第47話 妻木死す
目を覚ました帰蝶はいまだに妻木と珠が帰ってきていない事に気が付いた。帰蝶に不安がよぎった。
「まだ帰ってきていない。もしかしたら二人に何かあったのかも、このままではお昼に肉が食べられないかもしれないわ。」
帰蝶の心配は珠と妻木ではなく
「一益、起きて、まだ珠と妻木が帰ってきてないわ。ちょっと見て来て。」
寝ている一益を
ただ辺りを見回した。遅いわ、私のおひるごはん、と思いながら。
すると北の方から音がする。まるで暴れ牛が平安の街を走るようなドドドドドドという音が。
見ると、珠と妻木が猪に追われていた。
帰蝶は、大丈夫かと心配する。
訳がない。腹を抱えて大笑いし始めた。
「ちょっとぉ―、珠、妻木、私を銃で撃っただけじゃ飽き足らず、ひーひひっ、ひーっ、今度は笑い殺す気なのぉー、ひーーーっ、ひひひひっ、駄目、追い付かれるわよ、追い付かれたら死んじゃうわぁー、ど、どうして二人で、ひーっ、同じ方向に逃げるの?ひーひひひひ、別に逃げればいいのに、ひーひひ、は、早く、逃げないと・・・早く・・ヒヒ・お、お腹が、痛い、お腹が痛い。イテテテ・・」
既に腹筋が乳酸で一杯の帰蝶であった。
涙目で痛いお腹を抱えながら前を見ると追い付かれそうな二人がいた。帰蝶は、氷魔法で、氷の塊を作りその氷を高速で飛ばした。飛ばされた氷は猪の頭蓋骨を撃ち抜き猪は、糸の切れた人形のように、転がった。
「珠、妻木、早く解体して焼きなさい。遅くなったのは私を喜ばせてくれたことで許してあげるわよ。妻木が私を撃ったことはまだ許さないけど。」
「ひ~~、勘弁して下さい。」
「いいや、許さない。未だ苛めたりないわ。私は大好きなおもちゃを簡単には手放さない女なのよ。」
「。・゚・(>д<)・゚・。」
「妻木、泣かない!」
こうして、猪はお昼ご飯に美味しく頂かれてゆくのであった。
一方、魚を食べて飛行機製作の材料の採取に山へと入っている吉法師である。山の中からアルミニウムを分離してゆく。かなり深い所から分離する500キロほどのアルミニウムを採取した。次はチタン200キロほど採取し、鉄が500キロほど、銅を300キロほど採取した。他には金が2キロ、銀が3キロほど採れた。
吉法師は採取した金属を浮かべて一益の自宅へ戻って来た。既に夕方で西に山のある一益の自宅は早めに暗くなる。製作は明日にするとして、既にほとんどの魔力が枯渇してしまった吉法師は飯食って寝ることにした。
夕食は昼の猪であった。
「帰蝶、この猪、美味しいな。誰が取って来たんだ。珠か?」
「いいえ、あなたのお気に入りの珠じゃないわよ。私が捕ったの。珠と妻木は追われていただけよ。」
「明日飛行機作るぞ。俺がフレームをチタンで作るから、アルミを薄く伸ばしてフレームに張っていって。アルミは銅とマグネシウムを混ぜてジュラルミンにしておくから。本当に帰蝶はどんな魔法でも使えるよな。」
「あなたがほぼ土魔法しか使えないだけなんじゃないの。」
「帰蝶、辛辣。ところで、一益は剣は使えるのか。」
「えー、習いましたよ。」
「俺にも教えてくれよ。三日月宗近が欲しいから訓練しないと。何処にあるか知ってるか。」
「多分京都ですよね。将軍家が持っていると思いますが。来月行くんですよね?将軍に三日月宗近貰うんですか。」
「もちろんだ。銃と交換に三日月宗近を
「でも銃があれば刀なんて無用の長物なんじゃないの?」
「帰蝶は夢が無いな。剣は男の子のロマンだよ。」
「そうね男の子のロマンだね。大人になったらやめなさい。危険だから。」
「俺のママかよ。」
こうして夜も更けてゆき次の日になった。
フレームをチタンと鋼鉄で作り。それにジュラルミンの外装を張っていった。結局帰蝶はでかいモーターを最初から最後まで作っていた。だけだった。
結局、飛行機が出来上がったのは夕方だった。出来上がった飛行機はただのセスナの形状で6人乗りだ。
「明日帰るか。今日はもう疲れた。一益は荷物そんなに多くないだろ。家具があれば捨てて行けよ。家具付きの家を那古野城周辺に作るから。」
「家も貰えるんですか。ありがとうございます。これなんですか。デカいトンボの様ですな。これで行けるんですか。尾張までどれくらい掛かるんでしょうか。」
「尾張まで
「そんなに早く?」
「乗ったら分かるよ。」
「ねぇ、ダーリン。ちょっと運転させて。隣に乗ってやり方教えて。」
そして二人は飛行機に乗り込んだ。
「左のレバーがアクセルだな。押せばモーターの回転数が上がる。股間のスティックがハンドルだな。引けば上昇、押せば下降する。左へ倒せば機体が左へ傾き、右へ倒せば右へ傾く。足のペダルは垂直尾翼のの補助翼が左右に動く。右足のペダルは右へ。左足のペダルは左へ頭が向く。アクセルとブレーキじゃないからな。それらの組み合わせで飛行を操作する。」
「分かったわ。良く分からないけど取敢えずやってみる。習うより慣れろよ。」
帰蝶はとりあえず重力魔法で機体を浮かべ500メートルほどの高さまで上昇させたそしてモーターを回転させて速度を生み出していく。時速100キロ越えた辺りで重力魔法をやめて単純に揚力だけで浮かんでいる状態になった。
「凄ーい、高いわよ右に倒せば右に曲がるのね。曲がったわぁ、引けば上昇?宙返りよ、宙返りしてるわ。」
「帰蝶もう少し穏やかに。酔う。酔うから・・止めて、うっぷ・・」
「ちょっと‼エチケット袋用意してないんだから、私のセスナ汚さないでよ。」
「何がお前のだよ。うっっっぷ、お”え”--。」
「ちょっとぉ、外よ、外。外に吐いて。次は速度よ、どれくらい出るかしら。ねぇ、このセスナ速度計も高度計も付いてないわよ、水平かどうかも分からないし。」
「そんな高度な計器作れないよ。信行なら作れたかもな、お”~~。え”ろ”え”ろ”え”ろ”~。」
「ちょっと、大丈夫?私のセスナ?」
旦那の体より飛行機が汚れないかが心配の帰蝶であった。
飛行機は速度を増していく。更に帰蝶は重力魔法で前方に引力を作り出し飛行機を引っ張るように速度を増加させた。
「おー、速い、速いわぁ!何キロ?何キロ出てるの?あれ?琵琶湖が見えるわよ。ここ既に滋賀県よ。尾張越えちゃったわよ。どうしてくれるのよ。さぁ、Uターンよ。」
「き、帰蝶。も、もう止めて。運転変わって。うーっぷ。」
「嫌よ。私のセスナよ。ゲロゲロマンには運転させない。よし、全速力で駿府まで帰るわよ。」
そう言うと帰蝶は一気に速度を増加させ琵琶湖から駿府までをおよそ30分程で到着した。
「地図で確認したら200キロ以上あったぞ。30分だったから時速400キロは出てたぞ。」
「え?マッハは出てなかったの?残念、気分的にはマッハ出てるような気がしたんだけど。」
「マッハ出てたら破裂音がするだろ。」
「あれ、もう吐気は無くなった?」
「帰りは、揺れなかったからな。ましになった。」
飛行機が一益の家の上空に到着すると、帰蝶はゆっくりと重力魔法で着陸させた。
「凄いですね。浮かんでましたよ。」
一益が聞いて来る。
「どこまで行かれてたんですかい?」
「琵琶湖まで行ってきたわよ。」
「え?まだ半刻位しか経ってないですよ。あー、冗談ですね。もう帰蝶様意地悪だから。」
「誰が意地悪の嘘つきばばぁよ。」
「いえ、ババァとは言ってませんが・・・」
「明日は楽しいフライトになるわよ。多分尾張まで一刻は掛かるわね。中国大陸見に行く?今は
「絶対無理!帰蝶絶対無理だぞ、そんな何時間も!吐くものが残って無いぞ。」
「そうね。新しい乗り物作ってマッハ越えれるようになってから行くべきかもね。重力魔法が使えるという事は反重力推進装置があるのと一緒だし。英語で言えばAnti-gravity Propulsion Engine 略してAPEね、つまり、エイプ、お猿さんね。ダーリン、あなた今日からエイプよ。お猿さんよ。猿と言えば秀吉?もしかしたら、神が殺したうちの一人かも。だとすれば信長より先に見つけないといけないわよ。多分今年で六、七歳のはず。確か尾張の中村区。」
「いや、区は無いし。」
「早く見つけないと敵になるかも。というより、既に敵かも。織田信長を殺したのは秀吉と家康だという説もあるし。」
「信長殺したんだったら味方じゃないのか。」
「いえ、信長を殺したというより自分の邪魔者を殺したと考える方が正しいかも。つまり、ダーリンが日本を自分の物にしたら、ダーリンを殺すという事になるわね。猿殺しよ。猿が猿を殺すなんて。ぷぷっ…や、やばい、笑いだすところだったわ。既にお腹が痛いからダーリンが飛行機の中で悶えてたのにも笑いを我慢していたのに。」
お腹が痛くて笑えない帰蝶であった。
「魔法で治療すればいいだろ。」
「嫌よ。私は笑いでお腹を割るの。シックスパックにするのよ。」
こうして駿府の夜は更けていった。
今日の駿府は平和であった。
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