第7話 嫁探しも・・・・

 尾張の夏は暑い。降り注ぐ太陽光は身を照り付け焦がしていき肌の色を濃くしながら人々を苦しめるとともに作物を甘く美味しくしていく。

 吉法師はその恩恵にあずかりながら縁側で西瓜を美味しく頂きつつ平常いつものように思考し続けていた。

 このままただ待っているだけでは信長に先んじられてしまい、蝮の娘を取られてしまう。蝮の娘は美人だと言う話だ渡すのは惜しい。蝮の娘は生まれている。だとすれば、信長は未だ元服していないだけでもう生まれているだろう。もっと歴史を勉強していれば何時いつ頃信長が妻をめとるか分かるのに。それが分からない現状では先に行動するしか方法はない。よし決めた。吉法師は決意したのであった。


「爺、爺は何処じゃ?居らぬのか?」


「はっ、爺はここにおりますぞ。」


「爺、これから蝮の城まで連れていけ。」


「どうしたのでございますか。気でも触れましたか。」


「昨日言っていた信長だが、何時いつ蝮の娘をめとるか分からん。そこで先手を打つ。蝮の城におもむき直接交渉する。」


「何を馬鹿な事を言ってるんですか。だから馬鹿様と呼ばれるんですぞ。」


「馬鹿様と言っているのは爺だけだろ!」


「しかし、斎藤家と織田家とは今仲が悪く蝮に追い出された土岐頼芸と息子を織田家が匿い戦になろうとしていますぞ。」


「だったらまだ戦には至っていないんだろ。戦をしない為にも交渉に行く必要があるんじゃないのか。土岐頼芸を蝮に渡して和睦交渉。頼芸と交換に娘を嫁にもらうと言うのはどうじゃ。」


「そんな、簡単には行きませね。それに全ては御父上がお決めになります。」


「だったら、行くだけ行ってみたら良いんじゃないのか。」


「逆に人質にされますぞ。」


「ちょっとトイレへ。」


「といれ?」


「厠じゃ、厠。」


 俺は魔法が使えるから人質にされる事はないだろうな、一人で行ってみるか。転移の魔法は使えないのかな。試してみよう。

 そして、吉法師は転移の魔法を試してみた。すると転移できた。10mほどだった。


「えーい‼これじゃ美濃まで行けやしない。厠までが精一杯じゃないか。」連れて行って貰おう。


「爺!お忍びじゃ、お忍びなら城下町まで行けるだろう。」


「無理に決まっとります。」


「だったら一人で行く。あー、捕まっちゃうかもなぁ。」


「無理なものは無理ですぞ。」


「だったら歩いて行くぞ。今生の別れじゃな、爺。」


 政秀は考えた。馬鹿様がいなくなっても清州には弟の信行様がおられる。馬鹿様一人いなくなっても問題ないか。それどころか殿も喜ばれるかもしれん。


「分かりました。でも内緒ですぞ。」


「では早速、馬を持てぇ!」


 こうして、陽光照り付ける盛夏の尾張を平手政秀の後ろで馬に揺られながら美濃へと赴く吉法師であった。信長何する者ぞと心に誓いながら。


 美濃までは距離にして二十数キロである。馬は二人を乗せ快調に二時間ほどで到着したのであった。


「おー、ここが稲葉山か?あの頂上にあるのが蝮の巣か。」


「稲葉山城で御座います、若。」


「で、蝮はあそこにいるのか?どうやって登るんだ。」


「いえ、蝮は麓の屋敷にいると思うのですが詳しい事は当然秘密で御座いましょうから分かりませぬな。」


「使えぬ爺じゃな。」


「いえ、馬鹿様ほどではござりませぬな。」


「あ、また馬鹿様って言ったな!もう良いわ。一人で行って来る。子供一人の方が怪しまれぬだろうからな。使えぬ爺はここで茶でも飲んでおれ。」


 政秀は城下町にある茶屋で、なるようになるであろうと高を括りながら茶をすするのであった。


「あー、茶が美味いわ。あ!格好が若様然とした格好だった。こりゃ直ぐ捕まるか。茶飲んだら独りで帰るかな。」などと傅役にあるまじきことを考える政秀であった。


 一方、吉法師はあまりにも堂々とした態度で屋敷の中へと進んでいく為に、誰も疑いもせず、あまつさえ殆どの者がお辞儀までする始末であった。そして、そのまま一番奥の部屋まで入って行くのであった。


 奥の部屋には一人偉そうに座っている男がいる。


「お前が蝮か。」


「ガキが、何処から来た?お前は誰じゃ。」


「俺は吉法師と言うんだが、今日はお願いがあって来てやったぞ。」


「何がお願いがあるのに来てやったとはどこまで偉そうにしてるんだこのガキは。誰か居らぬか、ガキをつまみ出せ。」


「それは、お前の為にはならんな。蝮はもっと強欲だろうが。」


「お前はわしの前でもへつらわぬのか。中々豪胆だな。話だけでも聞いてやるとするか。お前はわしのことをどれだけ知ってるんだ。」


「なんも知らん。名前が蝮という事と娘がいるという事だな。」


「本当に知らんのか、それで何しに来た。」


「俺の親がこの国の国主であった土岐頼芸を匿っていると聞いたが、その身柄が欲しくはないか?」


「何だ、お前は織田信秀の息子か。どうせ、末っ子辺りで弾正忠家の後継者には程遠い息子なのだろうな。だから来たのであろう。」


「いや、俺は長男だぞ。上には一人いるが庶子だからな。俺が実質的な長男だな。」


「ほぉ―、ではお主があの吉法師と言う訳か。」


「何だ知ってるのか?」


「少しは情報を集めているからな。」


「何だ、織田家にも乱波がいるのか。」


「ま、そう言う事だな。それで願いとはなんじゃ。」


「土岐頼芸の身柄を渡す。その代りに娘を嫁にくれ。俺を婿にするとお得だぞ。」


「ふん!お前にそんな力があるのか。信秀が渡さんと言ったらどうする。」


「説得する。出来なければ奪って来るぞ。」


「どうやって奪うんだ。未だ八つのクソガキが。」


「なんで年齢を知ってるんだ?あ、乱波か。」


「ではこれを見ろ。」


 すると蝮の体が宙に浮く。そして一回転する。


「どうだ。俺には不思議な力があるぞ。もちろんこれだけではない。便利だぞ。婿にして損はないぞ。」


「そうだな。その肝の座ったところといい、不思議な力といい、味方につけて損は無いな。それどころか味方に付けなければ危なくてしょうがないわ。何時いつ暗殺されるか分かったもんじゃないな。現にここまで侵入されてる訳だが、それも何か不思議な力を使ったのか?」


「いや、何も使ってはおらんぞ。堂々と入ってきたらお辞儀までして通してくれたぞ。警備体制がなってないな。」


「そ、そうか。善処しよう。」


「ところで、これだけは聞いて欲しいお願いがあるんだが。」


「なんじゃ。」


「この先、織田信長という男がお前の娘を嫁にしようとするだろう。それだけは絶対阻止してくれ。絶対だぞ。」


「織田信長か?それはお主の家中の者か?」


「いや、それが今のところ全く分からんのだ。だから困ってる。だからこれだけは約束だ。絶対織田信長という男が娘を嫁に欲しいと言って来ても断ってくれ。分かったか。」


「おー、分かったぞ。俺とお主の中だ。絶対に織田信長という男が娘を、帰蝶を嫁に欲しいと言って来ても断るぞ。絶対だ。約束だぞ。」


「では、帰って、親にお願いして来るか。ここまで一刻ほどで来れるからまた来るぞ。でも絶対織田信長が来ても娘を嫁に差し出すなよ。」


 そして、意気揚々と強い日差しの照り付ける井ノ口の城下町を政秀の下へと向かう吉法師であった。まさか自分で自分の首を絞めているとは思いもせずに…







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