第17話 同盟 弐

 既に日は高く昇り、後ほんの少しで頂点まで達する頃合いで強烈な日差しを吉法師に叩き付け、その日差しを受けた地面は湿気の入り混じった蒸された熱気を浴びせかける。暑い、兎に角暑い、暑いどころではない最早熱い。これ程汗をかいて臭くなった格好でフィアンセに会うのは気が引けると感じた吉法師は着替えることにした。着替えは親父殿御一行の吉法師専用の駕籠かごの中においてある。戦国時代は便利な馬車がなぜか存在しないという謎仕様だ。しかし、これが現実だ。こんな便利なものが無い。それこそが謎だ。今度こそ必ず馬車を作らせようと考えながら政秀の元へと歩き向かう吉法師であった。


「爺、爺は何処じゃ。」


「は、ここに。」


「爺、待ってたか、良し。褒美じゃ。」


 そう言って、先ほど拾った獣の骨を渡す。


「わしゃ、犬か!」


「お手。」


「だから、犬ではないわ!この馬鹿うつけ。」


「は?爺、馬鹿様とうつけと混ぜたな。混ぜるな危険‼だぞ。」


 今日も仲の良い政秀と吉法師であった。

 二人は行列に追い付き、吉法師は駕籠に乗り着替え、駕籠の窓を開け隣を歩く侍女に問いかける。


「何か飲み物をくれ。茶で構わぬ。」


 茶を飲みながら八歳の子供らしく眠りについた。


 暫くすると周りが騒がしくなる。どうやら到着した様だと起きだす吉法師であった。


「着いたのか?」


 侍女に尋ねると侍女は答える。


「はい。とっくに到着いたしております。」


「なんで起こさなかった。」


「平手様が、絶対起こすな、邪魔なだけだと申されましたので。」


「あの糞爺!」


 起きてお寺の中へ入ると既に引渡しも調印式も終わっていた。


「おう来たか、吉法師。利政殿これが倅の吉法師じゃ。逢っているとは思うが。」


「何度もな。婿殿、良う寝てたようじゃな。」


「起こしてもらえなかった。それで利政とは誰だ。」


「婿殿、俺だ。俺の名前だ。そんなことも知らんかったのか。」


「最初に言っただろ。蝮としか知らんし、何も知らんと。八歳だぞ!知る訳がない。」


「その割には色々と誰も知らんことは知っとるな。それと紹介するぞ、帰蝶だ。」


 奥から出てきた少女はそれは明智の血筋は美人が多いと言われるだけのそれは綺麗で高貴な、だがまだ幼い少女だった。


「ほー、これは予想以上に綺麗だな。将来は美人さんだな。」


「まだ何もするなよ。何分まだ幼いのでな。」


「ロリコンじゃねーわ。」


「何だ、そのろりこんとは。」


「俺の故郷の外国語だ。」


「故郷じゃなくても外国は外国だろ。意味が分からんぞ。」


「まぁ、何でも良い。帰蝶、一緒に帰るぞ。今日からよろしくな。」


「はい。よろしくお願いします。ダーリン。」


 そう言って吉法師の差し伸べた手を取る帰蝶であった。




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