クイズを売買する男

紫 李鳥

第1話

 


 その男が公園に現れるようになったのは、秋も深まった頃だった。


 サンドイッチマンのような格好で、背中には、


【■Aコース】


■あなたのオリジナルクイズを買います!

■私が答えられたら、¥2,000いただきます。

■私が答えられなかったら、¥2,000差し上げます。

■制限時間:1分

■ヒントは要りません。

■教科書や広辞苑、辞書、辞典などからの抜粋はNG!


 と、あり、そして胸元には、


【●Bコース】


●私のオリジナルクイズを売ります!

●あなたが答えられたら、¥1,000差し上げます。

●あなたが答えられなかったら、¥1,000いただきます。

●制限時間:1分

●ヒントなし。

●ジャンルは選べない。

●解答者以外が答えた場合は無効!


 と、あった。



 黒い野球帽に黒縁の眼鏡をした男は、音楽でも聴いているのか、ヘッドフォンをして、煙草をふかしていた。最初の頃は客もなく、浮浪者扱いで、皆は遠巻きに見ていた。


 だが、勇気ある一人の若い男の挑戦がきっかけとなって、客が客を呼び、12月に入った頃には、クイズ男が占領していたベンチには人が集まるようになっていた。


 僕も挑戦してみることにした。クイズを作るのは苦手だったので、Bコースにした。


「じゃあ、いくよ。なぞなぞだ。


【1】アリよりちっちゃくて、クジラよりでっかいのな~んだ?


 制限時間は1分だ。じゃあ、スタートするよ。3、2、1。

 はい、スタート!」


 クイズ男は腕時計を見ながら、スタートの合図を送った。


 僕はヒントなしの条件が頭を過り、焦ったせいもあって、結局、答えられなかった。


「残念だな。制限時間が杉田か○るだ」


 クイズ男はダジャレ混じりでタイムオーバーを告げた。


「チッ」


 僕は小さく舌打ちすると、先月もらったバイト代から1,000円を払った。


「ありがとさん」


 クイズ男はチラッと僕を見ると、ニヤリとした。


「……で、答えは?」


 僕が遠慮がちに訊くと、


「他にも人がいるんだ、公にはできねぇよ。商品だからね、こっちに来て見ておくれ」


 クイズ男はそう言って手招きした。男が手にしたメモ用紙を覗くと、答えが書いてあった。


「? ……なるほど、そういうことか。なぞなぞだからね」


 合点がいった僕はニヤニヤした。周りの連中も同じような顔で僕に視線を注いでいた。


「次の挑戦者はいるかな?」


「……じゃ、Bコースで」


 後方にいた中年男が手を挙げた。


「あ、どうもね。じゃ、いくよ」


 クイズ男はそう言って、ポケットからメモ用紙を出すと、ペラペラと捲った。


「じゃ、これでもいってみっか。


【2】『仲間を探せ!』って奴だ。

 ◇と◆は、それぞれ種類が違う。

 では、クリーニングは、◇◆のどっちの仲間? 理由も述べよ」


 メモ用紙には、次のようにあった。


 ◇    ◆

クッキー クイズ

クラブ  クイーン

クリーム クォーツ


 腕組みをした中年男は、何度も頭を捻りながらも、結局、答えられなかった。


「残念。時間が来ちまった。じゃ、1,000円いただきますか」


「やめときゃよかった……」


 中年男はそう言って、渋々と財布を出した。


「はい、どうも。答えは、こうよ」


 クイズ男はそう言って手招きすると、手にしたメモ用紙を見せた。


「……なるほどね。英語を勉強しとけばよかったな」


 中年男はそう言って、残念そうに頭を掻いた。


「他にはいないかい? 難問奇問、 何問でもキモーン(come on)!」

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