第12話 同盟
美濃の夏は尾張と変わらず暑い。そのくせ冬は雪が降り積もり極寒になる。夏と冬の寒暖の差が激しい。こんなところ住みたくないなと、そのうち引っ越して来るとは思いもせずそんな感想を
井ノ口の城下町に辿り着く。稲葉山を見上げると今年改築したと言う稲葉山城が見える。ただあまりにも遠すぎてどこが新しくなったのか、そもそも新しくなったのか、あんな山の
程なくして蝮の屋敷に到着した。
「爺は、そのあたりで待て、一人で行って来る。」
「待てって、儂は犬じゃないですぞ。」
「お手!」
「だから犬じゃないですわい。」
相も変わらず、吉法師は堂々と屋敷の中へと進んで行く。周りの家人はあまりに堂々とした態度に客人だろうと推測してしまい頭を下げる。
「義父殿はおるか?」
「お、お前か。また、こっそり入って来たのか?誰も止めなかったのか?何をやっとるんだ家の者は。って俺はお前の義父じゃないぞ。」
「まぁ、そのうち義父になるのだ。固い事を言うな。そのうち岐阜になるだけに・・ぷぷっ。」
「何じゃ?」
「おい、そこ笑うとこ!」
「今日は何用で参ってのだ。」
「日取りを決めに来たぞ。土岐
「それで構わぬ。」
「一つ問題がある。義父殿の息子の義龍は土岐頼芸の息子じゃないのか。問題はそれが事実か虚構かに関わらず、義龍は疑念を抱くという事だ。そしてその疑念が義父殿と義龍の間に大きな溝を作るぞ。その溝が義父殿を殺す事になるかもしれん。分かっているのか。用心しろよ。」
「それは何とかするぞ。それで、日取りと引き渡しの場所はどうするのじゃ。」
「五日後、正午に冨田の聖徳寺はどうだ。ちょうど
「よし、五日後に聖徳寺、正午だな。その時、帰蝶は連れて行くぞ。今日は逢うていかぬのか。」
「いや、逢いに来たのだが五日後を楽しみにしてるぞ。それから、昨日那古野城を俺が貰い受けた。俺と帰蝶の新居だな。城壁を張り巡らし、いかなる敵からも帰蝶を守ってやるぞ、安心しろ。」
「ほー、それは安心じゃな。」
「それと手土産があるぞ。これだ。銃だ。」
「なんだそれは。」
「もう直ぐ、いやもう武田は持っているとは聞いたことがあるが、火薬を爆発させて弾を飛ばす兵器だな。普通は一発一発弾を込めるのだが、これは30発の弾が込められるように作った。使い方は簡単だがここでは無理だからこの後、外で教えるぞ。これで自分の身を守れ、義父殿。」
その後、屋敷の庭では立てた
夕方、日も暮れかかる井ノ口の城下町は家へと向かう人々が行き交う。土の匂いのする城下町、アスファルトで囲まれた都会では味わえない匂いに郷愁を感じつつも、もう慣れたな、この世界ではこれが普通だと感じる吉法師であった。
「爺、帰るぞ。」
「どこへ行っていたのですか。」
「蝮と捕虜の引き渡しについて話し合ってきたんだ。」
「また、何を世迷いごとを。夢でも見ていたのですか。捕虜の引き渡しについては殿が使者を遣わしているはずでぞ。」
「もういい。帰るぞ、爺。」
「はい、はい。今日も楽しかったですか?たまには勉強しないと阿保が酷くなりますぞ。」
「爺、阿保って言ったな。もう許さん。もう勉強はせんぞ。」
「和歌も歴史も勉強せぬと阿保になりますぞ。」
「爺、『仏に逢うては仏を殺せ 父母に逢うては父母を殺せ 』という禅の言葉を知らぬのか。」
「なんですかな、それは。」
「過去に学んできたこと、信じてきたことを、全て手離した先にこそ、本当の未来があるということだ。学んできたことを手放せ、爺。そんなものに価値はないぞ。」
「それは詭弁というものでしょう。屁理屈だけは一人前で、困ったあ馬鹿様だ。」
「あー、また馬鹿様って言ったぁ!」
そして二人は那古野城へと日暮れの美濃を馬でのんびり帰るのである。
今日も織田家は平和であった。
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