シュン-2
シュンの戦闘能力は凄まじかった。
空手で鍛え上げた肉体と戦闘勘に加えて、年齢によるステータス調整も入っているのか、攻撃力がやけに高い。素手でもたった数発でゴブリンやスライムのHPを
次から次へと
一方の俺は、大苦戦。ただでさえ攻撃関係のステータスが低い俺は、短剣ではろくなダメージを与えることができない。相手の単調な攻撃をかわしながら、チクチク刺していく他ないのだが、一体倒すのにシュンの十倍は時間がかかる。
背に腹は換えられない。俺はプライドを捨てることにした。
シュンと、《パーティー》を組んだのである。
パーティーとは、プレイヤー同士で結ぶ協力関係のことだ。パーティーを組んでいる間は、お互いが倒したモンスターから得られる恩恵――経験値や、お金、アイテムなどが、自動で折半される。
モンスターの討伐数を稼ぐ効率が二倍になるし、折半された恩恵には若干のボーナスもつくので、あくまで『実力の近いもの同士』が組む場合、双方にメリットのあるシステムだ。
今回で言えば、俺がモンスターを一体倒すごとにシュンは十体倒せるのだから、パーティーを組んで得するのは俺だけだ。シュンにとっては、十体倒しても五体分の経験値しか得られないことになる。
このシステムの内容を正直に話し、頭を下げてお願いしたところ、シュンはあっさり快諾した。物で釣るなどしてどうにか交渉をまとめようと頭を働かせていた俺は、呆気にとられて理由を聞いた。
「だって、パーティー組んだら同じペースで強くなれるんだろ? 一緒に攻略進められるじゃん」
無邪気な笑顔に、俺はすっかり毒気を抜かれてしまった。
それから小一時間に渡って、俺たちは協力してモンスターを倒し続けた。俺もようやくコツを掴み、首や頭、胸など、ダメージ倍率の高い"弱点"を探って狩りの効率を上げていった。短剣の取り回しの良さと、俺の
コマンドひとつで攻撃を繰り出せるゲームと違い、実際に全身を激しく動かし続けながら行う戦闘は、長くは続けられなかった。現実の肉体は眉ひとつ動かさず横たわっているはずなのに、どういうわけか息は切れ、動悸は早くなり、足は棒のようになる。
この疲労感も、電気信号によって擬似的に再現されているのだろうか。
俺とシュンが同時に地面へ四肢を投げ出した頃には、日も傾いて、空は徐々に茜色を帯び始めていた。荒い呼吸を繰り返しながら、俺たちは、溢れんばかりの爽快感を声に乗せて吐き出した。
「たのっ……しい……っ!」
「なぁ……レベルいくつになった?」
「えっと、5かな。やっぱりもう、この辺のモンスターじゃ上がりにくくなってきたなぁ」
「じゃあ、明日はもうちょっと遠くまで行ってみるか」
「いいね! 母さんに弁当頼むか!」
明日のことを考えるだけで高揚感が溢れてくる。まだまだ名残惜しいが、暗くなるまでに帰れとのお達しだ。俺とシュンは町へ帰るべく、せーので体を起こした。
そのとき、ピロン、と電子音が駆け抜けて、俺たち二人の前に、同時に同じメッセージウィンドウが展開した。
『プレゼントが届きました』
「プレゼント?」
俺とシュンの呟きが見事にシンクロする。二人同時に、アイテムを添付したメールが送られてきたようだ。運営の公式メールを除けば、メールが送られてくる相手はフレンドに限定されるが……俺たちのフレンドなんて、お互いを除けば母しかいない。
若干訝しみながらも興味が勝った。指で触れ、メールデータを開く。差出人の名前を見て、目を疑った。
『From Shinji』
シンジ。父の名前だ。シュンも隣で「親父!?」と騒ぎ始めたので、差出人は同じらしい。
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親愛なる息子へ
俺の世界へようこそ。楽しんでいるか?
さて、俺はこの世界の開発を、お前が母さんの腹ん中にいるときから進めてきた。
ほとんど顔も合わせてやれなかった俺が、今さら父親面なんてうぜぇかもしれないが。
開発しながら、完成したゲームを楽しむプレイヤーの姿を想像するとき……やっぱり、浮かぶのはお前たち二人の顔なんだよな。
自分の創ったゲームで子どもを喜ばせるのが、まぁ、夢だったんだ。だから大袈裟に言うと、お前たち二人のために創った世界だ。
なぜか人類を救うことになっちまったけど、お前らにはただ、全力で楽しんでほしい。
俺は親バカだから、お前らに一人ひとつだけ、最高レアリティのアイテムを授ける。筋力不足の長男には武器を。危なっかしい次男には防具を。
ついでに、母さんにはこの世界で使える通貨をしこたま贈ります。今までろくに稼げなくてごめんねっ⭐️
さて……刹那、これは挑戦状だ。この世界には無数の仕掛けを仕込んである。強い武器を手にしたぐらいじゃ大したアドバンテージにもならん。
ここはお前の土俵だ。のびのびと生きろ。そしていつか、この世界の主人公になれ。
それじゃ、母さんと瞬をよろしくな。
父より
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