第5話

【5】ち (太陽系惑星の大きい順をひらがなにした頭文字)ち (地球)

・―・―・―・―・






 “公園のクイズマン”というニックネームで有名になったクイズ男は、1月になっても、その人気は衰えることなく、むしろ、新規の客を増やしていた。


「ね、クイズマンさ~ん、私たちもBコース、クイズっちゃっていい?」


 高校生風の二人連れだった。


「オッ、可愛いお嬢さん。構わないが、どっちの可愛い子ちゃんが挑戦するんだい?」


「どっちにする?」


 2人は顔を見合わせた。


「どっちかが先で、1問ずつでも構わないよ」


 クイズ男はそう言いながら、例のメモ用紙を捲っていた。


「じゃ、私からやっていい?」


 そう言ったのは、白いニット帽から茶髪を覗かせたほうだった。


「うん、いいよ」


 長い黒髪の子が承諾した。


「じゃ、私から」


 茶髪が手を挙げた。


「はいよ。じゃ、Bコースいくよ。看板にもあるように、解答者以外が答えたら無効になるからね。教え合いっこはなしだ。OK?」


「OK! ふふふ……」


 黒髪と顔を合わせて、茶髪が笑った。


「はいよ。じゃ、これでもいってみっか。


【6】定番の『仲間を探せ!』って奴だ。

 漢字一文字が4列ずつある◇と◆は、それぞれ種類が違う。

 では、次の問いに答えよ。漢字はみんな訓読み。瓜はどっちの仲間? 理由も述べよ」



 ◇  ◆

 柿  梨

 愛  恋

 上  下

 菊  梅






「えー? 意味わかんないし、どうしよう……ツメはどっちだろ」


 茶髪は焦っていた。


「ハハハ……ツメじゃないよ、ウリだよ」


「あ、そうだ、ウリだった。けど、ツメって漢字と瓜二つ」


「“瓜に爪あり、爪に爪なし”と言ってな、ウリとツメの違いを言った覚え方だ」


「やっぱ、そうだよね。似てるもん」


「どうする? 買うのか、それともやめとくかい」


 クイズ男にそう聞かれた茶髪は、決めかねてか、判断を仰ぐかのように黒髪の顔を見た。


「大丈夫だよ、時間は1分あるし。それに、負けても1,000円じゃん。大したことないって。ガンバ」


 黒髪が勧めると、


「……じゃ、やる」


 茶髪が決断した。


「じゃ、始めるよ。3・2・1、スタート!」


 クイズ男がスタートを切った。


「えー? ヤだ。どっちだろ……」


 茶髪は独り言を呟きながら、首を傾げていた。


 周りがシーンとして注目しているのを意識してか、茶髪は集中力を欠いている様子だった。



 ――茶髪は、独り言を呟いていただけで、結局、答えられなかった。


「残念。時間が北野た○しだ」


 クイズ男はつまらないダジャレで制限時間を告げた。


「くやちー!」


 茶髪は悔しそうに地団駄を踏んだ。


「私も分かんなかった」


 黒髪が慰めた。


「答えは、こうよ」


 クイズ男は手招きすると、答えが書いてあるメモ用紙を見せた。


「……アッ、そっか。ほんとだ、確かにあいうえお順だ。あ~あ~、やっぱ、くやちー」


 そう嘆きながらも、茶髪はヴィトンの財布から惜しげもなく千円札を出した。


「はい、1,000円」


「あ、どうもね。ありがとさん。そっちの可愛い子ちゃんはどうする、やってみるかい?」


 お金を受け取ったクイズ男が黒髪に聞いた。


「どうしょっかなー」


 迷っている様子だった。


「やってみれば。私のより簡単かもよ」


 茶髪が促した。


「だね。じゃ、やってみる。クイズマンさ~ん、Bコースで」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る