虹の竜と願いのリセラ 4

 けれどもいつか必ず、別れの日はきます。

 かぜも治って、あらしもやんで。

 ついにかのじょが帰る日が来ました。

 かのじょは笑顔でかれに言います。


「どうもありがとう。おかげでたすかったわ」


 もう、お別れ。

 かのじょがいなくなったらかれはまた、冬の森でひとりぼっち。

 それをとてもさびしく思ったかれは、思わずかのじょをひきとめます。


「だめだ、いかないでくれ」

「どうして?」


 かれの言葉に、かのじょは不思議そうな顔をします。

 かれは言いました。


「きみがいなくなったら、ぼくはひとりになってしまう。ひとりはいやだ、もうさびしいのはいやだ!」


 かれは懐かしんでいたのです。

 かつて人間とかれ自身が、なかよくすごしていた遠いひびを。

 するとかのじょは言いました。


「ならば、わたしといっしょにくればいいじゃない! ね、臆病な虹の竜さん!」


 その言葉に。

 かれは目を丸くしました。


「……きづいていたの」

「ええ、とうぜん!」


 かのじょはわらいます。


「でもね、わたしはあなたにいやなことなんてしない。うつくしいものをほしいとは思わない。

 あのね、うつくしいものは見ているだけでいいの。それをほしがるなんて分不相応でしょう?」


 かれは驚きました。

 自分が虹の竜だと知っていても、かのじょは自分に親切にしてくれたこと。


――人間は、みにくいばかりじゃない。


 このとき、かれはきづいたのです。

 ああ、とかれはうなずきました。けれど、ちいさな不安があります。


「ぼくはきみといっしょに行きたいよ。でもね、きみはぼくにやさしいけれど、ほかの人間はそうともかぎらないだろう?」


 たしかにそうね、とかのじょはうなずきます。

 でも、とふりかえったかのじょ。

 その目はとてもきれいに輝いていました。


「みんながみんな、ひどいひとばかりじゃないの。だからさ、もういっかい、しんじてみようよ。

 わたしといっしょに行きたいなら、ひとりがいやならそうすればいいじゃない。だれもあなたを止めやしないし、したいようにすればいいの」


 完璧なんて、どこにもありやしないんだから、と笑うかのじょ。

 かのじょはかれに手をさしだしました。


「わたしはリセラ。ちかくの村の、リセラ。びんぼうだけれどつらくはないのよ。だって、みんなみんな、やさしいんですもの」


 かのじょの名乗りに、かれはかのじょのさしだされた手をにぎりながらもうなずきました。


「ぼくは……なまえが、ないの。あのね、竜には人間みたいななまえがないんだよ」


 するとかのじょは言いました。


「ならばわたしがつけてあげるわ。そうね。あなたは……あなたは……」


 かのじょはしばらく考えていましたが、ひとつうなずくと、そのなまえをささやきました。


「あなたはホープ。いみは希望! あのね、虹ってとってもきれいなの! 見ていて希望がわくから――あなたは、ホープ」

「……ホープ」


 自分のなまえをつぶやいて、かれはうれしそうに笑いました。

 かれはこころを閉ざしてからはじめて、笑いました。

 その瞬間、かれのこころの氷はとけたのです。


  ◇

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