第6話

【6】◆ (◇は、50音順で隣り合った次の文字との組み合わせでできる2文字の言葉)柿くけこ/愛うえお/あい上お/か菊けこ

・―・―・―・―・






「OK。じゃ、Bコース、いくよ。



【7】『ペアを探せ!』って奴だ。次の左右の組み合わせは、ある法則によって成り立っている。では、網の相棒は何?」




 狼 流れ


 今 勝った


 網 ?






「何、これっ! めっちゃ難しい。てか、この漢字、アミだっけ、ツナだっけ、どっちだっけ」


「アミだよ。で、どうするんだ? 買うのか、買わないのか」


 クイズ男が催促すると、黒髪は戸惑ったのか、困った様子で茶髪を見た。


「大丈夫だよ、負けても1,000円だし。それに、1分あれば答えが閃くかもよ。いっちゃえ、いっちゃえ」


 茶髪がはやし立てた。


「いっちゃえ、いっちゃえ!」

「女は度胸だ!」

「そうだ、そうだ!」


 周りの見物人もあおった。


「……じゃあ、いく」


「じゃ、こっちもいくよ。3・2・1、スタート!」


 クイズ男がスタートを切った。


「……ペアでしょ? エーッ、これだけじゃ、わかんないよ。……ヤだ、絶対無理。ああ、どうしょ」


 黒髪もまた、独り言を呟いていた。――結局、



「残念、無念、胸ないねん。仕方ないねん、時間やねん」


 クイズ男は、何だか訳の分からないことを早口で言って、終了を告げた。


「……分かんなかった」


 黒髪がベソをかくような顔で茶髪を見た。


「私だって、分かんなかったもん」


 茶髪が同情した。


「答えは、こうよ」


 クイズ男がメモ用紙を見せた。


「……アッ、そっか。英語だと確かにそうだよ、なるほど。この問題、面白い」


 納得したのか、黒髪は気前よく千円札を出した。


「はい、1,000円。負けたけど、楽しかったです」


 黒髪が笑顔で言った。


「ありがとさん。そう言ってもらえると嬉しいね」


「また来るね。クイズマンさ~ん、バイバ~イ!」


 黒髪がそう言って手を振ると、茶髪も手を振った。


「ああ。また待ってるよーっ! 次はいないかな?」


「おじさん、ぼく」


 先日の少年だった。


「ヨッ、貯蓄が趣味の少年じゃねぇか。どうだ、貯蓄のほうはえてっか」


「あの1,000円のソンシツは、とりもどしたよ」


「すげえな、やっぱ。貨殖かしょくの才があると見たが、さすがだ。それに、ほっぺの傷も治って、男前が上がったじゃねぇか」


「オセジはいいからさ、ぼくのクイズ買う?」


「オー、今回は“売り”か? 楽しみだな。だが、また坊やの貯蓄が減る可能性があるぜ。それでもいいのか?」


「自分で考えたクイズだもん、負けたら負けたで、ナットクいくよ」


「かっけー! それでこそ男だ。で、どんな問題だ?」


「ぼくが考えたなぞなぞ」


「なぞなぞか、いいね。謎めいた謎解きをなぞっちゃうよ」


「おもしくねー、ダジャレ」


「わりかったねー、どうも。ラベルが低くて」


「レベル。そろそろいっていい?」


「ああ、OK道場だ。いつでもドウジョ~」


「じゃあ、いくよ」


 少年はチノパンのポケットから、畳んだ紙切れを出すと、クイズ男に差し出した。紙切れには、


【8】すっげースピードで、あっというまに飛んでいっちゃう昆虫、な~んだ?



 と、書いてあった。


「……少年、やめとけ。折角だが、この問題は買えねぇ」


 クイズ男が真顔で言った。


「なんでだよ」


「もう、答えが分かっちまったからだよ」


「チェッ、つまんねーの」


「皆さん、すまねぇ。公平さを欠くかもしれねぇが、この少年の問題は買いません。分からない振りをして最後に答えて、金を頂くこともできるが、それはしたくねぇ。……この子が可愛いもんでね」


 クイズ男はそう言って、少年に微笑んだ。


 パチパチ……周りから拍手が起こった。


「何事にも例外は付きもんだ。たまには、そういうのもありでいいんじゃない」

「そうそう。そういうとこが、クイズマンのいいとこだしさ」


 馴染みの見物人がクイズ男の肩を持った。


「……ありがとう。すまねぇ、私情が入っちまって」


 クイズ男は、ジーパンのポケットから出したヨレヨレのハンカチで目頭を押さえた。


「いいって、いいって、気にしなくて」


 馴染みの見物人が言った。


「……おじさん」


 少年はしんみりとして、クイズ男の横に座った。


 クイズ男は少年の肩に手を置くと、顔を見た。


「クイズ絡みじゃなくてもいいからさ、たまに遊びに来い。おめぇ、息子みてぇで、……好きだからさ」


「わかったよ。クイズがらみじゃなく、おじさんとからむよ」


「後で、一緒にメシでも食うか」


「しかたないな、つきあってやるよ」


「よーし、決まりだ。次はいないかな? 難問奇問、何問でもキモーン(come on )!」

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