第36話 駿府旅行 七

 兵士たちに見送られながら蒲郡がまごおりを出発した吉法師は、出来るだけ城下町を避けながら蒲郡がまごおりからほぼ真東へ凡そ20キロの東門沢まで辿り着いた。日は暮れかけ空は茜色に輝き始めている頃であった。


「今日はこの辺りでキャンプするか。それともこの先の宇利峠を越えるか。」


「宇利峠ってどれくらいの距離があるの?」


「1キロくらいかな。」


「だったら峠越えてまた海まで行こうよ。海までどれくらい?」


「四、五キロで浜名湖だな。」


「って、海じゃないじゃない。でも、ウナギだよね。美味しいかな。」


「ウナギならこの時代浜名湖でなくても日本全国にいるんじゃないのか。しかも天然物の。」


「じゃぁ、捕って来て。」


「岩の下にもぐってるらしいぞ。お前が電撃で痺れさせれば直ぐに捕れるぞ。ところで、電撃は自分も痺れるんじゃないの。だったら水の中では使えないな。絶縁体で服作るか。ゴムがあれば良かったけどな。」


「他は絶縁体って何かある?」


「竹とか?でも竹じゃ服作れないか。じゃぁ、コーヒー豆のついでにゴムの木も持ってくるか、沖縄に農園作ろう。コーヒーとゴムの。」


「あそこは、琉球王国でしょ。駄目じゃない。」


「だったら、交渉して畑貸してもらうとか。駄目なら占領して属国にするしかないよな。ん?なんだ?」


 前を汚い格好をした男数十人が道を端から端まで塞いでいる。


「跳ね飛ばしていくか。」


「止めなさい。可哀そうでしょ。」


「お、鬼の目にも涙か?」


「泣いてないわよ。」


「鬼は認めるという事か。」


「認めないわよ。」


 すると吉法師は銃を一丁持って車の外へと出て行った。帰蝶もそれを追いかけるように車から出る。


「何だ、お前ら何か用か。」


「俺たちは山賊だ。分かったら金目の物全ておいてけ。おっと、そこの可愛い女もな。」


「おい、可愛いって言われてるぞ。」


「良く分かってるじゃない。」


「おいお前ら、こいつは鬼だぞ。分かったら早く逃げろ。」


「どこの世界にそんなに可愛い鬼がいるんだ。」


「へへへ、可愛いって言われちゃった。」


「何喜んでるんだ。冗談に決まってるだろ。」


「さっきから、さっきから。お前が一番失礼だな。」


「お前ら煩いぞ。俺たちは山賊だぞ。分かったらさっさと金目の物と女を置いていけ。」


「なんで山賊だと分かったら金目の物を置いてかなくっちゃいけないんだ。鬼で良かったら置いてくけど。」


「おい!!」


「冗談だよ。冗談。」


「当り前だろ。山賊だぞ。お前らを殺すぞ。嫌なら置いていけ。」


「あーもう面倒だな。腹も減った。」


 そう言うと、吉法師は銃をフルオートにして撃った。しかし、少々驚いたものの山賊は気を取り直した。


「それがどうした。大きな音がしただけだろ。」


「武器の効果を知らないから単に大きな音がしただけだと思うよな。かしらはだれだ?」


「俺だ。」


 吉法師はそう言った男の脚を撃ち抜いた。骨に当たらない様に外側を狙った。


「痛いぞ。このやろー。」


 吉法師はかしらに銃を向けた。ビビッて銃を見るかしらあたまに狙いを付ける。すると、かしらは尻もちをついたまま後ずさり始めた。尿を漏らしそうな勢いだ。吉法師は銃口を横にある石に向け銃を撃った。夕方という事もあり銃が放つ火花が眩しく飛び、放たれた弾が石を火花を上げて砕いた。それを見てかしらの股間は水があふれて来た。


「山賊だから、何だって?」


「いえ、何でもありません。許して下さい。」


「ここで死ぬか。俺の言う事を聞くか。どっちがいい?」


「言う事を聞きます。だから命だけは。」


「だったら、これから最低百名、武勇に優れた物を集めろ。そうすれば俺の部下にしてやる。宇利峠義勇団だ。次に来るときまでには集めとけよ。二年だ。集めておかなければその時に命を奪うぞ。子供をさらって仲間にするなよ。親のいない子供や身寄りのない子供は仲間にしていいぞ。積極的に鍛えろ。偶に来て確認するぞ。もし上手く集めていたら金をやる。」


 そう言うと帰蝶に治癒魔法でかしらの脚を治させたのであった。


「き、傷が治った?痛くない?も、もしやあなたは神様では?」


「いや、神様ではない。鬼様だ。」


「おい!!」


 帰蝶が突っ込んだのは言うまでもない。山賊は鬼様のあまりの恐怖に全員平伏した。


「では、お前ら励め。飯が食いたかったら浜名湖の北端、三ケ日みっかび迄来い。ご馳走してやるぞ。」


 そう言うと吉法師御一行は浜名湖へ向けて車を走らせるのであった。


 ここでもまた鬼伝説が始まった。宇利峠の鬼伝説であった。







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