第2話

【1】イルカ (そんなのいるか!)

【2】◇ (英語にすると、頭文字がC)クリーニング (cleaning)

・-・-・-・-・





 という具合に、結構、繁盛していた。


 だが、まだ、クイズを売るという客はなかった。客からのクイズだと、正解したら倍になる。それだと、5人で1万稼げる。

 クイズ男が妻子持ちかどうかは知らないが、仮に3人家族だとしても、雨の日以外は商売してるので、1日の収入が1万足らずの時があったとしても、十分に食べて行ける計算だ。


 浪人生の僕は、クイズ男に会うのが毎日の日課になっていた。それは、休日の午後だった。



「次はいないかな?」


「おじさん、こどもでもいい?」


 小学4~5年ぐらいだろうか、頬に擦り傷を作った悪ガキっぽい少年だった。


「うむ……歳は関係ないが、子供向けのクイズとかは特にねぇぞ。いいか?」


「かといって、大人向けっていうほど、高度でもないじゃん」


 ハハハ……。見物人が笑った。


「まあね。高度過ぎては客は寄らず、かといって、高度を下げ過ぎても儲からねぇってな。客も欲しいが、金も欲しいって奴だ。それより、金はあるのか?」


「おこづかいならちゃんともらってるよ。ぼく、チョチクがシュミなんだ。そのへんの大人より持ってるかもね」


「ほう、そりゃあスゴいな。すまないね、折角の貯蓄を、通りすがりのクイズ男に投資してもらって」


「まだ、わかんないだろ? ぼくのチョチクがふえるかもしんないじゃん。で、どんな問題?」


「だな。うむ……これなんかどうだ」


 クイズ男は例のメモ用紙を捲って、適当なのをチョイスすると、ダウンジャケットからマッチ箱を出した。

 マッチ棒を取り出すと、ベンチの上に並べた。


「じゃ、いくぞ。


【3】マッチ棒15本で作った数式だ。

 この計算が成り立つように、マッチ棒を1本くわえてちょー」



|||+||-|=□

(3+2-1=0)




「加えるって、足すってことだろ? 新しいのを使うの?」


「坊や、看板に、“ヒントなし”ってあるだろ? ヒントなしってことは、質問も受け付けねぇってこった。じゃ、スタートするぞ」


「チェッ、けち」


「3・2・1、はい、スタート!」


「えーと、えーと……」


 急かされた少年は焦っていた。


「あああ、これもちがうし」


 少年はマッチ棒をあっちこっちに置きながら、四苦八苦していた。……が、


「で、でけた!」


 少年が大声を出した。


 エーッ! 周りが一斉に驚きの声を上げた。


「……マジで?」


 クイズ男が目を丸くして、ベンチの上のマッチ棒を見た。




         |

|||+|| |= □

(3+3=6)




「な? あってるだろ?」


「ハハハ……発想は悪くないが、||と|に開きがあるじゃねぇか。これを|||に見せるのは無理があるよ。それに、くわえろって言っただろ? これだと単に移動しただけじゃないか。もっとスッキリと、それらしく、理に適ってなきゃ駄目だ」


「……なんだよ、1,000円もらえるかと思ったのに」


「惜しかったな。正解は、こうよ。ほら」


 クイズ男は手招きすると、少年にメモ用紙を見せた。


「……ケッ! そっちのくわえるかよ」


「悪いな、そういうこと。な? 日本語は奥が深いだろ?」


「ぁぁ。ま、インチキじゃないけどな」


 少年はそうボソッと言いながら、チノパンのポケットから綺麗に畳んだ千円札を出すと、惜しそうに広げた。


「はい、じゃ、これ」


 少年は見切りをつけるかのように、ヒョイと手を伸ばした。


「すまねぇな。貴重な貯蓄から頂いちゃって」


「しかたないじゃん、男どうしの約束だもん」


「今度また、挑戦してくれ」


「気が向いたらな」


「待ってるぜ。次はいないかな?」


「あの……いいですか?」


 エリート社員風の真面目そうな好男子が手を挙げた。


「はい、どうぞ」


「売りたいんですけど」


 ほ~、と周りから感嘆の声が漏れた。


「エッ! マジ?」


 クイズ男も感嘆の声を上げた。


「ええ。大したものじゃありませんが、一応、オリジナルです」


「やりー。楽しみだな」


「メモ用紙と鉛筆を貸してくれますか」


「あ、はい。どうぞ」


 クイズ男は、客からの初めての“売り”に興奮している様子だった。

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