第18話 凱旋

「見ろ!ゼノス王国だ」

軽キャンの中のみんなに言った。

森のなかに要塞を思わせるような門が見える。

軽キャンを門の横にある守衛所の前に横付けして窓を開けた。

「お疲れ」

俺は守衛の獣人に言った。

「何故ノガミ様の軽キャンピングカーに乗っている」

獣人は俺が野上博志と解らないのだろう。

嬉しさのあまり、迂闊だった。

「レイラ」

レイラは俺に言われ車を降りて守衛所に説明しにいった。


レイラが説明しに行ってから暫くして、通行の許可が出た。

門を潜り抜けると少し走ると発展したヨーロッパとか見たいな高層建築が建ち並ぶ街並みが見えてきた。

ルファスもキャスカも目を見開いている。

母国のヴァルファ帝国を凌ぐのではないかと言う位に発展した街並み、道路も広く立派だ。

「まずは家に寄るから」

俺はルファスにそう言ってスピードをあげた。


巨大な城が見えてきた。

軽キャン専用の入り口。

勿論、守衛がいるのでレイラが開門するように告げると、門が開いた。

軽キャンは城内の専用通路を進み軽キャンピングカー基地の部屋に到着した。

広い空間にズラリと何台も大小様々なキャンピングトレーラーが整然と並んでいる。

俺は、軽キャンを駐車して車を降り、レイラと手を繋いで基地内を歩いた。

ルファスとキャスカは口をパクパクさせて付いてくる。


「会長ー! 会長ー!」

長身の中年男性が走ってくる。

俺達は立ち止まって声のする方を見た。

現、ノガーミ商会の社長 グルジットだ。

ノガーミ商会の総本部は勿論城の中にある。

俺の家でもあるからね。

しかし、グルジット、

あんなに走って、元気そうだな。

あんなに走って・・・

あんな・・・に

大丈夫か?

あ~、スピード落ちてきたな。

フラフラしてきてる。


「ぜぇ~ぜぇ~はぁ~はぁ~」

俺たちの前に到着したグルジットは息を切らして四つん這い状態で、はぁはぁ言ってる。

「若くないんだから無理するなよ」

優しい俺は言ってあげた。

「なら、会長達も近づいて来てくださいよ~、私見て止まったでしょ?」

グルジットはフラフラしながら顔をあげた。

「若い、・・・会長? ですよね?」

グルジットは混乱した顔で言った。

「グルジット! 軽キャンのおかげよ!」

レイラが自信満々で言った。


「・・・なるほどぉ!」


グルジットが目を見開いて理解し言った!

大丈夫か? でも、理解してくれて助かる!

ルファスとキャスカは何を言ってるのかサッパリだったが考えるだけ無駄だと思った。

俺は、グルジットにルファスとキャスカを簡単に紹介して、基地部屋を出た。

俺達は、ゼノスに会うためグルジットと共に最高幹部専用廊下を歩いた。

「おかえりなさいませ」

メイド達が最敬礼で出迎えてくれる。

いいね。おじさん大満足だよ。

「グルジット、経営は順調か?」

言った俺に、

「万事順調です。ですが、現状に満足することなくノガミ様の教え通り新製品の開発も進めておりますので、ご安心ください」

グルジットの顔を見る限り大丈夫そうだ。

「俺達の武器と防具発注するから軍事開発部に連絡入れといて」

目的のひとつをグルジットに頼んだ。

「ルファスにキャスカ、後で武器開発部に行くから、どんな武器、防具が良いか遠慮しないで言うんだぞ」

ルファス達は頷いた。

「レイラ、国防部からルファスとキャスカの訓練教官見繕っといて」

「承知いたしました」

レイラは、仕事モードで答えた。

このレイラも好きだ。


最高幹部専用の通路を抜け、王の間に着いた。

ゼノス王、カローラ王妃、マルス王子、大臣を始め重役連中が勢揃いだ。

「ヒロシ!」

「おじちゃん」

「ノガミさん」

ゼノス、マルス、カローラが俺に駆け寄る。

俺も走り出した。

ダメだ泣きそうになる。

「お前誰ぇ?」

ゼノスが立ち止まって言った。

微妙な雰囲気になったが、

「軽キャンのおかげさ」

と言うと納得してくれた。

でも、出鼻をくじかれたので最初の感動の対面の熱は消えた。

「ゼノス、しっかり王様してるみたいだな」

ゼノスは如何にも王様ですと言った感じの服とマントをつけている。

俺は見た目で判断する。

「まー、何とかやってるよ。実質国家運営してたの俺達だったし」

大変な事押し付けてスマンと心の中で思った。

俺とレイラが抜けた後、マルスが頑張ってくれたとの事だ。

「ノガミさん、こちらの方々は?」

カローラが相変わらずデカイ乳をして言った。

触りてぇ、と思ったが顔には出さない。

「一緒に冒険者をやってるパーティーだ」

俺は、ルファス達を見ていった。

「ゼノス王、私はルファス・ヴァルファ、こちらが妹の、キャスカ・ヴァルファです」

ルファスとキャスカは片ヒザをつき頭を下げて言った。

「良い、面をあげよ」

俺が言った。

「何であんたが言うのよ」

キャスカが抗議してきた。

「気にしないでいいよ、ヒロシの友人なら大歓迎だ」

ゼノスが笑って言った。

「ルファスさん、キャスカさん宜しく」

マルスが二人に言った。

若い者同士仲良くしてもらえたら嬉しい。

俺は見た目はマルスとさほど変わらない若さだが中身は、おっさんだからね。


レイラとカローラが女同士で何か話してるし、マルスとルファス達も話してる。

「ヒロシ、しばらく居るんだろ?今日は晩餐会だけど、今度、飲みに行こうーぜ」

ゼノスが言ってきた。居酒屋になかなか行けないようだな。

「よっしゃ、俺もお前と飲みたいしな」

俺はゼノスの肩にてを回して言った。




「そんじゃ、疲れたし、少し休むわ」

俺が言うと、ゼノスも晩餐会までゆっくりしろと言ってくれた。

マルスがルファスとキャスカを客間に案内してくれる。

俺とレイラは久しぶりの自分達の部屋につき、抱き合ってキスをした。

ルファス達はといたので夜の営みは抑え気味だったので二人は互いを激しく求めあった。

そのたびに回復薬(小)を飲んだ事は言うまでもない。

俺とレイラは、ドレスアップして晩餐会の会場に向かった。

「やっぱ、家は落ち着くわ~」

欠伸をしながら俺は言った。

「そうね、ヒロシ」

そう答えたレイラの大胆な露出の激しいドレス姿にムラムラしながら廊下を歩く。


突然、俺達が帰国したにも関わらず、晩餐会の会場に多くの人が来てくれた。

ありがたいことだ。

結婚披露宴のような並びでテーブルと椅子がセットされている。

晩餐会つっても宴会みたいなもんだ。

それでも知らない顔も多い。

俺は軽く辺りを見渡した後、記者会見状態で座るゼノス達の元へ向かった。


「わりぃ、遅れた?」

俺はゼノスに言いながら、隣に座った。

「いや、まだ始まってない」

ゼノスが俺にそう言った。

キョロキョロしながら周りを見るとルファス達もみんなドレスアップしていた。

馬子にも衣装、皆、似合っているぞ。

そんな風に周りを観察している内に、目の前には豪華な料理が運ばれていた。


司会のグルジットが壇上に上がった。

「みなさま、本日は、このゼノス王国の発展に寄与して参りましたノガーミ商会。その会長であり、冒険者としても非凡な才能を遺憾なく発揮し、ご活躍中の ヒロシ ノガミと様と、その奥方 レイラ様、また冒険者お仲間のルファス様、キャスカ様を歓迎する晩餐会にお越し頂き誠にありがとうございます。本日は、時間の許す限りご歓談の上お楽しみくださいますよう願います。

それでは、ゼノス王様宜しくお願い致します」

グルジットに促されゼノスがグラスをもって立ち上がる

「本日は皆、我が国の国父と言えるこの、ヒロシの為に集まってくれて、嬉しく思う。

ヒロシは冒険者となった今もノガーミ商会と言う国の宝を残してくれた。

国に多大なる貢献をしてくれているヒロシに、我が国が返せることなど、どれだけある?

我らはヒロシに感謝してもしきれない恩があるのではないか。

皆、ヒロシに感謝の意味も込めて今宵は多いに飲んで騒いでくれ、乾杯!」

会場にいるみんなが乾杯と言って、グラスをあげた。

ゼノスありがとう。俺は異世界に来て良かったと思った。


宴が始まってから、俺の所にひっきりなしに酒を注ぎにくる。もうべろべろだ。

ゼノスも同じなのに、なんで平気なんだ?

「!」

ゼノスの野郎、注がれた酒、後ろのバケツに捨ててやがる。

教えろ! と思い、俺はゼノスを睨んだ。

そんな俺にゼノスが笑っていやがる。

レイラはどうなんだ?

ガンガン飲んでるのに冷静だ。

エルフって酒に強かった?

強いのドワーフじゃないの?

酔いがひどい、ナイフを持った奴がルファスに近づくように見える……


って、ダメだろ!


俺はテーブルに飛び乗りルファスへ走る。

みんなそんな俺の行動にビックリしているが、ナイフを持った暴漢は俺の考えに気づいて走った!

走るな!と、俺は思った。

俺がもっと早く走らないといけなくな…気持ち悪い。

俺は込み上げる酸っぱいものが込み上げるのをこらえて急いだ。

そして、暴漢に近づいた俺はテーブルからジャンプした。

食らえ!

野上博志は華麗に飛び蹴りをした気でいるが、端から見れば無様にテーブルから飛び降りただけでしかなかったのだ。

「いたぁ~ぃ! うぇげごぉろぉろぉぉ…」

派手に頭を床に打ち付け俺は吐いた。

そして気を失った。

暴漢は野上の行動に訳がわからず固まってしまた。

「奴を取り押さえろ」

ゼノスが指示を出す!

衛兵が暴漢に向かうが、暴漢はルファスにまた走りだそうとした。

ガッ!

ルファスの投げた皿が暴漢に当たった。

暴漢はその場に倒れこみ、体制を建て直す頃には衛兵に囲まれていた。

「くそっ」

暴漢は、手にしたナイフを自分の首に刺し自害した。

晩餐会は、後味の悪い形で終わった。




客間にてルファスとキャスカが深刻な顔でいる。

「お兄様……」

不安そうにキャスカが言った。

「キャスカ、解っている。ヴァルファ帝国の密偵だろう」

ルファスが頭を抱えて言った。

「私たち何も悪いことしてないのに…」

「キャスカ、父上は俺たちが管理出来ない場所で生きてるのが不安なのさ」

「不安?」

キャスカは顔をあげルファスをみた。

「そうさ、俺たちは皇帝の子供だ。誰かに利用されることを危険視してるってとこだろう」

ルファスはキャスカの顔をみて言った。

「そんなこと、しない」

キャスカは頭をブンブン振る

「しないかもしれないし、するかも知れない。わからないなら殺したほうが安心だろ?」

キャスカは、そんな、と言って黙りこんだ、

部屋をノックする音が聞こえた。

ルファスとキャスカに緊張が走る。

「マルスだけど、はいっていいかな?」

ルファスはドアの所に行き、マルスを部屋に迎え入れた、。

「ルファスさん、ごめんなさい」

マルスが謝ってきたのでルファスとキャスカは驚いたが自分達のせいで迷惑かけた引け目があり目を伏せた。

「先程の暴漢は、長くこの国に仕えてくれていたのだけれど、ヴァルファ帝国の密偵だったんだね」

マルスの言葉にルファスは驚いた。

「さすがに、辺境のちっぽけな国だけどヴァルファ帝国くらい知ってるよ。後、その国を逃げ出した二人の皇帝の息子と娘がいるってこともね」

マルスは椅子に座り続けた、

「この国はね、世界中にネットワークを持っているんだよ。人も金も情報もこの国に集まるんだ」

そう言ったマルスを見てルファスが呟いた。

「ノガーミ商会か」

それを聞いたマルスはにっこり笑った。

「城の中にまで密偵に入られるなんて、僕たちの驕りが招いたことで、ルファスさん達には、ほんとに申し訳ない」

マルスは頭を下げた。

「マルスさん、頭をあげてください」

慌ててルファスがマルスにかけよる。

「ありがとう、あなた方がおじちゃんの味方であるかぎり、この国とノガーミ商会は貴方達に出来るだけバックアップ させてもらいます。ですが、おじちゃんを裏切れば……わかりますね」

マルスの目が殺気を帯びたものになった。

ルファスとキャスカは背中に冷たいものを感じた。

ゴクリと唾を飲み込み、

「帝国がこわくないんですか?」

と、ルファスが聞いたがマルスは驚いた顔をして、

「いや、全然」

と言われた意味がわからないようだった。

「いや、帝国が本気になればこの国は…」

ルファスの言葉に、マルスは大笑いした。

キャスカはその姿にムッとして、

「強がったってホントは怖いんでしょ?」

と食って掛かった。

「ルファスさん、キャスカさん。私達が恐れるのは、ノガミ ヒロシと言う人間だけです。

おじちゃんがこの国を嫌いになる事以外、私たちは怖くないんですよ。

だって、おじちゃんがいれば帝国と戦争しても負けませんからね」

ルファスとキャスカは信じる事ができなかったが、この国のノガミに対する信頼の程がわかった気がした。

「もし、ルファスさん達が暴漢の件で何か思うことがあるなら、気になさらない方がいいですよ、おじちゃんは特にそんな小さな事を、いちいち気にしない人ですから」

そう言って、マルスは立ち上がり部屋を出ていった。

ルファスとキャスカは、ただその姿を見つめるしかなかった。




一方その頃、マルスから盛大に過大評価を受けたおじちゃんであるが、レイラに怒られて、泣きながら誰もいなくなった会場で、自分のゲロを掃除しているのであった。

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