第18話 同郷

「だりん?では、またな、義父殿。何かあれば言ってくれ、直ぐ駆けつけるぞ。」


 そういうと吉法師は帰蝶の手を引き自分の乗る駕籠かごまで連れて行く。


「この駕籠は二人で乗るには狭い。俺は爺の後ろに乗って馬で帰るから一人でこの駕籠に乗っていけ。」


「うん。わかったわ。」


 そう言いうと籠に乗り込む帰蝶を放っておいて爺を探す吉法師であった。


「爺。爺はおらぬか。」


「は、ここに居りますぞ。」


「さっさと那古野城へ帰るぞ。ところで、爺、舵輪だりんって知ってるか。」


「もちろんですぞ。船の舵を取る輪ですぞ。」


「なるほど。いずれ家の舵を取る人間だから舵輪といったのだろうな。」


 とんだ勘違いをする吉法師であった。


 政秀の操る馬は暑い暑い尾張のデコボコ道を政秀と吉法師を乗せながら那古野城へ向け意気揚々と全く疲れを見せぬ様子で闊歩していく。


 早々に那古野城へと到着し縁側でくつろいでいると、追って到着した帰蝶が吉法師の元へとやって来た。


「お待たせ。ダーリン。」


「だっちゃ?」


「何よそれ。私は角も生えてないし、宇宙人でもない。ましてや、トラのビキニは履いてないわよ。電流は出せるけど。」


「どういう事?」


「ダーリンは、神に殺された十数名のうちの一人でしょ。私もよ。あの交差点にいた。男の人の後に殺されたの。神が私に力を呉れて、この世界に転生させてくれたの。父上から銃を見せられた時は驚いたわ。まさかこんな近くに神が殺した十数名のうちの一人がいたなんて。しかも私を嫁にしたいって。私はまだ八歳と思ったけど相手も八歳だったから了承したの。話もしてみたかったし。名前を聞いた時は驚いたわ、吉法師って。」


「お前もあの時の一人か。そうか、だったら知ってるだろ?織田信長。そいつがどうやらこの近辺にいるらしいぞ。このままいけばこの織田家はもとより近隣諸国もこの国も奴に取られてしまう。それよりも、信長に殺されれば頭蓋骨に酒を注いで飲むんだぞ、俺は自分の頭を御猪口おちょこにはしたくないんだ。だからな、奴より先に義父殿と同盟を結び、八歳とは言えお前を娶ることにしたんだ。」


 帰蝶は思った。何を言ってるんだこの人は、お前が信長だろうに。それが信長の影に怯えて行動しているとは。しかし、それが良い結果を生んでいるようだ。これは教えるべきではないな。よし、隠し通そう。と決心する帰蝶であった。


「私も聞いたことがあるわ。織田信長とんだ大悪人よね。神も仏も皆殺しらしいわ。でも、私も詳しくは分からないわ。もしかしたら、もう生まれて元服を待っているのかも知れないわね。幼名だけでも分かったらよかったのだけど。二人で信長に負けない様に先手を打って頑張りましょうね。」


「そうだな。信長に負けたら頭が御猪口おちょこだからな。脳みそ迄チュウチュウ吸われたらたまったもんじゃない。関西人じゃないんだから。二人で頑張るぞ。」


 そう新たに決意する吉法師と、笑いをこらえきれない帰蝶であった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る