第38話 駿府旅行 九
取囲んだ兵士の長と思われる兵が誰何する。
「お前らは何者だ。」
珠が寝ている吉法師を起こして事情を伝えた。
「俺は徳川家康だ。」
「そうですか。貴殿が松平家の徳川家康殿ですか。先触れが来ておりましたのでもしやと思い諏訪之原城から来てみました。その箱の様なものが鬼を捕まえた秘密兵器ですか。なんでも鬼と祝言を挙げられたとか。おめでとうございます。いや、凄いですな。そちらがその鬼の嫁ですか。案外怖くないですね。」
「いや、これは侍女の妻木だ。鬼は現在この箱で山越をした為、疲れて寝てる。」
「え?それは凄いですな。この大きな箱を担いでの山越えですか。それはごつい体をしているんでしょうな。まさに伝説の桃太郎が退治したような鬼ですな。棍棒でも持ってるんでしょうな。」
余りに馬鹿にされて怒り心頭の帰蝶が車から降りて来た。
「おい帰蝶褒められてるぞ。ぷぷぷぷっ。」
「笑うな!」
帰蝶は怒りの侭に兵士全員と吉法師に電撃をお見舞いした。
「おい、帰蝶、突然
「この時代にペースメーカーが存在するわけないじゃない。」
「いや、驚きましたぞ。これが噂に聞いた鬼の電撃ですか。痺れましたぞ。これを武器として使えれば百人力ですな。御味方で心強いですぞ。私も徳川殿の家来になりたいものですな。」
「おー、家来は大歓迎だ。今回の旅は求人募集も兼ねている。俺が有名になれば部下してやるぞ。俺の顔を覚えておけよ。」
「殿様も、家康殿をぞんざいには扱わないでしょう。まだお若いのに凄いですな。」
「ところで、晩飯はもう食べたか。熊を捕まえまたんだ。皆で食べるぞ。」
「熊ですか。中々捕まえられないのに。どうやって捕まえたのですか?あ、分かりましたぞ。鬼嫁ですな。鬼嫁が捕まえなさったのでしょう。流石鬼嫁ですな。勿論ご馳走になりますぞ。」
帰蝶は顔を真っ赤にして、怒りを我慢していた。
「帰蝶大丈夫か?ぷぷぷっ。」
「笑うな!」
「よし、全員分焼くぞ!そのあたりに座って暫く待て。」
兵士たちは思い思いに河原に座り始め、鬼について噂し始めた。吉法師は珠と妻木に熊を解体させながら、次から次へと肉を焼いて兵士たちに振る舞っていった。兵士たちは滅多に食べられない御馳走に舌鼓を打ち鬼嫁を褒めたたえ、振る舞ってくれた吉法師に感謝していた。
兵士たちは料理に満足し吉法師に礼を言い城へと帰って行った。
次の日の早朝、朝起きると川面に日が射し、温められた川面が冷たい空気に触れ
「帰蝶、お疲れー。これ朝食、昨日の肉だけど。」
「おはよう。本当に疲れてるわよ。」
「今日は直線距離で18キロで岡部という所まで行く。ほとんど平地だから問題は無いだろうけど、岡部から山越えだ。ここから最短2キロ。最長で6キロ位飛ばないと山を越えられない。川沿いの道が通れれば良いけど道幅が狭ければ飛ぶ距離が長くなる。だから帰蝶には今日も頑張ってもらわないと。」
「他に道は無いの?遠回りでもいいし、例えば海岸とか。」
「海岸は崖だね。道は狭い山道。車は通れないな。多分これが最善策だ。地図を見て判断しただけだけど。食べたか?そろそろ行くぞ。」
「残りは車の中で食べる。」
「まず、浮かべて川を渡るぞ。川幅が800メートルくらいあるぞ。頑張れ。」
「あなたもね。」
「渡ったら運転は俺がするからな。」
吉法師御一行は無事川を渡って道なりに進んだ。ほぼぎりぎりで通れるが偶に道幅が狭くなり通れなくなる場所がある。そんなときは吉法師が浮かべその場所を通過する。吉法師も帰蝶ほどの魔力は無いが数メートルの高さで1キロ程の距離なら移動させることが出来る。これが翼のある飛行機ならその揚力で空に浮かべ軽い魔力で高度を維持し前進させることが出来るだろう。しかし、UFO形状の物体の場合、気球とか飛行船でのなければ、揚力も無くハンビーを浮かべて移動させる以上に大変かもしれないと吉法師は考え、今以上に魔力を増やす必要性を実感していた。
もう直ぐ田中城の辺りを通り過ぎようとした頃、道を兵士が塞いでいた。何事だと訝しがっていると、兵士が尋ねて来た。
「徳川家康殿でしょうか。」
「あーそうだ。徳川家康だ。」
「諏訪之原城より今日ここを通るだろうという事で待ってましたぞ。我々は田中城の兵です。城主より挨拶してまいれと言付かってきました。なんでも、諏訪之原城の兵士たちは美味しい熊を御馳走して頂いたとかで大層喜んでおりました。」
「お、熊食べるか?御馳走するぞ。もう熊は少ないから猪になるけどな。」
「ご馳走して頂けるのですか。」
「それを楽しみに来たんだろ?待ってろ今焼くから。」
そう言うと吉法師は兵士たちがいた空き地で火を焚き肉を炒め始めた。
「なんでも体を痺れさせて人を動けなくして、大きな箱を抱え上げて山を越える鬼を捕まえて嫁にしているそうではないですか。」
「あー、本当だぞ。お前も電撃を浴びてみるか。軽い電撃だと肩こりも治るぞ。」
「それは話のネタになりますな。一度浴びてみますよ。」
「おい帰蝶、出番だぞ。電撃軽めでお願い。」
「おぉー、こちらが鬼嫁ですか。噂ではうら若き幼女の肉体を食い、その皮を纏っているとか。」
「それはただの噂だ。これが本人だ。」
「幼女ですが綺麗な顔をされてらっしゃいますね。家康殿と御似合いですよ。」
「ダーリン、綺麗って言われちゃった。」
「 ( ̄ ̄ ̄ ̄□ ̄ ̄ ̄ ̄)チッ 」
「ねぇ、今舌打ちしなかった?」
「気の所為だよ。早くやって。」
そして、帰蝶は電撃を放った。
「こりゃ、凄い。これは聞いた通りご利益が有りそうですな。」
「ご利益?」
「そうですよ。鬼の電撃を浴びると寿命が延びるというご利益があるとの噂が流れてますよ。」
「国会議員の平手打ちみたいなものだな。」
「そうだね。これから料金貰う?」
「駄目。肉が焼けたから、配って。」
全ての兵士に食事が供された。熊の肉は少なかったが猪の肉もあったので満足して貰えたようだ。
「今日は御馳走様でした。まだお若いですが御屋形様にも重用されるでしょう。偉くなったら私共を部下にして下さい。」
「部下は大歓迎だぞ。偉くなったら呼ぶぞ。」
兵士たちは供された食事に感謝して田中城へと帰って行った。
兵士たちを送り出した後、車に乗り込み先を急いだ。岡部まで凡そ5キロ。葉梨川を越え、次に朝比奈川を越え、問題の岡部まで辿り着いた。
「ここから、進めるとこまで進むが、進めなかったら車を浮かべて先に進むぞ。今回は俺にやらせてくれ。出来る所までやってみる。その後、帰蝶が浮かべて、行ける所まで行ったらキャンプだ。」
「お、やる気になったか?」
「そうだな、帰蝶みたいに魔力を高くしないとな。」
暫く進むと岡部川沿いの道は細くなりとても車で通れるような道ではなくなった。車を浮かべ進む。2キロほどで少々高い山になった
「2キロくらい出来たぞ。もう無理。帰蝶後は宜しく。」
「分かったわよ。私がやるわよ。」
そう言うと帰蝶は車を一気に500メートル程上昇させひとっ飛びに山の頂上付近を越えて行く。そのままの高度を維持しながら4キロほど進むと平地になった。
「もう無理。もう動かせない。私も頑張ったわよ。ここでキャンプよ。」
「だったら、すぐ先に安倍川があるから安倍川沿いまで行ってキャンプだな。」
安倍川まで来ると川の手前の小高い丘の頂上に寺がある。妙音寺という。元は南北朝時代に今川氏と対立し軟調川に着いた狩野氏の狩野山砦跡らしい。吉法師御一行様はその麓の川辺でキャンプすることにした。もう駿府城迄は3キロほどの距離だ。
朝目を覚ますと兵に囲まれていた。
またかと思いつつ吉法師は車の外へ出た。
「徳川家康、否、織田吉法師。大人しくしろ。今からお前を捕縛して御屋形様の所へ連れて行く。」
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