第34話 ヴァルファ帝国 救出戦

「キャ……キャスカ…」

ルファスは、城の地下、鉄格子の中の粗末なベッドで目が覚めた。

「イッ」

体を起こそうとすると痛みがした。

受けた暴行のせいだろう。

ルファスは、体の痛みより、キャスカが心配であった。


カツーン、カツーン。

足音が聞こえてきた。

そして、ルファスの部屋の前で足音が止まった。

巡回の兵士だった。

「キャスカは? キャスカは無事なのか?」

ルファスは、鉄格子の向こうにいる兵士向かって行く。


ドスッ!

兵士の持つ、槍の柄でルファスが突かれた。

「知るか! 裏切り者め! エサをもってきてやっただけだ」

兵士は、パンと薄いスープの入った物を置いて、立ち去っていく。


「ごめん、キャスカ……俺のせいで…」

ルファスは、両手で顔を覆って涙をながした。

自分が、戦争から逃げ出して、捨てた国であるヴァルファに戻ろうなどと、言い出さなかったら、自分に、なんのゆかりもない地を守ろう、侵略をやめさせようなんて考えなければ、こんな事になる事もなかったのに…ルファスは、同じ事を何度も思った。

そして、何度も悔いた。

だが、遅かった。


ルファスは、ここに入れられた経緯を考えていた。

あの日、ヴァルファ帝国に到着した日に、自分とキャスカは、父親である、ヴァルファ14世の元へ、侵略を止めるよう説得しに行った。

だが、話すよりも先に不意をつかれて、自分とキャスカが拘束された。

自分は、暴行を受けて、地下牢へと入れられた。


ルファスは、キャスカが無事でいてくれる事を祈った。



軽キャンピングカーが城の近くに停めた。

俺達は、歩いて城の前まできた。

デカイ城だな。

城を見上げていても、しょうがない。

とっとと、中に入ろう。

俺達は門番に、

「どうも」

と挨拶して、中に入ろうとしたが、流石に止められた。

俺達は、軽キャンに戻る。

どうする?

正攻法で、軽キャンを使って城の壁を突き破って入るか?

でも、騒ぎが大きくなる。

そうこうしてると、出入り業者の馬車が城に入って行くのが見えた。

世界最高峰の頭脳の持ち主である俺は、閃いた。

あの馬車に乗り込んで、城に忍び込む! と言う、誰も思いつく事の出来ない、そのたぐいまれなる奇抜なアイデアにより、城の侵入方法!

俺は、自画自賛して、走り出した。

適当な馬車に飛び乗る。

即、馬車の持ち主が気づいた。

だが、俺の話術と賄賂が功を奏したようで、俺達は荷物に紛れ込ませてもらえた。


待ってろ! ルファス、キャスカ! 俺は、荷物に紛れながら思った。



城の中に入ったは良いが、さっぱりだ。

こんな時は、素直な俺は、ちゃんと人に聞くのだ。

この城の責任者に聞くのが、一番だ。

と、言うことで、近くの兵士に話しかける。

「そこの、あんた、王様の部屋どこ?」

俺が、普通に話しかけるので、レイラがびっくりして、

「ちょっと、大丈夫なの?」

と、小声で俺に言ってきた。

「王様なら、王の間にいるんじゃないかな? 場所は、わかります?」

親切な兵士だった。

俺は、王の間への行き方を教えてもらって、お礼を言って兵士と別れた。

レイラとプロムは、なぜか納得いかない顔をしている。


せっかく教えてもらったのだが、広くて迷った。

なんか、適当に進んでいるとドアがあったので開けると、目の前に、如何にも偉そうな奴が高くなった場所に設置してある椅子に座ってる。

裏口から、王の間に着いたらしい。

俺は、王様の横に歩いて行き、偉そうにふんぞり返っている王様の肩を叩いた。

「あのさ、ルファスって知ってる? 探してんだけど」

俺が聞いてるのに、偉そうな奴は俺を見て、ビックリしている。

「あの、聞いてる?」

俺は、確認してみた。

「ヒロシ!」

レイラが叫んだ。

「どうした?」

後ろのレイラを見ると、指を指してる。

俺は、レイラの指差す方を見ると、キャスカが裸で手枷をされていた。

殴られた痕がある。

なんだこれ…。

どす黒いものがこみ上がってくる。

「貴様等! どこから入ってきた! 入り口は閉めてあったハズだが?」

王様が立ち上がって叫んだ。

俺は、渾身の力で、ぶん殴った。

王様の鼻が折れて鼻血が吹き出した。

衝撃で椅子にもたれ掛かる王様。

「プロム、キャスカに、これを!」

俺は、制服の上着をプロムに投げ渡す。

受け取ったプロムがキャスカの元に素早く駆け寄り服をかけて抱き締めた。

「キャスカ、これを飲んで」

プロムが、キャスカに回復薬を飲ませる。

「説明してもらおうか?」

俺は、鼻を押さえる王様を見下ろして言った。

「貴様等、何をしたか解っているのか?俺は、ヴァルファ帝国皇帝、ヴァルファ14世なるぞ!」

俺は、王様、王様、思ってたのが、恥ずかしかったが、怒りが上回っている。

「しるか!」

そう言って、ヴァルファ14世の顔を蹴った。

「何をしているんだ、お前は!」

そう言って、ヴァルファ14世の腹を蹴った。

「答えろ!」

胸ぐらを掴んで、殴る。

「答えろ!」

殴る!殴る!殴る!殴る!

俺の手も、ヴァルファ14世もボロボロだ。

俺は、回復薬を飲んで、少し残った分をヴァルファに無理矢理飲ませて、また殴った。

苦しめて、殺す!

俺は、殴り続けた。


「お父様を、殺さないであげて」

キャスカが言った。

俺は殴る手を止める。

俺は、耳を疑った。

父親?

父親が娘にやることか? これが?

「やったのか?」

俺は、ヴァルファに聞いた。

ヴァルファが、俺を見て笑った。


後の記憶がない。

レイラの話だと、後もう少しで殺すところだったらしい。



王の間には、俺、レイラ、プロム、キャスカ、ヴァルファの5人。

ヴァルファが、キャスカを嬲る為に人払いしていたお陰で、事がすんなり言ったって訳だ。

その前に助けてやりたかった。

「で、お前は、国から逃げた、ルファスとキャスカを探して、殺そうと思っていたんだな?」

ヴァルファに確認する。

俺と、ヴァルファの間にレイラがいる。

俺が、ヴァルファを殺さないように、レイラに頼んだ。

「そうだ、さっきから言っておろうが! 国を守るためだ」

ヴァルファの言葉に、そうだろうなと理解しても許せない。

仲間を傷つけられて平気でいられるか? 無理だろ?

「そうかよ、ルファスもキャスカも、お前の国を、どうこうしようとは思わない。 俺もだ。 心配するな。 だから、もう、関わるなよ」

ヴァルファ14世は黙っている。

「今度、俺達に関わってみろ? 殺すからな」

俺は、ヴァルファ14世を睨み付ける。

「それと、広大な領土があるんだ、もういいだろう? 他国の侵略やめてくんない? 目障りだから。 あ、これは、お願いじゃなくて命令だから」

俺の言葉に、ヴァルファ14世が睨み付けてくる。

俺は、ニヤリと笑う。

「それじゃ行こうか?」

俺達が立ち上がる。

レイラと一緒にヴァルファの腕を掴んで持ち上げる。

ルファスの救出と、俺達が安全に撤退出来るように人質として活躍してもらう。



城の入り口。

ルファスも無事だったし、帰ろうか。

俺達の後ろには、ヴァルファ帝国の兵士やら重臣とかスゴい人数がいる。

壮観だね。

「お前ら、動いたら、ヴァルファ14世を殺すから、動かないように!」

俺が、忠告した。

「お父様、今まで、ありがとうございました。 私とお兄様は、死んだものと思ってください。 さようなら」

キャスカはそう言うと、ルファスとプロムと去っていく。

「ヴァルファ俺達行くから、向こう向いとけ。 振り返ったら殺す」

そう言って、城の方にヴァルファを向かせる。

「レイラ、ヴァルファに向けて弓を構えろ。 振り返ったら撃っていいぞ」

レイラが頷いて弓を構えた。

ゆっくり俺達は、ヴァルファと距離をとる。


もう十分だろう。


俺達は、走った。


「奴等を殺せ! 生かして返すな!」

ヴァルファが命令し、兵士達が走り出す。

騎馬も飛び出してきた。

だが、騎馬が俺達の側にくる頃には、俺達は、軽キャンに乗り込んでいた。

軽キャンは、ヴァルファの兵士達を嘲笑うかのように、走り出した。

俺は、アクセルを踏み込み、スピードをぐんぐんあげる。

このまま、安全地帯まで、突き進む。



軽キャンがモスノフから少し離れた丘の上に停まっている。

「ルファス」

俺は、ルファスをぶん殴った。

「ヒロシ! お兄様に何を」

キャスカが俺に食って掛かろうとしたが、プロムに押さえられた。

「ルファス、お前、俺を信じろよ。 お前達を守るって言ったろ? お前の軽率な行動で、キャスカも危険な目に合った」

ルファスを殴る。

ルファスが倒れた。

俺は倒れたルファスを抱き締めて、

「心配かけさせんじゃねぇよ」

と言った。

無事で良かった。

俺は、緊張感から解放されて、体の力が抜けた。

緊張してたんだ。

俺。


ポタッ

地面に水滴が落ちた。


あれ、何で?

俺の頬を水が流れてた。

どうやら、俺は、泣いてるようだ。

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