第19話 三種の神器

 今日も今日とて盛夏の尾張の太陽はレーザービームのような強烈な日差しを照らし付け大地を温め熱気を立ち昇らせる。その熱気は人々の体に纏わり着きながら汗を拭きださせ体力を奪い尽くさんとしているようだ。那古野城も例外ではなく吉法師を苦しめ続けていた。


「爺、爺はおらぬのか。」


「は、ここに居りまする。」


「爺、扇げ‼熱い、暑い。このままでは信長に倒される前に、暑さでやられてしまう。プールだプール。」


「訳の分からない事を言ってないで今日こそは勉強してもらいますぞ。今日は将軍家の歴史についての勉強ですぞ。」


「そんなもん知ってるぞ。楠木正成が足利尊氏を倒して幕府を開いたんだろ。常識だぞ。」


「どこの世界の常識ですじゃ!だから馬鹿様と呼ばれとるんですぞ。」


「そう呼んでるのは爺だけじゃ!もう勉強はせんぞ。どっちが勝ったか知ったら織田信長に勝てるのか。」


「だから、それは誰ですじゃ。」


「もう、暑苦しいぞ爺。ところで、帰蝶はどうした。」


「昨日から見ておりませんが。」


「何?もしや、織田信長がこっそり嫁に迎えたんじゃないだろうな。探してまいれ。」


「は、早速探してまいります。」


 こうして、政秀は帰蝶を探しに彼女の部屋迄赴くのであった。


「若ぁ、いらっしゃいましたぞ。」


「ダーリン、おはよぉー。寂しかった?」


「帰蝶いたか。織田信長がこっそりお前を嫁に迎えに来たのかと思って心配したぞ。」


 いや、その通りだと、帰蝶は思ったが口には出さない。


「そんな事ある訳ないでしょ。にっくき織田信長が私をさらいに来ても抵抗するわよ。絶対織田信長の嫁にはならないわ。安心して。絶対よ。指切りする?」


 既に嫁に来ているのだが、と思ったが帰蝶は言わない。


「そうか、安心したぞ。それで昨日はどうした。」


「これよこれ。これ作ってたの三種みくさ神器かむだから。」


「何?草薙剣か?熱田の神宮から奪って来たのか?」


「なによそれ?違うわよ。これよ。エアコンよ。この暑さでしょ。私の魔法で作ったの。魔力でファンを回し、氷を作り、冷気を部屋中に循環させるの。勿論サーモスタットは付いてないわよ。問題は魔力を溜めておく電池みたいなものが無いから魔力を流し続ける必要があるという事ね。」


「おぉ、エアコンか。早く部屋へ行くぞ。爺、西瓜を持ってこい。」


 そう言って政秀を縁側に残し帰蝶と共に部屋へと帰っていく吉法師であった。


 十数分後、吉法師と帰蝶は冷気漂う部屋で西瓜を食べながら寛いでいた。


「はぁー、久しぶりのエアコンの効いた部屋は気持ちいがいいぞ。お前はいつもこんな涼しい部屋にいたのか。」


「はぁー、当たり前でしょ。私は日本人よ。当然健康で文化的な最低限度の生活を維持しつつ平和的生存権を主張していくわよ。」


「お、お前は織田信長より怖いぞ。」


「そうよ、私は鬼嫁よ。覚悟なさい。あなたの尻を叩いて織田信長を倒させるわよ。打倒織田信長よ。」


「おー、それは頼もしいな。ところで、この戦国時代には馬車が無いのは知ってるか。」


「知ってるわよ。不便よねぇ。」


「それで、馬車作るぞ。作って馬に引かせる。」


「それって、馬に引かせる必要があるの?」


「引かせないと動かないだろ。」


「何言ってるの。魔法で動かせるでしょ。例えば、モーター作って魔力で動かすとか。あなたは、あんなに精巧な銃を作ってるんだもの。車くらい簡単でしょ。ちなみに私は電化製品得意よ。」


「本当か?じゃぁ、テレビ作ってくれ。」


「あほかぁ。テレビは誰かが発信してないと見れないでしょ。やっぱり、うつけ?」


 二人で仲良くじゃれ合っているとそこへ父親の信秀が現れた。


「何だ、この部屋はなんでこんなに涼しいんだ。お、帰蝶殿元気か?何か困った事はないか。というか吉法師に困ってないか?」


「何も困ってませんよ。お義父とう様。ダーリンは良い旦那様ですよ。」


「どうした、親父殿。何かあったか?」


「弟の信光の件だ。息子を人質に出す事で許すことにした。事情もあったからな。」


「まぁ、大きな釘を刺したという事で大丈夫じゃないか。それで息子はどうするんだ。」


「息子二人はこの城で育てるぞ。」


「誰が。俺が育てるのか。」


「お前は未だ育てられている途中だろうが。」


「そうだな。それでは偶には遊んでやるとするか。」


「将来お前の部下になるだろうからな。」


「ところで、そいつらも織田だな?」


「そうだが、何だ?」


 そいつらも織田なら織田信長かもしれない。その可能性があるなら俺に反抗しない様に鍛え上げようと、否、躾けようと考える吉法師であった。


「話は変わるが、清州と岩倉の織田の動きが不穏だ。結託して攻めて来るかも知れんぞ。」


「そうか。だったら人を20人俺に貸せ。弓が上手いヤツがいいな。」


「たった20人でどうするんだ。」


「これを使うぞ。」


 そう言うとHK416モドキのアサルトライフルを取り出して信秀に見せた。


「なんだそれは。そんな玩具でどうするんだ。蝮殿も持っておったが。」


「これは武器だ。弓とは比べ物にならんぞ。見ておけ。」


 そう言うと部屋の戸を開け、そこから見える中庭の木に向けて銃を撃った。

 轟音と共に木の枝が折れ、その音と折れた枝に信秀は驚く。


「なんだ。どうなってるんだ。それは。」


「これはな火薬というものを爆発させることで弾を飛ばす武器だな。」


「火縄銃というやつか?。外国にはあるらしいと聞いたが。武田も持っていると聞いたこともあるが。」


「そうだな。火縄銃の進化したやつだな。親父殿も撃ってみろ。こことここを合わせて撃ちたいところに合わせたらこの引き金を引け。そしたら撃てるぞ。」


 吉法師が教えた通り撃つと轟音と共に地面が砂埃を上げる。


「外れたな、親父殿。きちんと狙わなかったからだな。」


「凄い衝撃と音だな。これで人を殺せるのか。」


「当たればな。だから訓練が必要なんだ。だから30人貸せ、訓練するぞ。」


「なんで弓兵なんじゃ?」


「地球には引力があるから物は真っ直ぐには飛ばない。距離が離れるごとに狙ったまとより下に当たることになる。弓兵はそれを理解しているだろうが。」


「なんだ、いんりょくとは。なぜそんなことを知ってるんだ。」


「引力とはこの大地が物を引き寄せる力だな。そんなことも知らんのか。」


「お前はそんな事ばっかり言ってるからそれを理解できぬ政秀がうつけと呼んでいるんだろうな。うつけでなくて安心したぞ。早速、これから弓兵を訓練しろ。庭に集合させておくぞ。一刻待て。」


「なぁ、帰蝶。時間が一刻とか不便だな。時計も無いし。時計作って時間を統一するか。それと、太陽暦も始めるか。」


「時計は構造簡単だし、時計台と大きい時計作って皆に見えるようにして時間を知らせる?鐘を打って知らせるのもいいよね。でも太陽暦は基準が分からないわ。宣教師が来た時に聞いてみれば大丈夫かな。」


「まずは、清州と岩倉の織田に勝たないとな。あ!もしかしたら織田信長が岩倉か清州の織田にいて攻めて来るのか。どうする、逃げるか?嫌だぞ、脳みそチューチューは。車だ。車作って逃げるぞ。」


「大丈夫よ。そこに信長はいないわよ。安心して。それに銃があるでしょ。勝てるわよ。」


「帰蝶、お前なんで信長がいないと分かる。いるかも知れないだろ。」


 お前が信長なんだからいる訳ないだろうとは諸事情で言えない帰蝶であった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る