第9話
【11】紅 (紅茶、紅花、口紅、紅鮭)
・―・―・―・―・
あのチューリップハットの老婆に一撃されたのがよほどの痛手だったのか、あれ以来、公園でクイズ男を見ることはなかった。
それでも
それは、5月に入って間もなくだった。例のベンチに人集りができていた。まさかと思いながらも、期待を胸に小走りになると、急いで人垣を掻き分けた。
そこに居たのは、紛れもなくクイズ男だった。僕は思わず笑みが溢れ、無意識のうちに握手を求めていた。
「よぉ、お馴染みさん。またよろしく頼んますよ」
クイズ男は笑顔を向けると、そう言って、気安く握手に応じた。
「えー、3ヶ月のご無沙汰、玉置セマシです」
ハハハ……。周りが笑った。
僕も嬉しかった。クイズ男は余計なモノが吹っ切れたかのように快活で、こっちまで気持ちがよかった。
サンドウィッチマンの格好は相変わらずだったが、着ている物がダウンジャケットからTシャツに変わっていた。
「
「よっ、待ってましたっ!」
常連の一人が声をかけた。
パチパチ……。周りからも拍手が起きた。
「嬉しいね。ありがとさん」
「じゃ、俺からいくか。快気祝いだ。Bコースを」
馴染みの見物人が名乗りを上げた。
「悪いね、どうも。快気祝いってこた、こっちが頂かなくっちゃな。じゃ、これでもいってみっか」
クイズ男は、例のメモ用紙をパラパラと捲ると、適当なのを中年男に見せた。
【12】次のスケルトンから、ナナメに四字熟語を探せ。
雨音 一時雨 情熱
台 風物 風流 帯
風媒花 姿 星月夜
酌 花見客 下
偉人伝 車海老
大 書留郵便 人情
「ゲッ! マジかよ。俺から金を巻き上げる気だな? 四字熟語なんて、キキイッパツかキキキリンぐらいしか知らないや」
ハハハ……。周りが笑った。
「どうする、やめとくかい?」
「いや、やるさ。武士に
「じゃ、スタートするぜい」
「あいよぉ」
「3・2・1、スタート!」
クイズ男がスタートの合図を送った。
中年男は腕組みすると、ああでもない、こうでもないと呟きながら、頭を
「もう時間が来たろうでぃ。おーい、きたろー!」
「うむ……たぶん、これじゃないかな」
「どれ?」
「とき、かぜ、ほし、した」
「で、どういう意味?」
「風が吹く時は星の下がキレイだなぁ、みたいな?」
「ブー! 残念。答えはこうよ」
クイズ男は手招きすると、答えを見せた。
「……何これ? 難し過ぎだよ。それに誰よ、このセアヤって」
「ハハハ……。セアヤじゃないよ」
「さっぱりだ。ま、ご祝儀だと思えば、安いもんだけどね。はいよ、1,000円」
中年男はそう言いながら、財布から千円札を出した。
「こりゃどうも。ありがたく頂きますよ、ご祝儀を。エヘヘ。次はいないかい? 難問奇問、何問でもキモーン(come on )!」
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