第6話ライバル
時は流れ吉法師は八歳になっていた。今日も今日とて盛夏の暑い日差しの中、吉法師は庭を眺めながら考えた。
早く俺の手足となって働いてくれる者を募集せねばならん。しかし
しかし、吉法師には
「若様。そろそろお勉強のお時間で御座います。」
いつもの如く家老にして吉法師の傅役である平手政秀は吉法師に勉強をさせ少しでも賢い若様になって頂こうと、これ以上バカ殿とか大うつけとかと呼ばれぬように努力する毎日であった。
「今日は何じゃ。」
「今日は和歌で御座います。」
「若は俺で十分じゃ。そんな若は要らん。」
「字が違います。若ではなく和歌です。」
「若ではなく馬鹿ですと言ったか、爺?」
「いえ、そんなことは言っておりませんぞ。和歌ですぞ、若。」
「和歌ってあれか、五七五七七とかいうやつか?そんな昔の歌勉強して何になる?期末テストに出るのか?そんなもの勉強して
「なんですかな?はーれむとは?」
「爺!お前はハーレムも知らんのか?大奥みたいなやつだな。」
「大奥とは何ですかな?」
「爺?お前は大奥も知らんのか日本人のくせに。大奥は日本人の心の寄り何処と言ったところだな。」
「どこにあるんですか?法螺話で御座いましょう。」
「江戸じゃ。お江戸じゃ。」
「おえどですか。さぁ、聞いたことが無いですな。どこかの田舎でしょうか。」
「まぁ良い。爺。俺には心配事があるんだ。」
「何で御座いましょう。」
「俺の家の姓は織田だ。そしてここは尾張だ。爺は織田信長と言う名前を聞いたことが無いか。」
「信長で御座いますか?さぁ、織田と言うからには尾張の織田のどこかの家中にいらっしゃるのかも知れませぬが、清須城の尾張守護代・織田大和守家でも他でも聞いたことは御座いませんな。」
「いや、何でもそいつは有能な人材を集め、身分に関係なく登用し、人材を活用して戦に勝ち、経済を活性化させて大儲けをしておるそうじゃ。聞いた事はないのか?」
「いや、そのようなもの聞いたことはありませんな。」
「なんでも小さい頃は大うつけと呼ばれたそうだ。」
「おっ、そこだけは若とそっくりで御座いますな。」
「だけは余計じゃ。だけは。そんな奴が出てきたら教えてくれ。多分近くに居るはずだ。そいつが出てきたら俺のハーレム人生を真っ向から
「さぁ、与太話はそれくらいにして、和歌の勉強をしなければ、将来将軍家からお呼びがかかった時に恥をかくことになるかもしれませぬぞ。」
「いや、俺は打倒信長の為に人材募集に街へ赴かねばならぬのだ。」
「何をゆうとるのですか、若は。近所の悪ガキをを集めて角力でもする気でしょう。」
「あのな、爺。小さい頃は近所の同年代の子供と遊ばないとコミュ障になるんだぞ。知らないのか。」
「こみゅしょ?何馬鹿な事を言ってるんですか。馬鹿様。」
「じ、じ、爺!今、馬鹿様と言わなかったか?」
「いえ、言っとりませぬが。聞き違えでしょう。」
「いや、言った。誰でもない爺が俺の事を馬鹿とうつけと呼んでるんだな?爺?もう今日は勉強はせぬ。川へ連れていけ。長良川で泳ぐぞ。今日は暑すぎる。鵜飼はやってないのか?」
「鵜飼はやってますぞ。」
「よし。今日は鵜の取った魚を食べるぞ。馬を持て。爺。」
「ははぁ。しばらくお待ちください。おい誰ぞ、儂の馬を用意しろ。」
こうして、日も傾き始めたが未だに強烈な陽光の降り注ぐ尾張を勝幡城から西の長良川へと馬を走らせる政秀と吉法師であった。
「あれ?長良川の鵜飼いって稲葉山の
「よくご存じですな。ただ、長良川ならどこでもやってますぞ。漁の手段と言うだけですじゃ。稲葉山は現在は斎藤利政殿が美濃を治め稲葉山城の城主となってますな。」
「道三か?」
「いえ、利政殿ですな。」
「何だ、道三じゃないのか。蝮じゃないのか。」
「いえ、利政殿は土岐頼芸を排斥しその地位に付いた為に蝮と呼ばれとりますな。」
「なんと!では、美人の娘がいるんじゃないのか?母親は明智氏だろ?明智の家系は美人が多いと言う話だ。」
「そうですな。母親は明智氏の小見の方です。美人かどうかは分かりませぬが、娘はおりますぞ。」
「そうか!ならば信長より先に俺の嫁にするぞ。」
「若ぁ!若は未だ5歳ですぞ。未だ妻を娶るには早すぎますぞ。
「いや、唾を付けておくだけだ。よし、信長何するものぞ!俺が先に奪ってやるぞ!。」
新たな決意を胸に秘める吉法師である。
そして、馬は長良川へ到着し魚を美味しく頂く政秀と吉法師であった。
とうに日は落ち既に辺りは暗く、涼しい風が吹く尾張の土地を馬に揺られながら勝幡城へと向かう吉法師は思うのであった。
今日も楽しかった。あ!求人募集は・・・・
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