シュン-3
初めて目にする、父のありのままの言葉だった。覚えたことのない感情に、胸がほうっと温かくなる。
メール画面の右上には、リボンで結ばれたプレゼントボックスのアイコンが膨らんでいる。
好奇心に負けてそれをタップした瞬間ーー目の前に突如巨大なプレゼントボックスが出現したかと思うと、それは中に生き物でも入っているように、ガタガタ膨張を始めた。
パァンと弾けて箱が消え、大量の煙と紙吹雪の中から、一振りの武器が現れた。目の前の空中を、重力を無視するように浮かんでいる。
黒い、日本刀だった。
そっと触れた瞬間、刀は重力に従って勢いよく落下。慌てて掴みとった俺は、その重量に腰を抜かしかけた。
「お、も……っ!?」
もう片方の手を加えるも、膝の高さまで引き上げるのがやっとだ。ストレングスの要求値が高すぎる。今の俺ではとても扱えない。
「シュン、助けろ……!」
「うわ、なにそれ!?」
すぐさま加勢してくれたシュンだが、俺より大幅に筋力値の高い彼ですら、やっとこさ胸の高さに掲げられる程度。振り回すのは諦めて地面に投げ出し、二人して荒い息を整える。
「なんだよその刀、筋トレ器具……?」
「バカ言え、親父からのプレゼントだよ……いくつレベルを上げれば使えるようになるのか、見当もつかないけどな……」
俺は装備メニュー画面を呼び出し、今の短剣からこの刀へ、装備状態を変更してみることにした。しかし。
『現在のジョブでは装備できません』
無慈悲な赤色のエラーウィンドウに阻まれる。前作と同じ仕様なら、《ローグ》が装備できる武器タイプは《短剣》《片手剣》《弓》だけだ。筋力値がどうこう以前に、今の俺ではこの刀を使うことはできない。
だが、前作に《刀》なんてなかったはずだ。
装備画面から、武器の詳細を呼び出してみる。
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《
カテゴリ:武器――《刀》
リアリティ:S
攻撃力:980
斬属性:1000
STR要求値:100
《固有スキル》
【????】…抜刀で解放
《詳細》
東の海から渡った、ユートピア大陸に三振りしか現存しない《刀》の一つ。数多の血を吸い、刃の色さえ変容した妖刀。使い手次第で、奇蹟も災厄も招くとされる。
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「つ、つよすぎる……」
俺の初期武器、《プレーンダガー》の攻撃力はたったの『10』で、ランクは最低と思われる『G』。それと比べると、異次元の性能であることだけは間違いない。
使ってみたい、という衝動に駆られたのも、無理のない話だ。間違ってもなくさないように、俺は《魔桜》を大切に《アイテムストレージ》に格納した。
アイテムストレージとは、手持ちのアイテムをしまっておける異空間だ。所有権のあるアイテムは手に振れている状態であればいつでも任意で格納でき、その瞬間にアイテムは手元から消えてなくなる。
取り出すときは、アイテムメニューから操作すれば、格納の逆再生のように、なにもない空間からアイテムを出現させることができる。
「いいなぁ、刀。かっこいい」
「シュンは、なにをもらったんだ?」
「えへへ、俺はこれ」
シュンはむしろ、それを自慢するために刀を羨ましがったのではないだろうか。嬉しげに俺に向かって突きつけたのは、シルバーのネックレスだった。
指輪のネックレスだ。小振りだが非常に繊細な造りで、落ち着いた、上品な輝きを放っている。父は「防具」と言っていたが、正確には《装飾品》だろう。
「うぉぉ……かっこいい……ちょっと失礼」
ピン、とネックレスに指で二回触れて、ポップアップウィンドウを呼び出す。この世界のコマンドにも大分慣れてきた。
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《イージス・リング》
カテゴリ:装飾品
リアリティ:S
HP:+500
防御力:+500
全耐性:+5%
HP自動回復:+1000%
《固有スキル》
【イージスの加護】…HPがゼロになるダメージを受けたとき、一度だけHP1で持ちこたえる。このスキルは重複しない。
《詳細》
守護と治癒の神《イージス》の涙から精製されたリング。身につけた者は、堅牢な肉体と、神獣のごとき回復力、イージス神の加護を得るという。生半可な肉体では恩恵に耐えきれず、体が爆散してしまうので注意。
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魔桜とも甲乙つけがたい性能に、軽く引く。この数値の価値自体は俺には分からないものの、魔桜同様、とにかく、すごく強いのだけはいやというほど伝わる。父もとんでもないものを寄越してくれたものだ。
「けどこれも、装備できないんだよな。『レベルが足りません』だってさ」
「そうか……この下の、生半可な肉体では~って設定とリンクしてんだな」
「俺も兄貴も、結局たちまちは地道にレベル上げていくしかないってことか」
「そうだな……」
苦笑を交わす。ちょっぴり残念だが、楽しみが増えたとも言える。シュンはネックレスをストレージに納めることはせず、嬉しげに首にかけた。装備状態にしなくても、身に付けることはできる。俺もストレングスが上がって、刀がもう少し軽く感じるようになれば、一度腰に差して歩いてみたいものだ。
俺とシュンは、足取り軽くフィールドを後にし、メールで届いた住所とマップデータを便りに、
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