第9話 戦略

 尾張は日ノ本でも一二を争う程気温の高い土地である。今日も今日とて尾張の若様は縁側で西瓜を食べながら思考する。

 今川を倒すとは言ったものの、義元一人ならこっそり居城迄赴きこっそり殺してこっそり帰って来ると言う方法も出来ぬ事はない。しかし、それでは領地を息子が継ぐだけで今川を倒したことにはならぬ。そうなれば、また織田信長が台頭して来るかも知れん。更に、徳川家康は御当地美女を掻っさらって江戸へ逃げて行くであろう。それだけは阻止せねばならぬ。だとすれば倒すのは義元だけにあらず。今川全てが俺の敵だ。今川をすべて倒さねばならない。何か良い方法は無いか。そうだ先ずは戦力の強化。武器を揃えねばならない。銃を作るぞ。


「爺、爺はおらぬか。」


「はい、ここにおりますぞ、若様。」


「紙とペンを持て。」


「ペンとは何ですぞ?」


「筆じゃ、筆。墨もだな。ところで、鉄砲って知ってるか。」


「てっぽうですか?なんですかなそれは。」


「爺は鉄砲も知らぬのか?バカ爺だな。」


「知りませぬが馬鹿ではないですぞ。自分が知ることを他人が知らぬからといって馬鹿だと罵るのはバカのすることですぞ。」


「それはいつも俺が言ってる事だろう。なんで分からんのかね。」


 吉法師は考えた。そろそろ鉄砲が伝来しても良いのではないのか。伝来していればそれを手に入れ改良する事も出来るだろう。しかし、そもそも、そんな古い種子島の鉄砲が必要か。火薬さえあればなんとかできるのではないか。いや、火薬が無くても魔法で作れるのではないのか。だったら後は銃の構造だけだな。

 そう考えた吉法師は紙に銃の構造を書いていくのであった。


「爺。リボルバーって知ってるか。銃の種類だな。」


「はぁー、何を言ってるんだか馬鹿様は。知りませぬな、なんですか、そのれぼるばとは。」


「簡単な構造の銃だな。ただこれじゃ、連射が出来ないんだよな。知ってるか、織田信長はな、銃を、いくつも使って前後で交代して使う事で連射を可能にするんだぞ。それで武田を倒すんだ。」


「あの武田で御座いますか?鎌倉以来の大大名を倒すとは、また、凄い人物ですなぁ、その織田信長と言う御仁は。わしはもうその信長様に使えたくなりましたぞ。」


「だから信長に武田を倒させないためにも、俺が武田をぶっ潰すのだ!」


「はぁ、凄いですな馬鹿様は。昨日は今川、今日は武田を潰すのですか。それではこの日ノ本はいずれ若様の物になりますな。」


「俺が潰さないと、織田信長がいずれ潰してこの日本を自分の物にしてしまうんだぞ。そうなったら俺の大奥は何処にあるんだ。だから信長が潰す前に俺が今川と武田をぶっ潰んだぞ。あっ、それと徳川家康な。」


「はぁ、そうでございますか。頑張って下され。やれやれ。」


「今、やれやれと言ったか?爺!」


「あ、西瓜が来ましたぞ。」


「わーい、西瓜だ西瓜だ。」


 尾張の空は日も高く晴れていて雲一つない晴天に恵まれ、いまだに吉法師は子供であり、織田家は平和であった。ただ吉法師の願望だけが膨らみ続けるのであった。

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