第4話

【4】U (干支をローマ字にした頭文字)U (卯)

・―・―・―・―・





「なかなか、面白そうですね。参加してもよろしいですか?」


 フェミニストといった風貌の、ロマンスグレーの紳士だった。


「いらっしゃい。ぜひ参加してください」


「では、“売り”で」


「マジですか? 今日はツいてるな。続けて“売り”だ。モチの論、買っちゃうよ」


「では、紙と鉛筆を拝借」


「はいはい、どうぞ」


 紳士に差し出した。


「これに答えられなくても、さっきの儲けがあるから、プラマイゼロだ。気楽にやるか。答えのほうも書いといてくださいね」


「はい、承知しました。それでは問題です。


【5】○に入るのは何でしょう?」





 も・ど・て・か・○・き・か・す





「では、よろしいですか?」


「スタンバイOKですよ。いつでもどうぞ」


「では、いきます。

 3・2・1、スタート!」


 紳士は、高級腕時計を見ながら合図した。


 先刻、儲けたせいか、クイズ男には余裕が見られた。クイズ男の実力を知っている見物人にも緊張感はなかった。



「10・9・8――」


紳士がカウントダウンを始めた。


「はい、解けました」


 クイズ男はそう言って、メモ用紙にスラスラと答えを書いた。


「早いですね。出血大サービスでしたかな」


「サービス問題をありがとうございます」


「いやいや、お役に立ててよかった」


「では、メモ用紙を交換しましょうか」


「そうですね。ま、見なくても正解してるのは分かってますが。ハハハ……」


 紳士はメモ用紙を交換すると同時に、コートの内側から分厚い財布を出した。


 クイズ男から受け取ったメモ用紙をチラッと見ると、余裕綽々といった具合に財布を開いた。


「では、どうぞ」


 紳士は、二千円札を1枚手渡した。


「こりゃ、どうも。指が切れそうなピン札だ。ありがとうございます」


「私はこういったクイズ物が好きでしてね。また、違うクイズを持ってきますよ」


「はぁ、楽しみにしています」


 クイズ男が一礼した。


「“芸は身を助ける”と申しますが、知識もまた、身を助けますな」


「いえ、大した知識はないんですが、いわゆる“下手の横好き”でして」


「いやいや、大したものですよ。なかなかできることじゃない。立派だと思います。あなたは、生きる姿勢を教えてくれてるように思います。人間はどんな苦境に立たされようとも、考え方一つで生き抜けることを。……寒いので、風邪を召しませぬように」


「……ありがとうございます」


 クイズ男は丁重にお辞儀をした。


「また、サービス問題を持ってきますよ。ハハハ……人の役に立てるのは嬉しいものです。では」


 寛大なる紳士は、そう言って背を向けた。


「……みんな、いい人ばっかだな。こんな男に情けをかけてくれてさ」


「あんたが頑張ってるからだよ、この寒空にさ」


 顔馴染みの一人が言った。


「そうそう。俺たちもあんたに会えるの楽しみにしてるし」

「話も面白いし」

「ダジャレも面白いし」


 周りが口々に言った。


「……ありがとう。ま、これまで色々あって……これ以外、他に食ってく知恵が浮かばなくて。こんな男に情けをかけてくれて、……本当にありがとう」


 クイズ男は、深々と頭を下げた。


「頑張れーっ!」


 皆が口を揃えた。


「……ああ。頑張るよ」


 鼻水を啜っていたクイズ男は、一変して笑顔になった。


「じゃ、次、いってみっか。難問奇問、何問でもキモーン(come on )!」

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