第35話 ヴァルファ帝国 救出戦 その2

「ヒロシ、コーヒーまだいる?」

朝御飯が終わり、コーヒーを飲み終わった俺に、レイラが聞いてきたので、おかわりを頼んだ。

俺達は、昨日逃げてきた丘の上で一晩を過ごした。

丘の下にはモスノフの街が見える。

ヴァルファ14世を生かしておいて良かったのか俺には、わからない。

キャスカが、生かしてやって欲しいと言ったから、生かした。

それだけだ。

許した訳じゃない。

奴が次、二人に何かしたら、問答無用で、殺る。

俺は、コーヒーのお代わりがくるのを待ちながら、そんな事を考えていた。

「何、怖い顔してんのよ」

キャスカが、俺に話しかけてきた。

何時もの強気で、生意気なキャスカだ。

俺は、それが嬉しい。

「うるせーよ」

俺は笑って答える。

「そろそろ、ラガス王国に帰るか?」

俺の言葉に、キャスカが頷いて、生まれ育った街を、じっと見下ろしていた。

俺は、なにも言わず、ただ、レイラが持ってきてくれたコーヒーを飲んだ。



「みんな乗ったか?」

俺は、運転席から、後ろのみんなに聞いた。

「大丈夫よ」

と、レイラ。

「のってるよ」

と、プロム。

「大丈夫です」

と、ルファス。

俺は、頷いて、助手席を見る。

「それじゃ、行こうか?」

助手席に乗るキャスカに言った。

「早く行きましょ」

と、窓の外を見ながらキャスカが答えた。

俺は前を見て笑った。

アクセルを踏み込み軽キャンが走り出す。



国境付近にヴァルファ軍が待ち構えていた。

多くの兵士が弓を構えている。

「バカが、停まるかよ」

俺は、そう言ってアクセルを緩めない。

停車するそぶりを見せない軽キャンに、指揮官は、慌てて弓兵に撃てと指示を出す!

沢山の弓兵が放った、矢の雨が軽キャンに降り注ぐ。


カッ! カツ! カン! カッ! カツ! カン!


軽キャンに、どんどん矢が当たる。

カンカン、カンカンうるさい。

だが、そんなもんじゃ、俺の軽キャンを足止めなんて出来やしない。

矢の雨をものともせずに突っ込んでいく軽キャン。

ぶつかりたくない兵士達が避けていく。

目の前には、木で作ったバリケード。

そんな物、足止めになる訳もなく、ぶっ壊して俺達は、悠々ヴァルファ帝国からオサラバさせていただいた。


さて、国境を越えて大分走ったし、危険も去ったろう、後は、ゆっくり帰ろう。

俺達は、景色の良いとこで、お茶をして、星が綺麗に見える丘で車中泊をして、女性陣の水浴びを覗いたり、バレて、正座させられたりしながら、楽しくラガス王国へ向かった。



ラガス王国の拠点の屋敷。

カイとウィズが、洗濯物を干している。

ウィズの耳に小さく、軽キャンのエンジン音が聞こえてきた。

ハッとしたウィズは、一緒に作業していたカイに、洗濯物を投げつけ走り出す。

「ちょっと、ウィズ何やってんだよ! ふざけてると、また、フィリーに怒られるぞ!」

カイが注意するが、ウィズは無視して、敷地を飛び出していった。

遠くをキョロキョロ見渡すウィズの動きが停まる。

「カイ! バンとフィリー呼んでこい! 帰ってきた!」

ウィズの言葉に、カイは飛び上がって、バンとフィリーを呼びに走る。



軽キャンが屋敷の前に到着すると、ウィズ達が出迎えていてくれた。

俺は、みんなの姿をみて、帰ってきたって実感した。

「ただいまッ」

俺は、それだけ言うと、足早に屋敷に入り、トイレに直行した。

結構前から、便意と戦って運転してきてたんだ、仕方ないだろう。



そして、帰ってきてから、数日が過ぎた。

俺達は、最近、忙しかったので、ゆっくりしながら遊んで過ごしていた。

ドラゴンと戦ったり、戦争したりしてたんだ。

休息して何が悪い! と、開き直っていたが、やっぱ、働かざる者食うべからず! だよね? と、みんな考えては、いる。

なので、俺達は、そろそろ冒険者家業に戻らねば! と、思うのだがモチベーションが上がらない。

よし、明日から頑張ろうと思いつつ、瞬く間に、更に数日が過ぎた。


そんな時、俺達の元に珍しい客が来た。

ホワイトドラゴン、白ドラのミロースだった。

屋敷の近くを悠々飛んでいる。

俺達が屋敷の外に出て、大きく手を振って、ワイワイ言っていると、ミロースが、屋敷の前に降り立った。

そして、ミロースが人化して美少女の姿になった。

やっぱ、可愛い。

だが、相変わらず、裸だね。

目のやり場に困る。

レイラ達がいなきゃガン見すんだけど……と、思いつつ、ミロースの元へ、

「ミロースじゃないか、どうした?」

俺は、懐かしさや、嬉しさが込み上げながら言った。

って、その前に、とりあえず、屋敷の中に入ってもらう。

裸の美少女と、立ち話してるのは、ご近所さんに、俺が、この俺が、変な目で見られるからな。


ミロースには、俺達と同じ制服を着てもらう。

リビングに、みんなを集めた。

カイに、軽キャンの冷蔵庫から、人数分の冷えたコーラをもって来てもらう。

ミロースが、炭酸に苦戦しながらも、ゴクゴク旨そうに飲む。

「ゲフッ、私達の里に勇者が現れた」

ゲップしながら、ミロースが言った。

勇者……だと?

転生か?

召喚か?

どっちにしろ、アレか!

美少女と、ワフワフ イベント発生か!!

頭脳が高速思考して、答えが出た!

俺の目がキラリと光った、次の瞬間、ミロースに言った。

「話を聞こう」


この世界は、驚きに満ちている。

俺たちは、生きている限り、前に進み続ける!

軽キャンピングカーと異世界とおっさん !

無敵の軽キャンと成り上がった俺は、楽しく仲良く仲間と共に今日も、面白おかしく生きていくのだ!

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