第37話 勇者その2

俺達に近づく影は、ゆっくりと密かに歩みを進める。


ガキンッ!


俺達の後ろの方で音がした!

みんなが振り向くと、ミロースの足元で暗くてよく解らないが、誰かが踞っていた。

その側に剣が転がっている。


「また、お前か?」

ミロースが、うざそうに言った。

俺は、その言葉に、ハッとした。


勇者!


美少女か?


美熟女か?


俺は、トキメキながら走る。


ギンギンにヤル気満々で走る。

そう、目の前の、あの、ハゲかかったおっさんに向かって!

「ふざけんな、お前!」

バチーン!

俺は泣きながら、おっさんに力一杯ビンタした。

おっさんは、カンフー映画のようにクルクル回って倒れた。

俺は、フーフー言いながら、ミロースを見た。

「ミロース、俺に残された希望の為に聞くが、あそこで倒れてる奴が勇者じゃないよな?」

向こうで倒れてる、おっさんを指差して言った。

違うと、言ってくれ。

「あいつが、しつこい勇者だ」

やっぱりかー!

俺は、ミロースの言葉に心が折れ、がっくり項垂れた。


軽キャンクラブのメンバーは、意味が解らないと言った表情で野上博志をみていた。



俺達は、焚き火を囲んでいる。

俺の右にレイラ、左にプロム。

レイラの隣にルファス、キャスカ。

プロムの隣にカイ、フィリー。

俺の前、焚き火を挟んで、おっさんがウィズとバンに挟まれて正座をしている。

「名前は?」

俺は、ふんぞり返って聞いた。

「ぼ、僕の名前は、前川 彰です」

前川が、おどおどしながら、答えた。

ん? 前川 彰? どこかで…

「年齢は?」

俺は、何かを思い出しそうになっていた。

「33歳です」

え、ハゲかかってんじゃん!

俺は、前川が思ったより若かった事に驚いた。

……あっ!

「お前、動画サイトにキャンピングカー出してなかった?」

俺は、もしやと思い聞いた。

流石に、異世界のメンバーは、? となっているが、前川の顔が明るくなった。

「ええ、彰のワクワクキャンピングライフ、の動画ですね?」

前川の答えで、モヤモヤしてたのが、晴れた。

「そうか、まったくキャンプやキャンピングカーに愛情を感じない動画だったけど、アシスタントの皆川 愛ちゃんが、可愛くてみてたよ」

俺は、動画を見ていた当時の懐かしさと、可愛くて好きだった皆川 愛ちゃんの事を思い出してほっこりした気持ちになった。

悪い奴じゃない、俺は、そう思って、正座をやめさせようと前川 彰君に近づいていく。

「いや~あの女、どうしようもない尻軽で、散々やった後、捨ててやりまし」

ビターン!

「なんだ、お前はー!」

俺は、ヘラヘラ言った前川にビンタする。

そして、席に戻った。

前川が、??? と言った顔で、ビンタされた頬を押さえている。

「その若さで、キャンピングカー買うって、たいしたもんだよ。 でも、無理して、高額なの買って生活キツかったんだろ?」

俺は、そうであって欲しいと聞いた。

「いや~、あんなもん税金対策ですよ! いや、ネット通販とか、IT関連の会社を、いくつか経営してまして、金ならアホみたいにありましたから」

笑って、前川のクソが言った。

俺は、軽キャンを買うのに一生懸命、金を貯めたのに…

イラついたが、奴も、努力してその地位を手にしたのだから、……嫉妬は見苦しい、俺は、そんな事を考えた自分を笑った。

「女優とか、アイドルとヤりまくって、楽しかったなぁ~金さえあれば、すぐ股開きますしね~金持ちの僕が何やっても許されますから! ハハハハ」

クソ川は、そう言って笑った。

ウィズもバンも嫌な顔をして、クソ川をみてる。

うん、奴はクソだ。


ガツッ!

俺は、座っていた折り畳み椅子で、クソ野郎を、ぶん殴る!


「すまん、手が滑った! あ! コラ! 動くな、当てれないだろ!」

更に何発か、ぶん殴ると、折り畳み椅子が変形した。

これは、妬み、嫉みだ! と、俺は、男らしく思った。

「ヒエェ~、何なんですか~」

クソ川が、フラフラしながら言った。

だが、先程からの最低発言の数々により、軽キャンクラブは、冷たい目でクソ川を見ているだけで、無反応だ。


とりあえず、前川 彰は、俺的にクソ野郎認定しとく。

人の価値観は、それぞれ、否定はしないが、前川のようなクソ野郎が儲けれてた、前の世界だと、アレが正解なのか?

なら、俺、異世界で良いわ、と思った。



俺は、クソ川を連れて、クソ川のキャンピングカーをチェックしていた。


「クソ川~、お前、異世界転移して、何か特殊能力とか、もらった?」

俺は、キャンピングカーの中で棚を開きながら言った。

「え? くそ? 前川ですが…」

ん、何か言った?

はい、無視。

クソ川が、観念して喋り出す。

「特殊能力もらいました、ゴニョゴニョ」

クソ川が、ゴニョゴニョと歯切れが悪い。

「聞こえないよ、はっきり喋れ」

俺は、ちょっとイラついてクソ川に言った。

クソ川が、ちょっと考えている。

「あの、鼻くそが、メロン味になる特殊能力を授かりま」

ビターン

俺は、言葉が終わる前にビンタをする。

「んな訳あるか!」

クソ川が、頬を押さえて、

「ほ、ほ、ホントです~」

と言った。


マジか?


マジなのか?


「お、お前、 ……鼻くそ食べるの?」

俺は、クソ川から少し距離をとった。


クソ川は、ん? と、してから、

「いや、食べるわけ無いじゃないですか!」

と、否定してきた。

ホントかよ? と、言う目で俺は、クソ川を見ている。

「他には?」

俺は、俺の脅威となる能力を隠していると、確信している。

絶対に聞き出す。

クソ川が黙っている。


「…レ、レベルが上がると…」

クソ川が喋り出した。


俺は、唾をゴクリと飲み込み、耳を澄ます。


「レモン味や、グレープ味になりま」

ビターン!

俺は、クソ川が言い終わる前にビンタする。


「やっぱ、食ってんじゃねぇか!」


俺の言葉に、必死で否定してくるクソ川だが、信じない事にする。

外では、レイラ達が食事の準備に取りかかっていた。


「ところで、なんで、ミロース倒そうとしてんの?」

俺は、運転席に移動しながら言った。

「いや、チャングム王国に異世界召喚されて、勇者だから、戦争に参加するか、モンスター討伐して、国に貢献しろといわれましたので…」

クソ川の言葉に、こいつ正気かと思った。

「お前、なんで、いきなりドラゴン相手にしてるの? バカなの?」

鼻くそ食のクソ川先生に聞いてみた。

「いや、僕、勝ち組じゃないですか? 余裕だと思ったんですけどねぇ」

ああ~、残念な人だと俺は、思った。

ミロースも、こんなの相手にしたくなかったんだな。

「それより、あのオッパイのデカイ、エロい女は、野上さんの奴隷ですか? 幾らしました?」

下品な顔をして、クソ川が聞いてきた。

プロムの事か?

いちいち、イラつくな、こいつ。

「俺の奥さんだよ」

俺は、キャンピングカーのエンジンをかけようとする。


ビリッ!


電流が走って俺の指が弾かれた。

俺の軽キャンと同じだ。

やはり登録者以外、エンジンをかける事が出来ない。

どうする?

このクソ川を仲間にするか?

ぜったい問題起こすぞ、こいつ。

俺は、クソ川を見る。


クソ川は、外のプロムをイヤらしい目で見つめている。


仲間に出来ないなら、殺るか?


俺は、運転席から、前川 彰の後ろ姿をじっと見た。


そして、対象に向かって、ゆっくりと近づくのだった

俺は、ゆっくりと、前川 彰 に後ろからゆっくり近づく。

クソ川、お前に恨みは無いが……

俺の手がゆっくりとクソ川の首に伸びていく。

「あっちのエロいエルフは、奴隷ですか? 幾らでした?」

クソ川が、股を押さえてハァハァ言ってる。

「俺の、嫁さんだよ」

俺は、グッと首を絞める。

「何を…」

クソ川が言った。

「いや、大丈夫だから」

俺は、答える。



「そいつ、殺すの?」

キャスカの声がした。

「!」

俺が、横を見ると入り口にキャスカがいた。

こっちをみてる。

俺は、クソ川の首から手を離した。

クソ川が座りこんで、ゴホゴホ噎せている。

「な、なーんちゃって、ドッキリでした」

俺は、 クソ川の肩をポンポン叩いた。

「ゲホ、ゲホ、ドッキリって、実際、首を絞めら」

クソ川の言葉にかぶせるように俺は、

「あー、良いから、気にするな」

と、言った。


俺は、クソ川を、抱き起こす。

運転席にクソ川を座らせてエンジンをかけさせる。

キャスカにルファスを呼びにいかせた。


「さっきの少女、奴隷ですか? 幾らしました?」

クソ川がニタニタ笑って言った。

もう、お前、喋るなよ! と、思いつつ俺は、少しクソ川を睨んで、さっき、キャンピングカーを調べている時に見つけた、シーツや、ナイロンヒモを取ってくる。



ナビが作動した。

基本の操作は、軽キャンと同じだ。

俺は、登録者の変更を探す。

項目が、全然少ない。

俺は、クソ川を見て思った。

こいつ、レベル相当低い。

よくドラゴン倒そうと思ったな、と、改めて思った。


ナビをいじる……あった。

俺は、クソ川を見て、ニヤリと笑った。


キャスカが、ルファスを連れて来た。



「所有者登録の変更を、行います」

アナウンスが流れ、画面には、

Yes ・ No

が表示される。

俺は、迷わず Yes を選択。


「新規所有者の登録を行います」

アナウンスが流れ、画面には、

画面をタッチしてください

が表示される。

俺と、ルファスと、キャスカが画面に触れた。

次の瞬間、俺と、ルファスと、キャスカが光に包まれた。


「ヒロシ! 何これ?」

驚いたキャスカが言った、

「大丈夫だ! ……たぶん」

俺も解らないんだから、しょうがないだろ?

「キャスカー!」

ルファスがキャスカを抱き締める。

「モガモガモガ」

簀巻きにされた、クソ川が言った。


「新規登録が終了いたしました」

アナウンスが流れた。


俺達は、顔を見合わせた。

俺は、恐る恐るエンジンをかける。


ブルルル…


普通にエンジンがかかった。

エンジンを切った。

そして、ルファス、キャスカも同じようにエンジンの始動実験をしたが、問題なく出来た。

めでたく、キャンピングカーが手に入った。



俺は、みんなを焚き火のとこに集まってもらった。

「はい、みんな集まったな?」

俺は、立ち上がって言った。

みんなは、座って俺を見ている。

「じゃ、こちらが、今回、キャンピングカーを提供してくれた、前川 彰君です」

俺は、簀巻きにされている、クソ川を指差す。

「モガモガモガ」

クソ川は、芋虫のように、動いてモガモガ言ってる。

「で、この、勇者様をどうしようか、みんなで、話し合いたいと思います。意見のある人は、手をあげてください」

「はい」

元気よくウィズが、手をあげた。

「はい、ウィズ」

俺は、発言を許可する。

「お腹が空いたので、食事が終わってからにしませんか?」

「ウィズ、サクッと終わらせるから、これ食べて、我慢しろ」

俺は、こんなこともあろうかと、用意していた、チョコチップスナックパンをウィズに渡した。

ウィズが袋を開けてモシャモシャ食べだした。

ウィズの手が上がる。

俺は、指名せずに、水を渡す。

ウィズは、手を下ろすと、水を飲みつつ静かにモシャモシャ食べている。


「みんな、なかなか、意見が出ないようだな」

ウィズの食事要求以外、意見が出ない。

しょうがねぇな。

「前川君を生かしたい人、手をあげて」

俺は、民主的に多数決で決めようと思う。

ん? あれ、誰も手をあげないね。

俺は、クソ川を見てから、みんなに向き合った。

「えー、残念だが、」

フィリーの手が上がる。

「ん? フィリーどうした?」

「いや、その人の意見も聞いた方が、いいんじゃないかな?」

フィリーは、か細い 声で言った。

可愛いなと、俺とカイが思った。

俺は、部下の意見を聞く上司であるから、嫌々、簀巻きにされた、クソ川の猿ぐつわをはずす。


「殺さないでください」

前川 彰の第一声は、それだった。

俺は、腕組をして、どうするか悩んだ。

「う~ん、どうすっかなぁ?」


そして、俺がだした答えは……

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