第38話 勇者その3

フラフラと走るキャンピングカーが、また、木にぶつかった。

今は、ルファスが運転してるはず。

頑張れ! と、キャンピングカーを見ながら、俺は思った。


「ちゃんと、前見て運転しないと駄目じゃないか!」

勇者 前川が、ルファスに注意する。

「運転って、なかかな難しいものですね」

木にぶつけたキャンピングカーをバックさせながら、ルファスが言った。

バックモニターとサイドミラーの確認を怠らないように前川が、ルファスに注意した。

「ちょっと、アンタ! もっと、優しく教えなさいよ」

キャスカが、前川に猛然と抗議する。

だが、前川は、キャスカの白くて細いナマ足をイヤらしい目つきで見て、ニヤニヤするのだった。

「キャスカちゃん、後で、ね」

と、前川がニヤニヤして言った。

キャスカに鳥肌がたつ。

運転の事だろうが、違って聞こえる。

「ホントに、死ねばよかったのに……」

キャスカは、冷めた目をして前川に言った。



結論から言うと、俺は、クソ川こと、勇者 前川 彰を殺さなかった。

なんだかんだ言って、俺は優しいのだろう。

クソ川には、ルファスと、キャスカに運転を教える仕事を与えた。

しっかり働くように、俺と、レイラで教育したので、逆らう事はあるまい。

心配しないで良いように、奴隷の刑に処してやっても良かったかなと、思ったが、それは、おいおい考えよう。

奴も、日本にいるときは、周りを奴隷にしてたんだ、自分が奴隷にされても文句は、あるまいに、ホントに俺は優しい。。



そんな訳で、ルファスとキャスカが、キャンピングカーの運転をマスターするまでの間、ドラゴンの里に滞在する事に決めた。

ミロースの話だと、ドラゴン達は、もっと奥地にいるらしく、俺達が、この辺でウロウロしてる分には、なんの問題も無いとの事だ。

だが、一応縄張りの端っことは言え、お邪魔している身なので、缶ビールとか、お菓子をナイロン袋にいれてミロースに、里の長に渡すよう頼んだ。

気配りの出来る男、それが俺だ。



「ヒロシ元気か?」

爺さんが、手を振ってやってきた。

昨日も来ただろ? と、思いつつ、俺は、手を振り返す。

いつもと同じで、人化したミロースがついてきている。


こちらに向かってきている、あの爺さんは、ドラゴンの長、ヘリウスなのだが、缶ビールとか、お菓子が気に入ったようで、毎日来るようになったのだ。


最初は、ドラゴンの姿でやってきて、目の前で人化したのだが、フリチンの爺さんにウロつかれて、俺が嫌だったので、今では、離れた場所で人化して、服を着てから、こっちに来るように頼んである。


俺は、軽キャン後のサイクルキャリアに装着してあるアイテムボックスから、缶ビールとおつまみを取ってくる。

ドラゴンの長、ヘリウスは、勝手知ったるもので、軽キャンに乗り込んでいた。

「ヘリウス、ビール持ってきたぞ」

俺は、缶ビールやら、おつまみやらを軽キャンのテーブルに並べて行く。

ヘリウスが缶ビールを手に取り飲もうとするので、ペチンと、その手を叩いた。

ミロースが、その様子を見てビクッとした。

「ちゃんと、コップに入れて飲もうぜ、ヘリウス」

俺は、行儀が良いので、コップに注いで飲みたいのだ。

「相変わらず、ヒロシは、厳しいのう」

シュンとして行儀よくコップを待つヘリウス。

行儀良くしているので、俺は、ヘリウスのコップにビールを注いでやった。

ミロースは、さっきから、ハラハラして見ているようだ。

そりゃ、ミロースにとっては、ドラゴンの長かもしれないよ、でも、ヘリウスは、俺には、上司でも何でもない、飲み友達だ。

友達は、対等なもんだろう? だから、俺は、気にせず付き合うぞ! と、ミロースを見て思った。

「では、本日のつまみは、これだ」

俺は、サバ缶を取り出した。

そして、皿にマヨネーズを出して、サバ缶から、サバを取り出して、軽くほぐしてマヨネーズと合わせる。

「食おうぜ、ヘリウス。 ミロースも食べなよ」

俺が、食って見せると、二人とも一口食べた。

「あ、なかなか」

ヘリウスの顔が明るくなる。

「長、簡単に美味しいのができましたね」

ミロースも気に入ってくれたようだ。

あたりめの袋を開けて、クチャクチャ食べながら窓の外を見た。

外では、レイラ、ウィズ、バンと、プロム、カイ、フィリーの3対3の模擬戦をしている。

毎日メンバーを入れ換えて、頑張ってる。

戦力も上がっている事だろう。

俺は、ビールを飲み、ヘリウスと歓談しながら、観戦した。


今日も、そろそろか?


「ミロース、相手をしてあげなさい」

ヘリウスが、ミロースに言った。

いつもと同じだ。

ヘリウスがくると、ミロースが、みんなに稽古をつけてくれる。

俺は、軽キャンの外に出て、模擬戦を中断させる。

「みんなー! 今日も、ミロースが稽古つけてくれるから、用意しろー」

俺の言葉に、模擬戦を中断したレイラ達。

俺が指揮をとってミロースに模擬戦を挑む。

いつもと同じだ。

俺達は、対ミロース用のフォーメーションとる。

ミロースが服を脱いで軽キャンから出てきた。

徐々にドラゴンへと変化していく。

今日は、どれぐらい、もつかな?

変化を見ながら、俺は、そんな風に思った。


「みんな、今日は、粘るぞ」

俺の言葉に、みんな頷く。

「レイラ、カイは、弓で、牽制」

レイラとカイが弓を構える。

「バンを先頭にウィズ、プロムは正面へ」

バンを頂点に三角形の形をとる。

「フィリーは、後方で、俺の近くにいろ。 まずは、魔法をミロースの前に落として、目眩ましをしろ、その後は、強い魔法の詠唱を開始して、準備が整ったら、俺に言え」

フィリーが俺に頷いて、ミロースに向かって魔法攻撃を放った!

作戦通り、ミロースの手前で、爆発が起こる。

爆発の煙の中からバンが飛び出した!

驚いた、ミロースがバンに攻撃を加えようと手を伸ばす。

バンの狙い通り、自分に攻撃がきたとニヤリとする。

ミロースの攻撃が、バンの大盾に当たる頃、左右からウィズとプロムが切り込む!

ミロースは、一瞬の遅れをとり、二人の攻撃を受けた。

深追いせずに素早く、離脱する、バン、プロム、ウィズ。

三人を追うが、矢が、止めどなく放たれる!

連携のとれた攻撃が続く。





夕方。

ヘリウス達が帰る時間だ。

俺達は、ボロボロになりながら、回復薬を飲んでいる。

結局、今回も、俺達のボロ負けだった。

「大分強くなったな、今日は、怪我をした」

言った、ミロースの手に擦り傷がついていた。

強くなったと、天狗になっていたが、俺達は、まだまだ弱いと思い知らされるよ。

と、みんなを見ると、今日の戦いで、何か掴んだのか、みんなでワイワイ話をしている。

俺は、立ち上がり、ヘリウスとミロースに礼を言って二人を見送った。


新たにキャンピングカーを手に入れ、みんなの修行にもなる。

ここに来てよかったと思う。

だが、この時の俺は、知らなかった。

この地に迫る、悪意を……




軽キャンクラブと補欠の前川がいる所から離れた森の中、ドラゴンの里を目指す100名程の一団があった。

セガル王国の残党の魔導科学者達と、武装したチャングム王国兵士達。

目的は、ドラゴンの、捕獲!

そしてセガル王国と同じように、自我を奪い兵器とするため。

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