虹の竜と願いのリセラ 3


 それはある日のことでした。

 その日もまた、冬の日でした。

 その日、外はごうごうとあれて、冬のあらしがふいていました。


 そんなある日、かれのひみつの家に、おとずれる人間がいたのです。


「たすけ……て」


 ふいに家のとびらがあいて、たおれこんできたのはひとりの娘。

 かのじょは手にバスケットをもっていました。そこにはわずかばかりの山菜がはいっていました。


 おおかた、かのじょは貧乏な家の子で、わずかなたべものを探しに冬の森までやってきていたのでしょう。そこであらしにあって、偶然この場所にたおれこんできたのでしょう。かのじょは今にも死にそうで、必死なめでかれを見ました。


 けれど、けれども。

 かれは知っています。

 人間というのはみにくいのです。

 いくら親しげに接してくれていても、ある日突然、てのひらを返したようにひどいことをするのです。

 かれは人間がしんじられません。

 だからかれは言いました。


「だめだ。ここはぼくの家。知らないひとは、きちゃだめだ」


 するとその娘は目から涙をながしながらも、必死の顔でたのむのです。


「おねがいです……。いまの天気で外にでたら、わたしは死んでしまいます」


 けれどもかれは首をふります。


「だめっていったら、だめだ」


 すると娘はしくしくと泣きながら、がんばってがんばっておきあがって、あらし吹く外へ行こうとひどくゆっくりとうごきだしました。

 そのせなかを見ると、さすがのかれもかわいそうに思えてきました。

 ほんとうのかれはやさしいのです。だからかれは言いました。


「わかったよ、あらしがやむまでだ。それまではここにいていいよ」


 すると娘はとてもうれしそうな顔をしました。


「ほんとう? ……ありがとう!」


 言うと。

 安心したのか、かのじょはそのままたおれてねむりこんでしまいました。

 かれはどうすればいいのかわからなかったけれど、とりあえずかのじょを家の中にひとつだけある粗末な木のベッドに寝かせてやって、うすいふとんをかけてやりました。


 冬のあらしはごうごうと。まるでおさまる感じがしません。

 竜のかれはさむくたって全然へいきでしたが、かれは娘のために、そっと魔法をつかいました。

 かれは魔法をつかって、家ぜんたいをあたたかくしました。

 こころなしか、娘のふるえもおさまったような気がします……。


  ◇


 冬のあらしはなかなかおさまりませんでした。

 あらしがおさまったのは、それから七日後のことでした。

 それまでの間、かれはかのじょのために人間のたべものを探し、かのじょにあたえてやっていました。


 かれは娘に言います。


「ほら、もうあらしはおさまった。だからかえりなさい」


 けれど。

 娘はなにも答えません。

 どうしたんだとかれがベッドを見ると、

 娘はベッドの中で、くるしそうな顔をしていました。

 あらしにつかれて。かのじょはかぜを引いてしまったのでした。


「……まったく」


 あきれたような顔をして、かれはかのじょのかぜが治るまで、かのじょの世話をつづけることにしました。

 かれはまだきづいていません。

 かのじょとすごす日々のあいだに、かれのこころの氷は、すこしずつとけはじめているということに。


 かつてかれは、人間を見るだけでいやなきもちを感じていました。

 人間の世話なんて論外です。

 それなのに。


 今のかれは、かのじょの世話をしていても、

 いやなきもちをまったく感じないのでした。

 それどころか、かのじょをいとおしいとさえ、思っていたのです……。


  ◇

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