第13話 帰宅

 尾張の那古野城へと到着した時には既に日は落ちて辺りは暗く、元いた世界の錦三丁目のように夜でも明るさを失わない街にしたいと願望を抱きつつ政秀の後ろで馬に揺られて城内へと入る吉法師八歳であった。


「親父殿は何処じゃ。そこに居ったか。決まったぞ、五日後の正午冨田の聖徳寺だぞ。そこで同盟の締結と、濃姫を貰い受けるぞ。連れて行く人数は十名ほどで良いぞ。」


「十名だと。襲われたらどうするのだ。今日はまだ土岐頼芸よりよしを返して欲しいが為にお前を返した可能性も否めないのではないのか。」


「大丈夫だな。岐阜殿は俺の事を爺よりは知っているぞ。今日も凄い武器を渡してきたぞ。」


「凄い武器を渡してきたのなら余計にまずいのではないのか。襲われる可能性が上がるぞ。」


「親父殿、武器を渡すという事は、それと同等の武器が沢山あるという事だ。にも拘らず戦いを挑んで来るのは自殺願望があるとしか思えんな。そんなことはしないだろ。それほどの武器を渡したんだ。こちらの戦力も過分に評価してくれるはずだ。安心しろ。」


「そうか。それより、祝言はあげるのか。」


「祝言は未だ上げない。まだ八歳だぞ。十年早いな。」


「だったらなぜ、貰い受ける。人質か。」


「同盟締結の証だな。それと、早くしないと織田信長に奪われるからな。そして、打倒織田信長の為の布石だな。義父殿を信長の味方に付けさせないからな。それと親父殿はいつまでこの城にいるのだ。」


「暫くはいるぞ。未だ住む城が出来てないからな。」


「そうか。ウザいな。早く出て行けよ。」


「親に向かって、早く出て行けとは何事だ。」


私事わたくしごとだ。早く出てけよ。」


 そして相も変わらず政秀を探し回る吉法師であった。


「爺はおらぬか。爺は何処だ。」


「ここに居りまする。」


「爺、飯は何処だ、ここは那古野だろ、偶には味噌カツが食べたいぞ。八丁味噌のかかった。」


「何ですか、みそかつですか。」


「豚はおらんのか?」


「豚ですか?猪みたいなやつですな。外国では食べられているとか。日ノ本では仏教の影響で食べませんな。」


「また宗教か。今日教えただろう。『仏に逢うては仏を殺せ 父母に逢うては父母を殺せ。』馬鹿な教えを忘れてこそ未来があるぞ。獣を食わんから日本人は背が低いんだ。明日猪を狩りに行くぞ。丁度銃を作ったばかりだから猟がしたかったんだ。八丁味噌は用意しろよ。」


「しかし、若様。八丁は岡崎、松平家の領地、曳いては今川家の領土で御座います。到底買いに参ることは出来ませぬな。」


「だったら、爺と二人でこっそり行けば大丈夫だろう。明日行くぞ。丁度いい。徳川家康を探してぶっ潰す。織田信長の盟友を潰せば信長の天下統一を阻めるぞ。これで俺が信長に殺されることも無いな。爺知ってるか?信長はな、殺した相手の頭蓋骨で酒を飲むという山賊の親方の様な大悪党だぞ、殺されたら大変だぞ。爺も気を付けろよ。」


「そうですか。気を付けますよ。それと岡崎には連れて行きませんよ。」


「連れて行かないと、爺が美濃へ連れて行った事をばらすぞ。」


「はぁー、何を仰るやら、この馬鹿様は。既に殿から御叱りを受けましたぞ。もうばらしてるのにも関わらず、ばらすと脅すとは、はぁー情けない。だから馬鹿様と言われるのですぞ。」


「いや、馬鹿様と言っているのは爺だけだし。早よ飯を持て。」


 今晩も平和な織田家であった。




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