第31話 ラガス王国攻防戦 その3

拠点を目指して進む馬車の中、俺とカイが並んで座り、向かい側にラフィスが座っている。

馬車が揺れる度、ラフィスの胸が揺れる。

俺と、カイは平然としながら、凝視していた。

「ムトゥを倒した奴を倒したらしいな?」

ラフィスが話しかけてきた。

「まあな」

俺の返事に、ラフィスの表情は厳しいままだ。

「お前を見ていると、とてもムトゥに勝てるとは思えんが」

ラフィスが睨んでくるが、俺は、フっと笑って、

「ムトゥとやらが、戦場でどうなった?」

イヤらしい目つきで聞いた。

「裸にされて、丸太に括り付けられたと聞いてる」

俺から目線をずらしてラフィスが言った。

俺はニヤニヤして、

「それから~」

ラフィスを覗き込む。

「…棒で刺された」

ラフィスは嫌々答えるが、俺は、手を緩めないぜ!

「どこに~?」

ラフィスの顔が真っ赤だ。

「ね、ね、どこか、言ってごらん?」

俺が顔をラフィスに近づけて、ん? ん? と答えを促すが、ラフィスは、黙ってワナワナと肩を揺らしている。


「そ、そんな事、なぜ言わねばならぬ!」

ラフィスは立ちあがり、叫ぶ! その時、馬車が止まった。

その衝撃で、ラフィスが倒れ、俺に抱きつく形になった。

く、苦しい。


「着きましたね」

カイは、そう言うと、さっさと降りていく。

俺も降りたいが、ラフィスが邪魔だ!


屋敷の前に停まった馬車を見に、レイラが歩いてくるのが見えた。

ヤバい、こんな状況見られたら殺される!

俺は、抱きついてるラフィスを必死に前の席に押し戻した。

ラフィスがフー、フー、言ってるが、無視だ! 降りよう。

俺は、馬車から外に出ようとドアに手をかけ、レイラに手を振った。

レイラも笑顔で手を振り替えしてくれた。

「お尻に、つっこまれたぁ!」

馬車の中から、ラフィスが叫んだ。

って、何を言ってるんだ? と馬車の中のラフィスを見た。

「さぁ、言ったぞ、どうだ?」

ラフィスが、セクハラには負けぬ! と、言わんばかりに俺を見ている。

「お、おう」

それだけ言って、外を見ると、レイラが俺を睨んでた。

俺の視線に気づいたレイラが笑いかけてきた。

ひっ!俺は恐怖にひきつりながら、馬車を降りて、レイラの元に歩み寄る

「や、やあ、レイラ、ただい」

バチーン!!!

たぶん、ビンタだと思う。

一回転した。

立ち上がれない。

「ヒロシ、お城で、さぞ、お楽しみだったようね」

俺は、ぐったりしながら、胸ぐらを掴まれて持ち上げられた。

「う、…う、 ラ、ラフィス~、せ、説明を…」

俺は、最後の力を振り絞り、ラフィスを見た。

ニヤニヤしてやがるあの女。

くそ~と思いながら、意識が飛んだ。



拠点の食堂を会議室にして、俺は、全員を集める。

俺は、あの後、回復薬をレイラから飲ませてもらった。

誤解がとけて、仲直りのセック…ゲフン、ゲフン。

愛を確かめ合ったのだ。


「ようし、みんな集まったな!」

俺は、長いテーブルに着席した、みんなを見ながら言った。

珍しく真剣な俺の目線に神妙な面持ちだ。

「みんな、…単刀直入に言う、この国の戦争に介入することになった」

ラフィス以外の皆が俺に目を見開き注目した。

「戦争って!…ヴァルファ帝国相手でしょ?」

フィリーが言った。

そうだと、俺は、頷いた。

「俺達が、どうこうして、勝てんのか?」

バンが、腕組をして言った。

「俺が、勝たせるさ」

俺は、みんなに向けて言った。

みんなは、俺の能力を高く買ってくれているが、流石にそれは…と言った雰囲気だ。

それは、当然だろう、わかってる。

「みんなの気持ちは、解っているつもりだが、俺を信じて、ついてきて欲しい」

俺は、頭を下げ頼み込む。

「そして、お願いついでに一つ、ルファスとキャスカは、この戦いから、除外してやって来れ。 頼む!これだけは、理解してくれ!」

俺は、みんなに土下座した。

「ヴァルファ帝国は、ルファスとキャスカの祖国なんだ! だから! …だから、その戦いに巻き込みたくないんだよ…頼むよ、みんな…」

俺は、涙ながらに、みんなに言った。

みんな静かだ。

「ヒロシ、私は、ヒロシの望むようにしたいし、ヒロシの言葉に従う」

レイラが俺に言ってくれる。

「私も、ヒロシ様の奥さんですからね。勿論ついていきますよ」

プロムも言ってくれた。

後のみんなは、沈黙している。


「よし!」

ウィズがそう言って立ち上がる。

「カイ、バン、フィリーお前達も残って、ルファスとキャスカと一緒に留守番だ!、俺が行ってみんなの分まで活躍してやる」

そう言って、笑った。

「そりゃないぜ、ウィズ、お前一人じゃ役にたたねぇよ、俺もついていってやる」

バンがウィズを見ていった。

「ウィズ、バン!アンタ達みたいなのだけじゃダメですぅ。私の後方支援が無いとすぐ死にますぅ。 私も参加しますからね」

フィリーが、そう言って俺に笑いかけた。

「え、フィリー行くなら、俺も」

なんか、カイも言ってきた。

「私も…」

言いかけたキャスカの手をルファスが掴んで、頭を振る。

「キャスカ、ノガミさんの気持ちを考えるんだ!俺達の為に言ってくれた事を!」

ルファスは小声でキャスカに言うと、キャスカは下を向いて涙を溜めて黙った。

俺は、ルファスに感謝した。

みんな、ありがとう。

俺は、ホントに思った。

「誰も、死なせない! 俺に任せろ!」

俺は、自分に言い聞かせるように、みんなに言った。

死なせないよ、誰もな!


「だが、相手は、ヴァルファ帝国、勝算はあるのか?」

ラフィスが俺に言った。

俺は、ラフィスに頷いて、みんなに向き合う。

「俺の策だが…」

俺達は、夜遅くまで、打ち合わせを繰り返した。



今日の、打ち合わせが終わり、食堂には俺が一人、酒を飲んでいる。

決戦までの時間がないのが心配だ。

時間が欲しい。

時間が!

俺は、窓の外の月を睨んだ。

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