第45話 その男、狂暴につき

コウモリの様な羽を羽ばたかせ、空中に男は浮かんで辺りを見下ろしていた。

その男の周りには、オーガの男達が倒れ呻き声をあげている。


俺達の目の前にいたのは、死んだハズの男だった。


「ギナ! 生きていたのか!」

俺は、目の前の男に言った。

空中に浮かんでいる男が、俺を見る。


「お前、ギナを知っているのか?」

男が地面に降りながら言った。


ギナじゃないのか?

髪の色が青だが、顔は、ギナにそっくりだ。

俺が、混乱していると、


「俺の名は、ギア。 ギナは、俺の兄だ。もう一度、聞く、ギナをしっているのか?」

ギアが、俺に向かってゆっくり歩きながら、言った。


「いえ、知らないです」

そう言って、その場を立ち去ろうとした。

「いや、いや、いや、お前、ギナって言ったじゃないか」

と、言いながらギアが小走りで近づいてきた。


「ギナなら、俺達が倒したぞ!」

ウィズが、余計な事を言った。


案の定、ギアの顔つきが変わる。


やばいか?

と、思ったが、次の瞬間、

「嘘をつくな、ギナが人間に負けるなど、あるわけがない」

ギアが、そう言って笑った。

俺は、へへへと愛想笑いをして、その場を立ち去る。

「いや、待て! だから、ギナの居場所知ってるんだろう?」

ギアに、呼び止められた。

無視して、歩くと、肩を捕まれた。

「なんで、さっきから、すぐ帰ろうとするの?」

ギアがイラつきながら、俺に言った。

はい、面倒な事になりそうだからです。

と、言いたいが、言ったらまた、面倒な事になるのがわかっているので、俺は、ただただ、嫌だなぁと言う顔をして、黙っていた。


「貴様、この村に、なに用だ?」

オーガの男が、こん棒を握りしめて言った。

よし、言ったれ! と、俺は思った。

ギアが、俺から離れて、こん棒を持ったオーガの男に向き合う。

「このような所、進軍の途中に寄ったまでだ。 もうすぐ、我が軍が到着して、皆殺しにされるぞ! フフ、命が惜しければ、泣いて命乞いでもするんだな。 家畜として、飼ってやってやらん事もないぞ、ハハハ」

ギアは、笑った。


「ふざけるな!」

オーガの男が、こん棒を振り上げてギアに向かって走り出す。


バシュ!


オーガの胸をギアの触手が貫いた。

そのまま、触手でオーガを持ち上げギアは、辺りが恐怖にひきつる様子をみて楽しんだ。

「次に死にたい奴は、誰だぁ? 早く命乞いをした方がいいんじゃないかぁ?」

ニヤつきながらギアが俺を見た。

なんで、こっちを見る! と、思った。


ガッ!


ギアの頭にウィズのこん棒による渾身の一撃が入った!

ギアは、一瞬何が起きたのかわからなかった。

強い衝撃を受け、大きくのけぞり、触手で持ち上げたオーガを落とす。


フラフラしながら、自身に攻撃をした者を睨むギア。


「貴様……、ふざけた格好しやがって」

頭が半分陥没したギアが、ウィズを見て言った。


「罪もない人々を、傷つけるなんて、常識は無いのか!」

おかしな格好をした、ウィズがギアに言った。


「貴様ら!皆殺しにしてやる!」

ギアが言った。


俺は、ヤバイパターンだと思った。

「ウィズ! 休むなラッシュだ!」

ギアが、何を企んでいるか知らんが、大人しく待ってなんかいませんよ。

と、俺はウィズに指示を与えた。


ウィズが凄いスピードで、ギアの元に行き、接近に戸惑ったギアを滅多打ちにした。

俺は、冷静にオーガ達に戦える者は、準備を、戦えない者は、協力して避難するように、命令した。

一刻を争う時にチマチマお願いする、なんてのはバカのやる事だ。

命令だ、命令!

さっさと動け!


俺の、迫力に負けたのか、オーガ達が指示に従って行動を開始した。



「い、いい、いいいい加減にしろぉー」

ギアが完全にキレた。

が、その間もウィズは、滅多打ちする手を止めることはない。

ギアはズタズタボロボロになってきた。

「ウギャァァァーー!!!」

村に、ギアの叫び声がこだまする。





で、村に、ギアの軍が到着した。


「止まれ!」

俺は、その軍勢の前に立ち、大きな声で言った。

俺の声に進軍が止まる。

俺は、ニヤリと笑った。


さて、準備万端いざ!


「オラァ、こっちには、人質がいる! 返して欲しければ、交渉に応じる用意があるけど、どうすんだ? お前ら!」

俺がそう言うと、ギアを縄で縛りつけた柱を、オーガ達が運んできた。

ちゃんと、ギアには、猿轡と目隠しをつけている。



ギアを見た、軍隊が、ざわついている。


「オラ、オラ、オメーら! このギアちゃんがどうなってもいいのか? あぁ~ん?」

俺は、柱の周りをよたよた歩きながら、言った。


軍隊の中から、馬に乗った偉そうなのが出てきた。

「そのお方は、ギナ様の弟君だ! お前らが、死にたくないと思うならば、即刻ギア様を解放しろ!」

と、立場をわきまえな、ふざけた事をぬかしたので、罰として、ギアを棒でバシバシ叩いた。

「オラー! 教育がなってないぞ!」

バシッ! バシッ!


「ヴゲフッ」

ギアが変な声を出した。


馬に乗った奴が今にも、こちらに襲いかかりそうな雰囲気で前に出たのが見えた。


生意気な!


「変な真似したら、こいつ殺すぞ!」

俺は、ナイフを取り出し、ギアの足に刺した。


「ヴゥゥゥゥゥーー!」


ギアが、呻き声をあげた。


馬に乗った人物の動きがとまった。


「お前らみたいな悪党と交渉してやろうと、優しい俺が言ってやってるんだからさぁ、ごちゃごちゃ言わず、お前、お前だよ、馬から降りて、こっち来い!」

正義の味方である、俺が凛々しく男らしく言ったので、オーガ達は、俺を尊敬の眼差しで見ているに違いない、いや、きっとそうだろう。



「ひ、酷い……なんか、どっちが悪党だよ……」

オーガ達は、野上にドン引きしていた。


馬から、降りた人物がこちらに歩いてくる。

正義の人、すなわち俺と、悪者との「 交渉 」と言う名の「 戦争 」が始まる!

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