第11話 鉄砲伝来
強烈な日差しが降り注ぐ尾張の暑い夏とは関係が無いが更に暑い日差しが降り注ぐ種子島に、信長八歳のこの年八月二十五日にヨーロッパから来た船が漂着し鉄砲を
そんな鉄砲伝来の事は知らないが、その二十日ほど前に吉法師は銃の製造に取り掛かることにした。設計図はもちろん前世の記憶。製造は鉄を溶かして鍛造する方法などではなく土魔法で行おうとしている。
「爺、爺はおらぬか。」
「はっ、お待たせいたしました。」
「爺、昼から引っ越しじゃ、午前中は書き物だ。紙と筆を持て。」
「勉強されるのですか。爺は嬉しいですぞ。」
「まずは設計図だな。」
「ただの落書きですな。さすが馬鹿様じゃな。」
「何か言ったか?」
「いえ、空耳ですじゃろ。」
吉法師は前世の記憶を頼りに、まずはアサルトライフルの図面を書いてみる。M4のリュングマンシステムによるブローバックよりもHK416 のガスタペット式のブローバックがいいな。できたらフルオートだけでなく3点パースとも出来るようにしたい。これは製造工程だけ魔法で、普通の人が使えるように火薬エネルギーで発射するシステムにしたいからきちんと作らないと
図面は墨で書いた適当なものだが、それはただのイメージだ。後は魔法でどうにかなるだろう、神が上手くまとめてくれるだろうと甘く考える吉法師であった。
そのイメージ通りの部品を庭を砂を触りながら鉄を集めるイメージで作り上げた。鍛造のように、金属内部の空隙をつぶし、結晶を微細化し、結晶の方向を整えて強度を高めるようにイメージしながら部品を形成する。全ての部品を作り上げたが大きさが
火薬はトイレで採れる硝酸塩から作れるし、人工的に硝酸塩を作って火薬を作る事も出来る。
火薬には二種類必要だ。プライマーとパウダー。プライマーが撃針で叩くと直ぐ発火し、それがパウダーを爆発させ弾丸を飛ばす。
こうして、一丁の銃と弾丸が出来た。これを大量に作れば信長よりも早く蝮と同盟を結び娘を手に入れられる。信長より先に今川を倒せる。どころか信長を倒す事も出来る。そうだ、今が戦国なら信長こそが最大の敵だ。この銃で信長を倒す、織田信長何するものぞと決意する吉法師であった。
その日の午後も尾張の空は晴れ渡り強い日差しが大地を照り付けていた。吉法師は政秀と共に僅かばかりの荷物を持って信秀の待つ那古野城へと向かうのであった。
「どうだ。親父殿。腹は決まったか。」
「決まったぞ。お前の言うように斎藤と同盟を結ぶ。これから使者を
「そうか。親父殿にしては良い判断だ。」
「どういう意味だ。」
「親父殿は甘い。犬山城主の織田信清や楽田城主織田寛定、他にも色々尾張国内に敵がいるにも拘らず尾張国外へ打って出ると言う愚挙をやらかす。今回もそうなる所だったぞ。尾張も取れずに何が美濃じゃ。だからこそ今回の親父殿の判断は懸命だったと言うとる。蝮とは即刻同盟を結びその上で尾張を纏めるべきだな。」
「なぁ、吉法師。お前は本当に八歳か?」
「そうだが、俺が我儘なのは爺が悪いんだ。だから我儘の文句は爺に言え。それと、今日から俺はここに住むぞ。今日から俺がこの城の城主だな。好きなように改造するぞ。大丈夫だぞ、勿論金の
「だから何だその金の
「屋根に付ける魔除けだな、多分。それから、斎藤への使者は俺だ。俺が行くぞ。俺が蝮と同盟の話を進めたんだ。話し合いの結論を伝える使者も捕虜の引き渡しも俺が取り仕切るぞ。」
「お前は八歳にはみえぬぞ。俺にはその織田信長というやつよりお前の方がよっぽど恐ろしくみえるぞ。」
「甘いな親父殿は、織田信長という男はこの日ノ本をほぼ統一し未来においても人気を保ち続ける、それはそれはすごい男なんだ。だから俺がそいつに勝とうと思えばもっと努力しないと勝てないんだ。しかも勝てなかったら俺たちは終わりだぞ。尾張だけに。ぷぷぷっ。」
「なんじゃ?」
「そこ、笑えよ!親父殿、俺はこれから美濃へ行って引き渡しの日取りを決めて来るぞ。フィアンセの顔も見てみないとな。待ってろよ、帰蝶。」
「護衛は何人付けるんだ。」
「政秀一人で十分だ。」
「八歳のガキを一人で行かせるわけにはいかんだろうが。」
「この前も爺だけ連れて行って来たぞ。大丈夫だ、タイタニックにでも乗った気でいろ。」
「何じゃ、たいたにっくとは?」
「大船だ、大船。沈むけど。」
「・・・・」
信秀と別れた吉法師は政秀と共に同盟の締結に向けて美濃へと赴くのであった。
「爺、爺はおらぬか。」
「はい、ここですじゃ。」
「これから美濃へ行くぞ。」
「またですか。もう行きたくありませぬ。」
「だったら、先日お前が俺を美濃まで連れて行ったことをばらすぞ。良いのか。あーこれで家老じゃなくなるな。今後こき使われて家老が過労で死ぬかもな。」
「分かりましたぞ。仕方のない我儘馬鹿様ですな。」
「誰が我儘馬鹿様だ。何文字熟語だ。熟語じゃないけど。」
時間は正午を過ぎたあたりだ。この時代は昼食を取らない。政秀の後ろで馬に揺られながら真上を過ぎたばかりの太陽が照り付ける猛暑の午後の尾張を美濃へと向かいながら吉法師は思うのであった。
「腹減ったぞ、爺。西瓜くれ。」
今日も織田家は平和であった。
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