いないな。北上してくれ。速度は時速200キロ位で良いぞ。」


 一行は時速約200キロで北上し、吉法師は地図で信行を探し続ける。2時間ほど北上すると屋久島の手前数キロの所に100隻はいると思える大船団がいた。


「いたぞ、信行。あの大船団の中にいるぞ。でもあの大船団は明の侵略船団じゃないのか?」


「ちょっと、信行連れて来るわ、ちょっと近づいてどの船に信行がいるかだけ教えて。チナチアットはホバリングしておくから。」


「もっと前だな。あれだ。あの赤くてデカい旗がはためいてる一番巨大な船だ。」


「じゃあ、ホバリングするわよ。待ってて、行って来る。」


 そう言うと帰蝶は消えて行った。



 一方、明の大艦隊の一番デカい指揮官の乗る船ではちょっとした騒ぎが起こっていた。

「(中国語)【大変だ!上空に何かが飛んでる。竜の化身かも知れない。】」


「外が騒がしいな。村長、あいつは何て言ってるんだ。」織田信行は連れて来ている村長に通訳して貰っている。


「何か飛んでるらしいな。何だろうな。」村長も訝しがっている。


「よし、義信、見に行くぞ。」


 織田信行は武田義信を誘い外へでた。兵たちが見ている方角を見ると上空に丸い物体が浮かんでいる。


「おい、義信、あれを見ろ!」


「UFOだ!UFOだぞ信行。」


「宇宙人がこの大船団を見ているのか?どうしよう、義信。宇宙人に誘拐されたら。」義信は半分泣きそうな顔をしている。宇宙人が怖いようだ。


 すると目の前に突然見た事のある少女が現れた。

 よく見ると先日痛い目にあわされた帰蝶だった。


「ひっ!帰蝶だ!な、何だ、何しに来た?」信行も義信も戦争を仕掛けているのだが突然現れた恐ろしい帰蝶にビビりまくっている。


「ちょっとお願いがあって来たの、信行、一緒に来て。義姉の言う事は聞けるでしょ。」


 そう言うと帰蝶は相手の返事も聞かずに強引にチナチアットまで転移した。


 チナチアットの中は未だヒヒイロカネむき出しの状態でありカー〇船長の運転するエン〇ープラ〇ズの様に無機質な内装だ。信行は突然変わった風景に、しかも戦国時代にもかかわらずSFチックな光景に現状把握できずに茫然と周りを見回していた。


「信行、久しぶりだな。お願いがあるんだが。ちょっと魔道具を作ってくれないか?」


「あ、吉法師!ここはどこだ?俺を攫ったのか?何でお願いを聞かなくちゃいけない。俺の船団を見たか?100艘の船団に10万人の兵士。これで、日本へ攻め込んで日本を俺の物にするぞ。お前ももう終わりだ。」


「そんなこと言わずに魔道具作ってくれないか?」


「嫌だ。」


「だが、10万人?どっかで聞いた数だな?‥‥って、もしかして明の兵士か?もしかして、お前が操ってるのか?」


「そうだ俺の軍団だ。だがどうして明の兵士ってわかったんだ?」


「明の皇帝に直接聞いたからな。」


「お前は明の皇帝と知り合いなのか?」


「そうだな、知り合いだ。未だ友達ではないが。それに、転生者だ。恐ろしい力を持ってるぞ。帰蝶も敵わないような力だ(多分)。その皇帝が後続部隊と共に攻めて来るぞ。皇帝がその10万の兵士を他人が自分のものにしていると知ったら怒るだろうな。だからお願い聞いてくれよ。そしたら、兵士を自分のものにしているのは黙っててやるしバレても取り成してやるぞ。」


「本当か?帰蝶よりも恐ろしいのか?いや、騙されないぞ。そもそもなんでお前が明の皇帝と知り合いなんだ。それに10万人の兵士がこっちには居るんだ。どうとでもなる。」


「そうか。しかし、中国は俺達がいた時代は16億の人口が存在したろ。今だって数億はいるんじゃないのか?(知らないけど・・)後続部隊は100万人以上来るかも知れないぞ。」


「ひ、百万人?ど、どうしようかな・・」


 すると突然チナチアットの中に武田義信が転移して来た。


「大丈夫か。信行。飛ぶぞ。」


 そいうとあっという間に義信と信行は消えてしまった。


「くそ―、交渉決裂だな。しかし、武田義信は行った事のない場所にも転移できるのか、凄いな。」


「そうね。もしかしたら信行の元へ転移する魔道具を信行が作ったのかもね。一度来られたからには、また来るかも知れないわ。この中に転移できる人間を選べるようにする必要があるかもしれない。それで、どうする?神に聞いてみましょう。どうせ、新しい能力を今の能力と交換するかどうか決める必要もあるし。」


「そうだな。このまま熱田神宮に行ってみよう。その後那古野城へ帰るか。帰ってチナチアットの家具作るか。帰蝶、熱田まで飛んでくれ。」


 かなりの魔力を使い疲れ果て面倒くさくなった帰蝶は、熱田まで飛んで行きたく無くなったので熱田上空に転移した。


 一方、明の大船団の指揮官の船の中で武田義信と織田信行は話し合っていた。


「本当か、信行?明の後続部隊が来るのか?しかも、100万人?」


「あーそうだ。なんでも吉法師は明の皇帝と知り合いらしい。明の皇帝も転生者で帰蝶よりも凄い力を持っているという話だ。」


「ほ、本当か?あの化け物女よりも強い力を持っているのか?大丈夫か。此の侭引き返した方が良くないか。」


「そうだな、日本をこのまま占領しても、その時は兵力も減ってるだろうから明に攻め込まれたら簡単に明に占領されるぞ。」


「そうだな、沖縄へ帰って10万人の戦力は明の皇帝が帰ってから新たに占領するか。」


「それが一番だな。よし。引き返すぞ。長老、沖縄へ引き返すと伝えてくれ。」


 こうして武田義信と織田信行の一団は沖縄へ帰っていくのであった。

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