第14話 猟

 日の出とともに照り付ける日光はいまだ気温を上げきらぬようで朝の尾張は涼しく心地よい風が吹いていた。吉法師は早朝から起きだし今日の猟の為に弾丸を作り続けていた。


「爺、爺は何処じゃ。」


「は、ここにいますぞ。」


「準備は済んだ。猟に行くぞ、何処が獲物が多い?守山の森か。」


「森山には叔父の信光様の守山城がございます。寄りますか。」


「そうだな。寄ってみるか。」


 そして、朝も早くから政秀と吉法師は馬を繰り出し守山へと向かうのであった。

 守山城の門まで来ると当然誰何される。


「どちら様ですか。」


「甥の吉法師だ。那古野からはるばる叔父に会いに来てやったぞ。」


「若ぁ、またそんな上からものを申して・・」


「来てやったんだから、正直に来てやったと言ったんだ、何か間違ってるのか?通るぞ。」


 中へ入ると直ぐに叔父信光の元へと案内される。吉法師は相も変わらず態度が大きく家人けにんは頭を下げてくる。


「叔父御、会いに来てやったぞ。茶でも出せ。菓子もな。」


「相変わらず態度がデカいな。それで何し来たんだ。」


「だから会いに来てやったんだ。が、一つ言いたい事がある。叔父後の妻は松平信定の娘だったな。叔父は松平の娘婿だ。もし今川が上洛しようと兵を進めれば叔父御は微妙な立場に立つのではないか。妻をどうするか考えた方が良いぞ。織田を取るか松平を取るかだな。今川の事は気にする必要はない。今川は屑だ。その内俺が滅ぼす。もなくば、どこかの織田信長と言う馬鹿が義元だけでも倒すだろう。問題は松平だ。そこに徳川家康と言うのがいる。そいつの味方をするなら織田の敵だ。その家康というはのは織田信長と同盟を組んで俺を窮地に陥れるやつだぞ。」


「信光様、何分八歳の子供の言う事ですじゃ、お気になさらずに。」


「そ、そうだな。吉法師。話は分かった。嫁の事は勢力的にどうしようもできないが考えておくぞ。しかし、徳川家康と言うのは聞いたことが無いな。嫁にも聞いておいてやる。織田信長も聞いたことが無いぞ。信の字が付いているという事は同じ家中か、何処にいるんだ。」


「俺にも分からない。しかし放っておけば、信長は美濃を味方につけてここら一帯はおろか、それ以上に勢力を拡大していくぞ。だがそれは何としてでも阻止せねばならぬ。だから力を貸してくれ。くれぐれも織田信長に協力したり味方になるんじゃないぞ、叔父御。」


「分かったぞ。絶対に織田信長に協力はせん。それはそうと美濃と同盟を結ぶのか。」


「素っ波か乱波でも使ってるのか?情報が早いな。俺が話を付けた。ほぼ決定している。後は調印だけだな。」


「お前がやったのか?お前は八才だろ?」


「いや、信じないなら信じないでもいいぞ。大うつけがまた何か言うとるわとでも思っておいてくれ。それとこれから猟に行くんだが守山の森へ行こうと思ってるんだが、どのあたりが猪が沢山いるんだ。」


「イノシシは動くからな。でも、何処でもいるぞ、散歩してれば出くわすぞ。だが大きな猪は危ないぞ、凶暴だ。」


「何、大きくても大丈夫だ。対策は万全だぞ。沢山取れたらお土産に持ってきてやるぞ。」


「どうやってとるんだ。弓矢か?」


「いや、別の方法だ。今度教えるぞ。俺の味方だと確信が持てたらな。」


「そうか、気を付けて行けよ。俺はお前の味方だぞ。」


 何やら八歳の子供に圧倒された信光であった。

 こうして、自分で自分の首を絞めているとは露と知らない吉法師は政秀の後ろで馬に揺られながら守山の狩場へと向かうのであった。


「到着しましたぞ。この辺りですな。」


 そこはまだ木があまり生えてはおらず、森というより林といった場所だった。

 既に正午近い時間ではあるが、空には雲が立ちはだかり日差しを遮り、心地よい風だけが吹いている。


 吉法師は銃を取り出し弾を込める。先日作出したHK416モドキの銃である。総弾数は30発。マガジンを長く作れば60発も行けるのではないかと思っている。フルオートも三点バーストも単発も撃てるように作った。作った弾の数はそれほど多くない。チャージングハンドルを引きチャンバーに弾を込め、先ずはセイフティ―レバーを単発にセットする。すると程なくして30メートルほど先に猪を見つける。狙いをつけ発射する。当たらない。吉法師は気付いた。ライフリングを刻んでない。これでは弾が回転せず弾道が安定しない。バレルが冷めるのを待ち魔法でライフリングを刻んでいく。義父殿の銃にもライフリングを刻まねばいけない。しかし、狙いがつけにくいな次はスコープを作らなければいけないななどと考える吉法師であった。


 当然先程の猪は既に逃げ見つからない。更に歩を進め森の奥へと侵入する。突如横から巨大な猪が飛び出してきた。吉法師は慌てながらもセイフティーレバーをフルオートへ合わせ猪に向け発射した。


 パラララララあラララ・・


 大きくも軽い発射音が響き渡り巨大な猪は絶命した。

 どうやら飛び出してきた猪に驚き残り29発全て使ってしまったらしい。

 マガジンに弾を込めるサイズは分からないがこれが標準になる。多分5.56mmの弾丸くらいだろうか。次はアンチマテリアルライフルでも作ろう。そうすれば攻城戦も楽になる。最終的にはミサイルだな。単に弾を飛ばすのではなく、その弾が目的物に当たった時に爆発するように。まぁ、ウランが見つかれば核爆弾も作れるだろうけど必要ないな。もしかしたらウランの産出地であるロシアやカザフスタン辺りに転生したやつが核爆弾を作る能力を持っているかもしれないが。それに対抗する手段は考えた方が良いのかも知れないな。吉法師の夢は尽きない。


 弾を込め終わると爺に聞いてみた。


「爺、この猪は誰が持って帰るんだ。」


「爺は、もう年故としゆえ持って帰れませぬぞ。」


「何を言ってるんだ。まだ五十才だろうが。人生これからだぞ。猪は持って帰れよ。」


「何を言うとるんですか、人生五十年ですぞ。敦盛でも謡ってますぞ。」


「爺。猪を食わんから五十年しか生きられない。猪を食え。猪を持てないならその辺で誰か雇って来い。俺はこの辺りで狩りを続けてる。」


「八歳の子供を一人には出来ませんぞ。」


「誰が子供だ、誰が!ってまだ子供だったわ。この武器を見たろ。これがあるから大丈夫だ。さっさと行ってこい。」


 あー、お目付け役がいなくなって清々したと人心地が付いた吉法師であった。


 吉法師は政秀との約束など忘れ森の奥へと進んで行く。銃を構え、セイフティーレバーは三点バーストの位置。緊張した面持ちでゆっくりと進んで行く。既に体の周りには魔法でシールドを展開し猪の攻撃位なら防げるが初めて使う為に緊張しているのもあるが、魔法で何とかなると思っている吉法師には過去世において遊んだゲームのように思えてワクワクしているのであった。


 ケッケッケッケッケッと鳥が鳴く。


 どうやらオオタカのようだ。そう言えば、もう三年も経つが未だに卵を持ってきてくれない事を思い出した。

 勿論、オオタカを撃とうとは思わない。


 暫く歩を進めると熊がいた。デカい。あまりに巨大だ。八歳の子供にしてみれば大きすぎた。そのまま逃げようとした時に熊がこちらに気付いた。ツキノワグマだ。さすがに本州にヒグマはいないだろうなと考えながら銃を構えた。どうせ逃げられない。時速50kmで走る熊からは逃げられない。撃つしかない。銃を構えながら、あーレッドドットサイトが欲しい。と考える余裕はあるようだ。10m辺りまで近づいてきた時トリガーを引き絞った。


 ダダダッ。


 外れた。三点バーストにしてるのを忘れていた。更に引き金を引く。


 ダダダッ、ダダダッ。


 銃撃音と共に熊が倒れた。どうやら弾が命中した様だ。それも当然だ。吉法師から二メートルと離れてはいなかった。

 音を聞きつけたのか、人を二名連れた政秀が帰って来た。


「大丈夫ですか。若っ!」


「あー大丈夫だぞ。今日は熊鍋にするか。」


「この熊を若が倒したのですか。」


「そうだ。これで爺も長生きできるだろ。」


 実はガクブルの吉法師であった。((((;゚Д゚))))ガクガクブルブル


 政秀が連れてきた二人はまだ若く猟師のようで弓を持っていた。熊の足を棒に括り付けながら好奇心で尋ねる。


「若様、どうやって倒されたのですか。」


「この銃でだな。」


「銃?銃ですか、なんですか、それは。」


「こうやって使うんだ。」


 そう言って吉法師は近くを歩いていた猪をセイフティーレバーを単発に合わせ轟音と共に倒して見せた。


「こうやって、遠くの獣を倒すんだ。弓矢よりも強力だぞ。その内、猟師も鉄砲と言うもので猟をするようになるぞ。鉄砲は便利だぞ。」


「俺もそれを撃ってみたいです、若様。」


「撃ってみろ。ここを引けば撃てるぞ。」


 吉法師は簡単な使い方を教え若い猟師に銃を渡してやる。

 若い猟師は嬉しそうに銃を構え、その銃口を吉法師に向けて来た。







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