第33話 ラガス王国攻防戦 その5

グラナス高原に朝がくる。

昇る太陽は、神々しくもあった。

殺し合いをいをしている戦場でも、日の出はやって来る。



戦争二日目。

朝食を取りながら、昨日の確認と今日の予定を伝える。

朝食のメニューは、ベーコンエッグにパンとバターにオニオンスープ。

「ダメもとで、捕虜と交換で撤退してもらえるか、きいてくるから」

俺は、パンにベーコンエッグの半熟の黄身をつけてモシャモシャ食いながら言った。

「フリチンの連れてくの?」

レイラがパンにバターを塗りながら、俺に聞いた。

「流石にダメだろ? あの姿見せたら、ああなりたくないって、抵抗してくるだろう?」

ベーコンをかじりながら俺が言う。

「交渉がダメだった時、あの大軍相手に、どうする?」

ウィズがパンのお代わりを貰いながら言った。

「まぁ、ゆっくりやるさ」

俺は、にやにやしながらオニオンスープに口をつけた。


日も高くなってきた頃、俺は、ヴァルファの陣に軽キャンで乗り付けた。

車からは、出ない。

暗殺されたら、嫌だからね。

「ラガス王国の使者だけど、責任者いる?」

俺は、近くにいた兵士に、今、ここの軍を指揮している人のところに案内をしてもらった。


本陣前の広場に、ヴァルファの将軍達が軽キャンピングカーと向き合っている。

「だから、昨日の捕虜返すから、帰ってくんないかなぁ?」

さっきから、何回も同じ事を言ってるが、連中は、わかりました。と、言わない。

俺が、真摯な、お願いをしてやってるのに生意気な!

「何度言われても、こちらの答えは、変わらない。 我々は、ラガス王国が降伏するまで、撤退は、ない」

いい加減向こうも、イラついているようだ。

「そうか、交渉決裂だな」

俺は、立ち並ぶ偉そうな奴等を次々撥ね飛ばして、ヴァルファの陣を後にした。



ラガス王国の陣。

「交渉決裂だが、向こうの偉い奴らを倒してきたから、今なら勝てるんじゃね?」

俺の報告を受けて、ラフィスは、全軍に突撃の命令をだす。


整然と立ち並ぶラガス王国軍が、ヴァルファの軍に向けて進軍を開始した。

対するヴァルファ軍は、指揮官不在で陣容もまとまっていないようだ。

いくら、数が違おうと、これでは、勝負になるハズもなく、夕方になる頃には、ヴァルファの軍勢は、ラガス王国軍の数より少なくなっていた。


その夜、残ったヴァルファの兵士の半数が逃げ出した。


次の日の朝、降伏の使者がラガス王国軍の陣にやってきた。

戦争は、ラガス王国の勝利に終わった。

だが、ヴァルファ帝国が、この結果を知れば、更なる軍勢を差し向けてくるだろう。


「第一段階、終了だな」

俺は、呟いた。

まだ、計画が始まったばかり。

「予定より早く終わった、そっちの方は?」

俺はブレスレットに話しかける。

「ノガーミ商会を通じて、お前の言ってた協定を結んだ。 あと、そちらに向かった軍だが、もうすぐ到着予定だったが、引き帰らせるぞ」

ブレスレットから、ゼノス王の声が聞こえる。

俺は、ゼノスが上手いことやってくれた事を嬉しく思った。



俺の計画は、グラナス高原のヴァルファ軍に対抗する為、ゼノスに援軍要請と、ヴァルファ帝国周辺の国に相互不可侵協定と、協定国が、攻められた場合に連合軍を結成し対抗する協定も結んでもらった。その規模は、ヴァルファを遥かに凌駕している。

小さな国だろうが、結束すれば強い。 数は力だ。

ラガス王国も、勿論協定にいれた。

独立国としてだ。

支配下に置いても、金がかかると、ゼノス達と話し合って決めた。

この工作にノガーミ商会が使った金額は、天文学的な数字だ。

だが、これは、投資だ。

協定を結んだ国が豊かになれば、取引額も上がって行くだろう。

ノガーミ商会は、より、大きくなって行く事になるだろう。


「さあ、帰るか!」

俺は、レイラ、プロム、ウィズ、カイ、バン、フィリーとルファス達が待つ拠点へ帰る。

軽キャンに乗り込んだ俺は、数日拠点を離れただけなのにルファスや、キャスカが心配だった。

みんなの様子をみると、俺と同じようだ。

俺は、アクセルを踏み込む。



拠点の屋敷が見えてきた。


「ルファス! キャスカ! 帰ったぞ」

俺が、帰ると、屋敷は誰もいなかった。

俺達は、屋敷を探し回ったがいない。

プロムがテーブルにあった置き手紙を見つけた。

俺達は、その手紙を見た。

「……馬鹿野郎」

俺は、プロムから受け取った、ルファスの置手紙をクシャクシャにした。

「ああ! 何が書いてあった?」

ウィズが不安そうな顔で俺に聞く。

「あいつ等、ヴァルファ帝国に、ラガス王国への侵攻を辞めさに行きやがった…」

俺は、クシャクシャになった紙を広げて、読みあげる。


「ノガミ様へ


この手紙を読んでいると言う事は、グラナス高原の戦いに勝利されましたね。

不思議な、軽キャンを持つノガミさん達なら、無事で勝利を収める事が出来ると思っていました。

ですが、この国と同じように、侵略を受ける国が沢山あります。

もし、ノガミさんが、他の国を助けにいった場合、この国はヴァルファの手に落ちるでしょう。

私が、ヴァルファ帝国に戻り、各地の侵略行為をやめさせます。

ノガミさん達は、私達の帰りを待っていてください。

             ルファス 」


「一人で行って、何が出来る?!」

ウィズが叫んだ。

叫んでどうなる?

俺は、手紙をポケットに突っ込んで、

「ルファスを止めに行く!」

と、言いって部屋を飛び出した。

「俺も!」

ウィズ達がついてこようとする。

「俺が、行くから! お前達は、ヴァルファ帝国の残党に備えて、この国に残れ!」

走りながら、指示を出して、軽キャンに俺は向かう。



俺が運転席に着くと、レイラとプロムが、軽キャンに乗っていた。

「私が、手紙を見つけた時に中を読みました。それで、レイラ様に相談したら……」

プロムが言った。

「ヒロシの事だから、きっと行くだろうと思ったよ、早くいきましょ」

レイラが俺を急かす。

俺は、しょうがない奴等と思いながら、嬉しかった。

エンジンをかけて、アクセル全開で、ヴァルファ帝国方面に軽キャンを進めた。



ヴァルファ帝国に向けて山岳地帯上空を飛ぶキャスカとルファス。

「お兄様、もう、そろそろ魔力が切れそうですわ」

小さな体で兄を背負ったキャスカが苦しそうに言った。

「キャスカ、あの辺に降りれるか?」

ルファスは、安全に降りれそうな広場を指差す。

キャスカはルファスの指示した位置に向けて下降していく。


「疲れましたわ。 お兄様、大分来たんじゃありません?」

キャスカは座り込んで、手でパタパタと顔を扇ぎながら言った。

「すまないキャスカ、感謝しているよ」

ルファスは、そう言って、キャスカにキスをする。

舌を絡ませ合い、キャスカの肩を抱き寄せ草の上に二人は横たわった。

「キャスカ、後悔していないかい?」

ヴァルファに戻れば、下手をすれば、命がないかもしれない危険があることは、キャスカも承知の上だと、わかっていたが、ルファスは、迷っていた。

「何回も言ったじゃない?私は、お兄様と一緒にいるのが幸せなのですわ。 それで、命を落とそうと……」

ルファスは、そんな、キャスカが愛しかった。

強く抱き締め、長いキスをした。

キャスカの顔が紅潮して、息があがっていた。

「お兄様、私、もう……」

ルファスも、キャスカが欲しかった。

そして、二人は、愛を確かめ合った。



森の中を、軽キャンピングカーが走る。

「全然いない!」

俺は、軽キャンを走らせながら、叫ぶ。

大分走ってきたのに、姿が見えない。

レイラとプロムも一生懸命辺りを見渡してくれているのに、二人が出発したの、いつなんだよ?

俺は、ヴァルファ帝国を目指して軽キャンを進める。




それから、二日が過ぎた。


ラガス王国の軽キャンクラブの拠点。


「ちょっと、いいか?」

ラフィスが訪ねてきた。

「どうした? ヒロシ達は、いないぞ」

ウィズが、対応にでる。

「まだ、戻っていないのか? 捕虜の件なのだが、どうしたら良いか?」

ラフィスの言葉に、ウィズは? となった。

「いや、意味がわからん。 ヴァルファとの交渉に使えば、良いのではないか?」

ウィズは、なんで、こんな事を聞くのか不思議だった。

「丸太に張り付けた二人の件なのだが」

ラフィスが、恥ずかしそうに言った。

ん? 何?

「いや、ホントに意味がわからない」

ウィズは困惑して言った。

「グラナス高原に放置しといて良いのか?」

ラフィスが言うと、ウィズは、この国の奴等、大丈夫か? と、心配になった。

「いや、ダメだろ? 死ぬぞ! すぐ連れてきてやれよ!」

ウィズはラフィスに言うと、奥にいるバンに、回復薬を持ってくるように言った。

その様子を見ながら、ラフィスが、

「何か、考えがあるのかと思って、放置してきてた」

とブツブツ言ってた。



グラナス高原。

フリチン張り付け状態で放置されていた、ヴァルファ帝国のアデロン将軍とロディア将軍が、空腹と、寒さで、死の縁をさまよっていた。

「ロ、ロディア……い、生きてるか?」

アデロン将軍が、カラカラになりながら、言った。

ロディア将軍からの返事がない。

「……ロディア! ロディア!」

アデロン将軍が目を見開き叫ぶ!

「……うるさいですよ。いきてますよ」

ロディア将軍が、小さな声で答える。

「生きてきたか。 良かった。 あぁ、喉が乾いたな」

アデロン将軍がホッとした様子で答えた。

「体がカラカラで、もう、おしっこも、でませんよ……」

そう言って、ロディアは、体力を使わないように目を綴じだ。


二人が、ラガス王国の手により救出されたのは、それから三時間後の事であった。



キキーッ

軽キャンが、ヴァルファ帝国の首都モスノフに到着した。

「とうとう、到着してしまったな」

ここに到着するまで、ルファスとキャスカを見つける事が出来なかった。

俺は、魔導通信で本国にノガーミ商会に連絡を入れて、モスノフ支店にルファスとキャスカの探索指令を出してある。

到着したその足で、そのままモスノフ支店に向かった。


モスノフ支店に着くと、貴賓室に案内され、すぐに、支店長のソイラ、営業責任者のグラスが部屋に入ってくる。

「ノガミ様、お久しぶりで、ございます。 ところで、何をされたのですか?」

慌てた様子で、ソイラが言った。

「いや、最近ヴァルファ帝国の軍と戦った」

ソイラがそれを聞くと、あぁ~と言った感じでソファーにもたれ掛かった。

「相変わらず、無茶苦茶な方ですね」

グラスが呆れている。

「で、ノガミ様、…ルファス殿下とキャスカ様と、どう言った、ご関係で?」

ソイラが俺に聞いてきたが、殿下?様?なんだそれ?

「いや、俺の仲間のルファスと、キャスカは、飲んだくれの、どうしようもない親父から逃げる為に、この国を出たんだよ。 ソイラの思ってるの別人じゃない?」

俺は、やれやれと呆れてやった。

「二人から、そんな身分が高いって、聞いてない」

レイラが俺に同調して言った。

「そうですかぁ? それ以外のルファス、キャスカと言う名前の者がモスノフに入ったと言う情報は入っておりませんが……」

ソイラが、言うので、俺達は、ルファス達より先に、ここに着いたのだと思った。

それより、さっきから、ソイラとグラスが、レイラをイヤらしい目で見ているのが気になる。

「ノガミ様、現在、ルファス殿下達は、城に幽閉されているとの情報がありますが…」

別人だって言ってるのに、ソイラもしつこいね。

「あー、わかった。 絶対に違うと思うけど、調べてやるけど、お前ら、モスノフに、俺の仲間のルファス達が入ってくるのチェックするんだぞ」

俺は、そう言って席をたつ。

「あっ! ノガミ様、そちらの女性は?」

グラスが、プロムの事を聞いてきた。

「俺の第二婦人。 可愛いだろう」

そう言って、プロムに抱きついて見せると、グラスは、羨ましそうに見ていた。

ならば、と、レイラも引き寄せ抱き締める。

羨ましそうにしている、ソイラとグラスを見て、気分よく支店を後にした。


遠くに見える、あの城に、ルファスと同じ名前の奴が捕まっているなら、助けてやるか。

ただ、ルファス達を待ってるのも暇だしな。

その前に、セザール支配人の高級ホテルに宿泊の手続きをしに行こう。

滞在がどれだけになるか解らない……それに、

「レイラ~、プロム~ ずっと、ルファス達が心配で、してなかったろ? 俺、もう、我慢できない」

俺は、二人を見て言った。

二人とも、頬を染めて頷いてくれた。

「よし!」

俺達を乗せた軽キャンは、ホテルまでの道のりを過去最高の早さで到着して、とっと、とっとと、チェックインを済ませて、風の如き早さにて部屋に入ると、乱れに乱れて次の日の朝まで、やりまく…ゲフン、ゲフン、愛し合った!



昼過ぎに起きた俺達は、ホテルから出て、遠くにある城を見ている。

「さぁて、暇潰しに行きますか?」

俺は、そう言って二人を見た。

二人とも、朝まで愛し合った余韻から、うっとりしている。

うう、また、ホテルに戻りたい。

そんな、気持ちになったが、俺は、肉欲に負けない男なので、軽キャンに乗り込み出発する。

軽キャンの中は、俺達だけなので、愛し合ったときの件で盛り上がったりして、イチャイチャしながら、城に向かう。


野上博志達は、舐めきって行動していた。

城に幽閉されている、ルファス達の身に、危険が迫ろうとしていた。

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