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「ゲームが上手い人」って、なんでモテないんだと思う?
テレビゲームというものが世に生まれてから
おかしな話だ。野球だってサッカーだって広義のゲームには違いないのに、極めた先の栄冠は片や「スター選手」、片や「廃人」。夜遅くまでバットを振るのは美談にするくせに、テレビゲームなんか二時間もすれば怒られる。
差別だ!
「Game」の語源は「試合」。公平で厳粛なルールがあって、その上で心技体を尽くし、勝敗を競う。古くは将棋なんかが、ゲームの代表格だろう。この定義のなかに、もちろん野球もサッカーも当てはまる。
科学技術の発展とともに、テレビや携帯端末の画面が主戦場となってからはまるで「子どものオモチャ」扱いとなってしまった「ゲーム」も、この定義から決してはみ出してはいない。むしろ、コンピューターという絶対的な審判がいる「ゲーム」は、先述のどのゲームより公正で紳士的だ。
百年以上前に「eスポーツ」という概念が生まれ、ようやく「ゲーム」もスポーツと呼ばれるようになったが、俺たちコアゲーマーに対する風当たりはそう変わっていない。
モテるのはだいたい足が速い、運動神経がいいやつで、「みてみて、彼、ゲームすっごく上手~ステキ~!」なんて言っている女は見たことがない。
あらゆるコンピューターゲームで世界ランカーに輝いてきた俺、
――地球に、滅亡の危機が迫っています。
その一報が日本を駆け抜けたのは、五月の爽やかな朝だった。
テレビの全チャンネルが同じ内容を報じた。世界中で同じようなニュースが流れた。瞬く間に、リアルもネット上も大変な騒ぎとなった。
当初こそ、「どういうこと」「ドッキリ?」「【悲報】地球滅亡」「いいぞもっとやれ」「よくわからんけど会社行ってくる」などなど、ネット上での反応は呑気なものが目立った。
結局、人類がこれを「マジなんだ」と気づくのに、そう時間はかからなかった。テレビやデジタル新聞、インターネットなどのメディアが、繰り返し繰り返し、真面目な顔で伝え続けたからである。地球は滅亡する、と。
理由は半年後に地球を横切るはずだった超巨大彗星。歴史上類を見ない規模であったことから、多くの特集が組まれ、見頃の日時や観測スポットが紹介されるなど、話題となっていた。
のちに、《インフェルノ彗星》と名付けられる。そのあまりに巨大な彗星が。
爆散した。
原因は追求されないまま。その究明よりも、科学者たちは地球の危機回避に全霊の時間と労力と英知を注いだ。
惑星や隕石と衝突したか、星の最期に巻き込まれたか。何かしらの理由でインフェルノ彗星は粉々に砕け、軌道を変えた。問題は、無数の隕石の散弾となったインフェルノ彗星が、地球の公転軌道上にジャストミートしてしまったことにある。
かくして、地球は滅亡の危機に瀕した。人類がとった行動は、大きく分けて三つ。
一つ目は、地球滅亡の未来を回避しようと奮闘した者。彼らは人々から、敬意を持って《地球防衛党》と呼ばれた。世界中の頭脳と技術が集結した《地球防衛党》は、規模を拡大しながら隕石群から地球を守る方法を必死に模索したが、結果だけ言えば、地球滅亡の未来は避けられなかった。
二つ目は、運命を受け入れた者。残り半年間を好きに生きようとするか、もしくは、自ら死を選んだ者たちがこれに当てはまる。おかしな団体による集団心中も流行ったし、犯罪も激増した。
真っ昼間から酒を浴びるように飲むやつなんてかわいい方で、スラムから流れてきたクスリでキマっているやつらがいたり、家から出たらすぐそこら辺で男女が絡まり合っていたり、とにかく世界中が無法地帯になった。
俺も、どちらかというと運命を受け入れた側の人間に分類されると思う。といっても小心者なので、悪いことや
ゲームで知り合った人たちと、「俺たち死ぬんだね」「実感わかない」「少し怖い」なんて、詮無い会話を交わして過ごした日々は、今でも時々思い出して、胸が苦しくなる。
いざ、その日が近づき、流れ星が雨のように夜空を翔けたり、近海に隕石が落ちたり、魚や鳥の死骸が大量に発見されたり、異常現象が頻発するようになった。それでも、ゲームの世界だけはいつログインしても変わらなかった。昨日と同じ、チープな青空のカラーリングをディスプレイ越しに眺め、能天気なBGMを聴くと、無性に心が安らいだ。
その日まで、残り一ヶ月と迫り、運命に抗おうと懸命に戦ってきた《地球防衛党》が、いよいよ匙を投げ始めた。隕石群の規模は、地球の科学力でどうこうできるレベルを最初から超えていた。それでも、全力で戦ってきた彼らの姿に励まされ、彼らを応援することで理性を保ってきた人間は、地球には想像以上にいたのだった。
支えを失った人類のそれからは、さらに荒れた。地球は混乱と混沌を極めた。多くの血が無意味に流れ始めた……そんな時であった。
地球を守ろうともせず、かといって、運命を受け入れようとも決してしなかった、第三の人間が声を上げた。
父は得体の知れない男であった。息子の俺でさえほとんど顔を合わせたことがない。最後に会ったのは俺の十歳の誕生日で、彼は自作だというPCゲームのデータを、俺にプレゼントしてくれた。
それこそが、俺をゲームとネットの世界に引きずり込んだ元凶だ。《ユートピア》というタイトルの、オープンワールドのアクションRPGゲームだった。六年経っても、あのゲームを超えるグラフィック、シナリオ、操作性、そして物語を進めるごとに加速する興奮と感動を提供してくれるゲームには、ついぞ出会えなかった。
だから俺が知っていたのは、父がどうやらゲームの開発をしているらしい、ということぐらい。その割には稼ぎも一切なく、母が女手一つで俺たち二人兄弟を育ててくれたし、あれだけ凄いゲームを作る会社でありながら、その《アルカディア》という会社はどう検索してもヒットしなかった。
そんな父の名前で、ある日、インターネット上にこんな投稿がされた。
『人類諸君。旅に出よう。滅び行く地球から、第二の世界へ。理想郷へ』
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