第15話 危機一髪

 銃を向けられた吉法師は初めての体験に慄然としていた。どうせシールドを展開しているので防げるのだろうが、どの程度の効果があるのか未確認なだけに恐怖が顔に出る。そこで相手を拘束する魔法を使うことにした。


「おい猟師。お前は誰に雇われた。信光だろ。」


「さ、さぁな。俺は誰にも雇われてはいない。お前を殺したいから殺すんだ。」


「俺たちこれで金がもらえるぞ。」もう一人の猟師が漏らす。


「問うに落ちず語るに落ちるとはこのことだな。誰が金を支払うんだ。どうせ殺すんだろ、教えても構わないだろ。」


「そうだな。お前の言うとおりだ。信光様だ。さぁ、死ね!な、何だ、体が動かないぞ。どういうことだ。」


「残念だったな。」


 そういうと吉法師は猟師の持つ銃を取り上げた。もう一人の猟師も動けない。


「爺、どういうことだ。お前が連れてきたヘルパーは。」


「申し訳ございませんぬ。まさかこのような者どもとは思いもしませんでした。」


「あのな、爺。戻ってくるのが早かったな?そいつらは近くに居たという事だろ?だったら俺達を付けて暗殺の機会をうかがってたんじゃないのか。そうは思わなかったのか。爺。」


「いえ、地獄に仏と思いました。」


「爺、爺にとって俺といる事は地獄か。だったら俺は閻魔様か。地獄の鬼か。まぁ、そのおかげで信光を追い落とすことが出来る。守山城には暫く親父殿に守ってもらうとするか。松平と今川が何か言って来るかも知れんが俺が何とかする。」


「若様は八歳ですぞ。何とかするとはお飯事ままごとでもするのでございますか。そんなことを言ってるから馬鹿様と呼ばれるのですよ。」


「外患を呼び寄せたヤツが良く偉そうに言えたものだな。罰として熊と二頭の猪を一人で運ぶか。」


「無、無理でございます。ご勘弁をお代官様。」


「誰がお代官様だ、誰が。罰は後じゃ。獣はこいつらに運ばせるとしよう。爺、そう言えば馬車が無いな、馬車が。」


「馬車とは何でしょうか。」


「馬で荷物を運ばせるんだ。台に車を付けてそれを馬で引くんだ。そうすれば熊でも簡単に運べるだろうが。」


「そうですな。そう言えば馬車と言うのは見ませんな。」


「さぁ、お前ら熊と猪を持って守山城迄運ぶんだ。そこで洗いざらい吐いてもらうぞ。頑張れば刑を軽くしてやるぞ。逃げればこの武器で死ぬことになるぞ。」

 吉法師は二人の猟師を脅して熊と猪二頭を棒に括り付け担がせる。


 こうして、吉法師は政秀の後ろで馬に揺られつつ、銃の狙いを、前を二人で熊を抱えて歩く二人の猟師に付けながら、まだ正午過ぎの尾張の地を守山城へと向かうのであった。


 巨大な熊と猪を抱えながらも二人の猟師は半時はんときほどで守山城へと辿り着いた。政秀は二人に縄をかけ、守山城へ入場する。

 家人は吉法師を普通に信光の部屋まで通してくれた。そして、吉法師の顔を見た信光は焦りと驚愕の入り混じった不気味なものを目に表出させた。


「叔父御、今日は良いものを頂いたぞ。」


 そう言って二人の猟師を信光の前に突き出した。信光は顔全体に不気味な驚愕と焦りと混迷の入り混じったような感情を表しながら言い放つ。


「こいつらを捕まえろ。」


 二人の部下が吉法師を捕らえようとやって来る。既に政秀は別の者によって確保されている。

 吉法師は、銃で信光の利き腕を撃ち抜き、何が起こったのか必死に理解しようとしている信光に銃を向け宣言する。


「叔父御は、今日俺を殺そうとした。だから捕縛する。那古野へ連れて行き裁きに掛ける。」


 すると、子どもと侮った一人が吉法師を捕らえようと向かって来た。吉法師はすかさず足を撃ち抜く。すべての者が銃の轟音とその出来事に驚き固まってしまった。


「このまま戦えば死ぬぞ。そして、謀反人として一族郎党処罰されるな。ここで俺につけば処罰は免れるぞ。さぁ、どうする。戦って殺されるか、生きのこっても謀反人として追われるか、それとも俺に着くか。叔父御はもう終わりだぞ。」


 全ての人が吉法師の提案を受け入れたようだ。吉法師はその場にいた男に命令した。


「那古野城まで行って事の仔細を親父殿に伝え、ここまで来てくれるよう伝えろ。さぁ、行け。勿論、馬で行けよ。」


 一刻もしない内に信秀が部下を引き連れてやって来た。


「吉法師、話は聞いたが。本当か。」


「本当だ、親父殿、この叔父御が猟師を使って俺を殺そうとした。」


「それで一人でこの城を落としたのか。」


「そうだな。無血開城だな。」


「若、信光様は血が出てますぞ。」


「う、煩い。許容範囲だ。」


「なんのですか。」


「親父殿はこの城に暫く住めばよかろう。」


「そうだな、ここに暫く住むぞ。ただ、松平と今川が何と言うか。」


「親父殿、結局あやつらとは敵対関係で何ら変わるところはない。それどころか、松平が殺すよう命じたと無理難題を吹っ掛ければ良い。それとも俺は殺されたことにして、賠償を請求するか。」


「殺されたことにするのは対外的に不味いな。」


「ま、問題が起これば俺が何とかするぞ。それはそうと、今日は熊鍋だ。門の前に熊を置いてるぞ解体して熊鍋にしろ。」


そして、晩御飯に熊鍋を美味しく頂く吉法師親子と政秀であった。


 そして尾張の夜は更けていく。昼間は雲で覆い尽くされていた空も夜には月と星が出て賑やかさ取り戻していく。


今日も何とか織田家は平和であった。




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