第32話 ラガス王国攻防戦 その4

グラナス高原に布陣するヴァルファ軍の本陣テントでは、負傷したラガス王国討伐軍の最高指揮官 アデロン将軍がベッドに横になっていた。

数日前に、謎の人物によって、尻を負傷させられた為だ。

「ぐぬぬぬ、殺してやる」

うつ伏せで寝ながら、幾度となく呪詛の言葉を吐いては、痛みに耐えていた。

指揮官の負傷から、戦闘は行われずに、ラガス王国軍との睨み合いが続く。

帝国領土各地から集められた兵士達も、終わらない戦いに疲労が蓄積していたところに、この休戦状態。

緊張の糸が切れ、軍の雰囲気が緩んだものになり、逃亡を図る兵士も見えはじめていた。

アデロン将軍は、そのような報告を聞くたびに怒りで当たり散らす日が続いた。



対峙するラガス軍は、指揮官のムトゥ将軍が、本国に帰還し指揮官不在で、臨時指揮官を任命された若き武将 カイトが、仲間を鼓舞して懸命に不在のムトゥ将軍の穴を埋めるために奔走しているのだった。



両軍が対峙して時が過ぎていく。

そして、戦闘がない日が数日続いた時に、ヴァルファ帝国の援軍が到着した。



「到着したか!」

ヴァルファの本陣から、援軍を迎えにアデロン将軍が飛び出した。

尻の調子もいいし、今日は、いい日になりそうだとアデロン将軍は、思った。

「アデロン将軍、皇帝陛下が、ラガス王国の攻略のため、援軍を送られたのです。このような、小国さっさと制圧しましょう」

援軍を率いてきたロディア将軍が、アデロン将軍に言った。

「フン、兵の数さえ揃えば、容易いことよ! ロディア将軍は遠くから眺めておればよい」

そう言って、本陣へと戻っていくアデロン将軍をみて、ロディア将軍は、一抹の不安を覚えたが、圧倒的な戦力差から、そんな思いも馬鹿馬鹿しくなった。



ラガス王国の陣営

「ラフィス様!」

連日の緊張状態から、少しやつれたカイトだったが、指揮官の交代でやってきたラフィスの姿をみて、元気を取り戻した。

「苦労をかけたな、カイト、国の守りはムトゥに任せて新たな指揮官をつれてきたぞ」

カイトは、ラフィスが指揮官に来たのだと思っていたので、ラフィスの言葉に混乱した。

「ラフィス様、で、その新しい指揮官はどこに?」

カイトは辺りを見渡すが、ラフィスの回りには、ラフィスの騎士団がいるだけだ。

「新しい指揮官は、ヒロシ ノガミ。ノガーミ商会の創設者だ」

ラフィスはどうだと言ったが、相変わらず姿が見えないので、カイトは混乱するばかりだった。

「ヒロシは、やる事があるので、後から来る」

そう言って、ラフィスは設営されたテントに入っていった。

ぼさっとしていたカイトは、ルファスの後を追ってテントに向かった。


辺りが暗くなりはじめ、やがて夜になり、各陣営に明かりが灯る。


月が出ている。


月明かりの中、ゆっくりと弓を構える人影。


ヒュッ!


ヴァルファの陣営、本陣前の松明倒された。


ヒュッ!

ヒュッ! ヒュッ! ヒュッ!

次々、明かりの松明が消されていく。

異変に気づいた兵士達が見ると、明かりの松明が矢によって倒されていた。

次の瞬間!

「びぃぃぃぃぃーー!」

激しくクラクションが鳴らされた!

ヴァルファ帝国軍の後ろから、アップライトにした軽キャンピングカーが、猛スピードで走って来る。

ライトの光とクラクションの音で、ヴァルファの兵士が戸惑って、迫る軽キャンに対応する事が出来ない。

本陣テントから、アデロン将軍とロディア将軍が飛び出してきた。

「何事だ!」

アデロン将軍が、辺りを見渡すと、眩しい光が近づいてくる。

「なんですか?あれ?」

ロディア将軍が光を指差し、アデロン将軍に聞いた。

「ワシに、解るハズが、… …また出た!」

アデロン将軍の前に軽キャンが横付けされた。

「うぎゃぁあああー!」

アデロン将軍が叫ぶ! ロディア将軍は、意味がわからない。

軽キャンの窓が開いた。

「また、お前か? ツイて無いな、お前」

運転席から、野上博志がアデロン将軍に言った。

アデロン将軍は、お尻を押さえて、あわわあわわ言ってる。

「なんだ、貴様は? ラガス王国の者か?」

剣を抜いたロディア将軍が野上博志に問いかけ近づいてくる。



なんか、剣を持った偉そうな奴が俺に近づいてくる。

ん? アデロンの隣にきたな。


「確保だ! レイラ、プロム!」


俺の言葉と同時に、軽キャンの上に待機していたレイラとプロムが放った投網が、アデロンと、ヴァルファの偉そうな鎧を着た奴に絡み付く。

「なにおっ!」

剣をもった奴が暴れる。

ばか野郎!網が切れるだろう!

「ウィズ!」

ウィズは、手筈通り、こん棒でアデロンをボコボコにするつもりで近づいていたのだが、それより、そっちの剣をもった奴をぶん殴れ! と、指示した。

「任せろ」

ウィズは、剣道の面の練習の如くリズミカルに剣をもった奴をぶん殴ってる。

二回に一回はアデロンへ

ぺったん、ぺったん、ぺったんと。

うん、餅つきみたいだね。

ほら、ふくれてきたよ。

赤くて、血だらけ、めでたいな。

「バン!」

バンは、投網の先を軽キャンの後部のいつもキャンピングトレーラーを連結していた部分にくくりつける。

「準備完了、みんな乗れ!」

軽キャンの上にレイラ、とカイ、中にプロム、ウィズ、バンを乗せて、走り出す。

「イーーッ、ヤッハーー!」

俺は叫ぶ。

西部劇の馬に引っ張られる人見たいに、アデロン達を軽キャンで引き摺って、ラガス王国軍の方へ移動を開始した。

しばらく走ると、サイドミラーにこちらを追いかける騎馬が見えた。

「レイラ、カイ撃て」

俺は上に乗る二人に迎撃の指示を出す。

二人の弓から放たれた矢が後方から追ってくる騎馬に次々当たる。

流石に数が多すぎか! 俺は、スピードをあげる。

引き摺られている将軍が、スピードをあげたことにより、バウンドして偉いことになっている。


もう少しで、ヴァルファ帝国の軍を抜けるところまで来たとき、ヴァルファの陣で大爆発が起こり、大混乱がおきた。

もはや、俺達の追撃どころではなくなったようだ。

「フィリー上手いことやってくれたな」

俺は、そう言うとラガス王国軍の前まで来たときに、ウィズ、カイ、バンと、捕虜の将軍を残して、レイラを中にいれた。

軽キャンが右回りに方向転換する。

目の前に、ヴァルファ帝国の陣が見える。

「ほんじゃ、フィリーの回収行ってきまーす」


軽キャンがどんどん加速していく。


最短距離で突き進む。

直線上にいた奴等には悪いが、全部撥ね飛ばした。


フィリーの回収地点に到達。

「乗って!」

俺は、助手席に素早くフィリーを乗せて、離脱する。



軽キャンがラガス王国軍の前に帰還した。

「ただいま」

俺が、軽キャンを降りて言ったら、大歓声がおきた。

「え? 何?」

と、ビクッとしてしまった。

「やったな、ヒロシ!」

ラフィスが言いながら走ってきた。

「カイト、こいつが、指揮官のヒロシだ!」

なんか、一緒にきた青年に紹介された。

「カイトです。ムトゥ将軍の代理で指揮をしていましたが、貴方のような凄い人が味方で、心強いです、凄いです!」

凄い興奮してグイグイくる。

「あぁ、うん。 ありがとう。 よろしくね」

と握手をしてあげた。

「ウィズ、どうなってる?」

俺は、ウィズに言った。

「捕虜の二人に、回復薬を飲ませて縛ってある」

ウィズが俺の指示にしたがってちゃんと、回復薬を飲ませてて良かった。

俺が、捕虜の二人の元に行くと、



フリチン丸太が二つ並んでいた。


さあ、戦争の開幕戦は、俺達の勝利だ。

指揮官二人捕まえたけど、油断なんかしない。

戦いは、これからだ!

明日からの戦いに備えて、俺は寝る。

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