第8話 狸

 強い日差しの照り付ける尾張の暑い夏、縁側で寛ぎ茶を啜る吉法師はいつもの如く思考するのであった。

 ヨーロッパに行くまで金髪ハーレムは作れないだろう。だからといってそれ迄我慢する事も出来ない。だったらここでもハーレムを作るしかない。そうだ御当地ハーレムと言うやつだな。しかし、最も邪魔な存在がいる。そいつは近隣の美女を集め江戸へ連れて行く女衒のような奴だ。その所為でこの近隣には美女が少ないと言う話があるくらいだ。こいつを何とかしなければ俺の未来はない。


「爺!爺はいるか。」


「は、ここに。此処におりますぞ、若様。」


「爺は徳川家康という男を知ってるか?」


「いえ、知りませぬが。徳川といえば隣の領の松平家が以前そう名乗っていたとは聞いておりますが。」


「そうだ!松平だ。そこにいる誰かだ。」


「その徳川家康という者がどうかしましたか。」


「こいつはとんだ悪党だ。近隣の美女を掻っ攫い、江戸に連れて行き、売り飛ばすと言う女衒も泣いて裸足で逃げ出す悪党だ。こいつを何とかしないと俺の未来はない。」


「とんだ悪党もいたものですな。」


「そうだ。更にこいつは織田信長と結託したうえで近隣を我がものにしてしまうぞ。」


「近隣とはどこですか。」


「江戸だ。」


「以前も言ってましたが、だから江戸とはどこの田舎ですかな。聞いたことが無いですぞ。」


「兎に角、織田信長と徳川家康を結託させるわけにはいかん。これだけは阻止しないと俺に未来はない。滅ぼされてしまうぞ。」


「それはとんだ妄想ですな。何処から情報を仕入れたのやら、情報源は夢ですか?」


「爺は信じぬのか?」


「勉強をして下さらぬか。勉強すれば、滅ぼされることも無いでしょう。」


「和歌で戦うのか?馬での一騎打ちは馬上で和歌を唱えて優秀な方の勝ちか?本当にそんな戦があるのか?お前はバカ爺なのか。」


「馬鹿様に言われたくはありませぬな。」


「あー、また馬鹿様といった。すいません、どなたかぁー、この糞爺ぃが八歳の子供を虐めるんですけどぉ、虐待です。助けて下さい。」


「わ、分かりました、若様。それでどうして欲しいのですか。」


「今度は徳川家康を探しに行くぞ。」


「はぁー、とんだ馬鹿様ですな。松平家は現在今川義元の属国ですぞ。行けるわけがありません。今川は大大名ですぞ。」


「おー桶狭間の今川か?」


「確かに桶狭間は今川領ですな。」


「よし。決めた。今川は俺が倒す。ぶっつぶーす。」


「はぁー、またこの馬鹿様は。大大名を倒せるわけないでしょうが。国力が全く違いますぞ。当織田家は未だ尾張一国さえ手中に収めてはいないのですぞ。」


「あのなぁ、爺。今川義元は織田信長に倒されるんだぞ。此の侭指をくわえて眺めてれば、織田信長が今川義元を倒しこの近隣での確固たる地位を築いてしまう。その前に俺が今川義元を倒さないと俺の未来は、俺のハーレムの夢は潰えてしまう。だから、俺が今川を倒す。そうすれば、今川の家臣の徳川家康も潰せるだろう。」


「はぁー、そうですか。頑張ってください。これだからガキは・・」


「何か言ったかぁ?」


「い、いえ何も言ってはおりませぬぞ。まぁ、頑張って下され。」


「よーし、今川は俺がぶっつブース。待ってろよ徳川家康。俺がついでに潰してやるぞ。ご当地美女は俺の物だ。そして織田信長ぁ、残念だったな。今川義元は俺が潰すからお前が有名になる事はないぞ。織田信長何する者ぞぉ!」


 と高らかに宣言する吉法師であった。


 尾張の夏は暑く、その日差しは強烈で、縁側で寛ぐ吉法師は早く西瓜が出て来ないかと心待ちにしているのであった。

 今日も織田家は平和であったそうな。


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