第37話 駿府旅行 八 

 浜名湖は既に暗く、その全貌を隠し、ただ、春風が冷たい湖面の温もりを伝えるだけであった。吉法師御一行様は猪鼻湖を過ぎ浜名湖の湖畔、三ケ日みっかび都筑つづきで火を焚きご飯の用意をしている。


「妻木、そろそろご飯が炊けるか?」


 お米を炊くのは妻木の係である。


「珠、野菜は切れたか。」


 サラダを用意するのは珠の係である。


「準備できたら肉を焼くぞ。」


 肉を焼くのは吉法師の係である。


 帰蝶はというと、みんながサボってないか監視する係である。つまり何もせずテーブルで皆の動きを見ているだけであった。まさに鬼嫁である。


 そろそろ、食べ始めようとする時、馬のいななききとひづめの音が聞こえ始めた。山賊、もとい、宇利峠義勇団がやって来た。


「遅かったな。」


「へー。場所が良く分からなかったので猪鼻湖から回ってきましたので。」


「そこへ座れ。直ぐ肉を焼くから。大人しく待ってろよ、鬼様が怒るぞ。」


 そう言うと人数分の肉を焼き始めた。全ての肉を使い果たした。


「まさかこんなに大勢で来るとは思わなかったぞ。」


「全員で四十名います。ところであなた様のお名前は。」


「俺の名前は徳川家康(仮)だ。今は事情があって名乗れない。」


 当然である。吉法師だとバレたら、今川家が総出で捕まえに来るだろう。なぜなら吉法師の経済的手腕は良く知られ、それとは別に秘密の武器については公然の秘密となっており、その武器の入手に各国が躍起になっていた。勿論今川家も例外ではない。吉法師を捕まえればその秘密の武器を入手することが出来る。今川家が知るその武器の情報は最近日本に入荷し始めた火縄銃の様なもので、それとは全く別物あり性能は比ぶべくもないものだという事だけだった。


「酒はないが、我慢しろ。酒を飲んだら落馬するぞ。飲んだら乗るなだぞ。その代り活動資金を渡す。真面目に軍団員を集めろ。百名以上集めれば部下にする。食いっぱぐれが無いぞ。」


「おぉぉー!!」義勇団も大喜びだ。主にお金を渡すぞに対してではあったが・・


 食べ終わり、お金を受けとると義勇団はそそくさと帰って行った。


 次の日の早朝、朝ご飯を用意したころに帰蝶が起きて来たので一緒に朝食を食べ、直ぐに出発した。今日の目的地は掛川城だ。直線距離で50キロほどだろうか。


「今日は途中で狩りをしないともう肉が無いぞ。珠、妻木、お前らにも銃を渡すからしっかり狩りをしろよ。場所は天竜川を越えたところで良いか。そこから山へ行くぞ。昼頃には到着するだろう。」


「また山賊出ないでしょうね。もう嫌よ鬼と言われるのは。」


「山賊と言えば山賊のいた宇利峠に入らずに北に行けば長篠城があるだよな。俺ずっと長篠城は武田の領地にあるとばっかり思ってたけど徳川領の三河にあるんだよ。でも、考えれば当然なんだよな。だって、武田が攻めて来たのに、その攻めた城が武田の城なわけがない。当然徳川の城で徳川領の三河だよな。」


「知らなかったの?」


「鬼に馬鹿にされた・・・」


「何か?」「いえ、何でも・・・」


 お昼ごろには天龍川を越え、上野部かみのべに車を止めた。近くに二俣ふたまた城があるが山の中に入るから大丈夫だろうと考えていた。


「よしお前ら狩りだ。誤射が無いように一列に並べ。離れるなよ。」


 吉法師達は夕方まで狩りをして熊一頭、猪二頭、ウサギ二羽、雉1羽捕獲した。


「よし今日はここでキャンプするぞ。」


 その後何事も無く次の日となった。

 早朝、早めに出発した。吉法師御一行様は車で掛川城下町付近を通り過ぎて行く。


「ねぇ、あの高台に見えるのが掛川城?」


「そうだな。あれ?天守閣が無いな。」


「戦国時代は無いみたいよ?鯱架しゃちほことかも。ここの天守閣は山之内一豊以降でしょ。でも江戸時代の一国一城令で無くなるわよ。」


「俺も歴史は大まかな事なら知ってるぞ。ここから駿府城迄直線距離でおよそ40キロ。今日近くまで行くぞ。」


 道なりに快適に暫く進むと前方に山が見えて来た。吉法師御一行は地図で確認し山の間を縫うようにして進んで行く。しかし、道が細く車が通らなくなる。しかも、山だらけで直線距離では40キロだが、このままでは何百キロ走るの分からない程だ。


「どうする。このままでは進めないぞ。いつ到着するか分からないな。もう那古野へ帰るか?」


「嫌よ。折角ここまで来たのに。東名高速道路は無いの?」


「ねぇーよ!ある訳ないだろ。東名高速道路が出来たのは、確か江戸時代末期頃だよ。」


「そんな事ある訳ないでしょ!車が普及する前に高速道路が出来るわけないじゃない。何その知識?」


「いやそのくらいかなぁと思って言ってみただけだ。それより、どうする。これから。」


「困ったわね。」


「一つ、このまま帰る。二つ、掛川まで戻って馬を買って乗り換える。三つ、重力魔法で車を浮かべて進めるとこまで進む。魔力が切れたらそこでキャンプする。」


「じゃあ、四で。今から飛行物体作りなさいよ。ボディーはジュラルミンでいいわ。ジュラルミンはアルミに銅などを混ぜて作ったらしいから。」


「銅はあるとしても日本にもアルミニウムはあるのか。」


「アルミニウムは地球上では酸素とケイ素に次いで多い元素よ。探せばあるんじゃないの。探しなさい。」


「探している時間がもったいないから車浮かべていけるとこまで行く。動けなくなったら、土中から何か為になる金属を探すという事で。」


「アルミは探しなさいよ。でもチタンも重要。貴金属並みの耐食性を持つ金属の中で、最も軽い金属よ。」


「でも俺達には探すのに最も重要な能力が欠けてるぞ。その土地の中にどんな金属が入っているのか知る能力だな。」


「そこは努力でカバーするしかないわ。また神様にお願いする?」


「そうだな。また神が殺した奴に迷惑を掛けられたら新しい能力が貰えるかもな。それと、今調べてみたんだが、菊川沿いに行けばあまり力を使わずに行けるかもしれないぞ。ただ道が細ければ車を浮かべる必要があるけど。」


 吉法師達は道を菊川まで南下しそこから北上した。しかし道が細くなりまた通れなくなった。


「やっぱり、どうせ浮かべるのなら駿府までの直線上を駿府まで向かった方が早かったわね。戦国に車は不向きだわ。やっぱり、バイクかUFOよね。帰ったらすぐに造りなさい。」


「俺が?一緒に作ろうよ。」


「頑張れ!褒めて遣わすぞ。」


「鬼!」


「なんか言った!?」


 その後、吉法師達は何とか山を越え大井川の手前で力尽きた。


「大丈夫か。」


「大丈夫よ。これも訓練よ。訓練を積めばUFO造って飛ばせるわよ。何時かは。頑張るわよ。珠、妻木ご飯作って。」


 そう言って、帰蝶は車の後部座席で横になり寝てしまった。


「まさに鬼の霍乱だな。」


「なんか言ったぁ!?!?」


「いえ、何も。ぷぷっ。」


「笑うな。あなたは大丈夫なの。」


「俺は、帰蝶ほどの魔力が無いからな。帰蝶におんぶに抱っこされてるよ。」


「だったら鬼って言うな・・・」


 そうつぶやくと帰蝶は寝てしまった。そして、吉法師もその横でご飯が炊けるまでと思いつつ寝てしまった。


 大井川には春の夜の冷たい風が川面を吹きすさび、その風の冷たさを水面が緩和し、肌に感じさせないようだ。既に満月が昇り始め水面を照らし始めていた。


 そんな時だった。


 車の周りを三十名ほどの兵士が取り囲んでいたのは・・・








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