第12話 若返り

ホテルモスノフが見えた。

うろ覚えで走っていたが、何とか、たどり着けた。

「ルファス降りるぞ。お前らも今日は俺達と、ここで泊まって、明日、この国を出るからな」

俺は、言いながら軽キャンを降りた。

なんだ? 体が軽いぞ。運転席から降りるときに膝も痛くない。

俺は、不思議に思いながら、

「ルファス、キャスカ起こせ~」

軽キャンの居住部分のドアを開けた。

「キャスカ起きろ、着いたぞ」

ルファスがキャスカを、起こしている。

「ゆっくり、準備しな。一服してっから」

俺は、そう言って、タバコに火をつけた。

「すいません。ノガ……ミさん?」

俺の方を見たルファスは、大きく目を見開いて固まっている。

なんだよ?

変な奴だな! と、思いながら、タバコを吸った。

「お前は誰だ! ノガミさんを、どうした!」

ルファスが叫んだ。

なんか、キレられた。

「お前、大丈夫か? さっきから、ずっと一緒にいただろ?」

俺は、呆れて言った。

「ノガミさん……なのか?」

当たり前だろ! なに言ってんだ、お前?

「いや、……姿が ……違う」

ルファスは混乱しながら、俺を指差して言った。

姿? 俺は、サイドミラーを覗く。

「ん、んん~? ……若くなってる」

鏡には二十歳位の俺の顔が映ってる。

え?なんで?

……!

ハッ!

「ルファス、待ってろ!」

俺は、そう言って、ホテルに走って入っていく。

「若返った!」

エントランスを抜ける。

「レイラ!」

階段を、かけ上がる。

「早く会いたい!」

あっという間に、俺達の部屋の前に着いた。

「レイラぁ!」

バーンと、ドアを開けて俺は言った。

「ヒロシ~」

声がして、パタパタとレイラの足音が聞こえた。

「って、誰ぇ!」

レイラが俺の姿を見て、声をあげて止まった。

「俺だよ! ヒロシだよ!」

「だって、……若い」

疑いの目で見るレイラ。

「軽キャンのおかげさ!」

俺は言った。

「軽キャンのおかげなのね!」

レイラは納得した。マジか! と、俺は思ったが、都合がいいので、そこはスルーだ!

「レイラ!」

「ヒロシ!」

俺達は抱き合い、濃厚なキスをした。

そのままベットで、若い身体の性能をチェックだ!

と、レイラの手をとり、寝室へ向かう!

駄目だ! ルファス忘れてる。

「来てくれ」

俺は寝室の方から、くるりと方向転換して、ルファス達を迎えに行く。

途中、レイラには、奴らの境遇を話しておいた。


ルファス達と合流し、挨拶したりして、顔合わせした後、部屋に招いた。

俺達はソファーに腰掛けて、ゆっくりしている。

「ルファス疲れたろ、あっちの部屋で、もう休んではどうかね?」

俺は、レイラとベッドで早くキャッキャ、ウフフしたいので言った。

だが、ルファスの野郎が爽やかに、

「いえ、まだ大丈夫ですよ。ヒロシさんに頂いた薬で、なんか、冴えてるんですよ! ハハハ」

ハハハじゃねぇ! と、思いながら、力なく、そうなんだぁ と、俺は返した。

暫くレイラとルファスが何か他愛もない話をしていたようだが、俺の頭は、アノ事でパンパンだ!

ふと見ると、ルファスとキャスカが、ずっと手をつないだままだ。

ホント、仲が良いなこの兄妹。

夜も更けてきましたし、寝ましょうよ~。

と、思ってたら、

「お兄様」

と、頬を染めたキャスカが、ルファスに抱きついた。

「もう、遅いね。休ませていただこうかキャスカ」

ルファスは、キャスカの髪を撫でて言った。

ナイス! キャスカ! と、俺は、小さくガッツポーズをした。


「そっちの部屋を使ってくれ。 俺達は、あっちの部屋で寝るから」

と、俺が言うと、おやすみなさいと言って、ルファスとキャスカは、抱き合って部屋に入って行った。

そんじゃ、俺達も行こうかと、レイラを見ると、顔が赤くなって、ベッドモードの顔になっていた。


ヒロシと、ルファスは、この夜、とても凄く沢山いっぱい頑張ったのだった。


朝。

ルファスとキャスカはまだ寝ているのかな?

俺とレイラは軽キャンに乗って出掛けた。


ノガーミ商会モスノフ支店ーー

中では店員達が開店準備の為、忙しそうにしている。

ソイラとグラスは、グループの会長である、ノガミ様が昨日突然来店したため、今日は早めに出勤してきていた。


軽キャンピングカーが店の前に停車する。

それを見た従業員が、急いで店に入っていく。

すると、従業員から知らせを聞いた、ソイラとグラスがヒロシの軽キャンの前に飛んできたきた。


「これは、これは、ノガミ様、おはようございます」

ソイラがにこやかに挨拶をしてきた。

「おはようございます、ノガミ様」

続けてグラスも俺に挨拶をしてきた。

うん。挨拶は大事だ、

「おう、ソイラにグラス、おはよう!」

俺は、軽キャン窓を開けると、手をあげて爽やかに言った。

「なんだお前は? 馴れ馴れしいノガミ様の運転手か?」

ソイラが俺に言ってきた。

……失礼な奴だな。

「あの、レイラ様、ノガミ様は?」

グラスがレイラに聞く、

「貴様ら、若くなってるが、コレがヒロシだ」

と言って、俺の肩に手を添えた。

「?」「?」

ソイラもグラスも、きょとんとしている。

「なんやかんやあって若返った」

俺は説明するのがめんどくさいし、適当に言った。

でも、説明を求めらるんだろうな~、どうしよう……。

「そうでしたか、羨ましいですな」

ソイラが言った。

あれ、聞かないの? 俺に興味ないの?

と、聞かれないのは助かるが、ちょっと寂しく思った。

まぁ、楽だし気にしないでいよう。

「何日か滞在する予定だったけど、用事が出来たから、この国を出ることにした」

俺は、この国を出る出発前に挨拶しようとやって来たのだ。

「そう言う事なんで、二人とも、これからも商会を頼んだぞ!」

俺は、二人に言ってエンジンをかけた。

「えぇ~、来たばっかりじゃないですか!」

ソイラ…

「そうですよ! もっと、滞在してくださいよ!」

グラス…

そして、二人は、寂しくなると言ってくれた。

そんな二人の気持ちが、俺は嬉しかった。

俺は、軽キャンを発車させる。

サイドミラーを見ると、軽キャンが見えなくなるまで、ソイラとグラスは頭を下げて見送ってくれた。


「支店長、帰られましたね」

「そうだなグラス。突然お越しになって、突然帰るとは、ノガミ様らしい」

マヨネーズなどの数々の発明品を作り上げ、一代で世界有数のノガーミ商会グループを作り上げた後、あっさり経営から身を引き旅に出る。すべてが突然であり、我々の物差しで測れるものではない、そんなノガミ様なら若返ったのも何かが、あったのだろう。だがそれを詮索するものではないのではないか?と二人は思った。


「ヒロシ、どうしてルファス達を連れて商会に行かなかったの?」

レイラが俺に聞いてきた。

「レイラ、ルファスの家は貧しいだろ?そんな二人をここに連れてきたらビックリするだろ?そして、特にキャスカは手癖が悪いだろうから、いや、悪いな。で、万引きしそうだろ?いや、するに決まってるな。なんせキャスカは手癖が悪いから。罪を重ねてほしくないから今日は連れてこなかった。そんな悪の道から二人を更正させる為にも俺がノガーミ商会の会長だとは伝えないつもりだ」

野上博志は個人的な恨みを込めつつレイラに説明したのであった。

「そうね」

レイラは納得した。


大丈夫か、この夫婦。


その頃、ホテルの宿泊した部屋の中でキャスカとルファスがノガミ達を探していた。

「お兄様!ヒロシ達がいませんわ」

そう言った後、

「あのジジィ、ホテルの代金踏み倒しやがったんだ!」

キャスカは、ルファスに聞こえないように呟く。

ルファスは、テーブルの上に置かれた手紙を見つけた。

はっ、最初から人の良い優しいお兄様の金が狙いだったんだ! あのクソジジイ! と、キャスカは思った。

「お兄様、騙されたのですわ!」

「キャスカは心配性だね。ほら、見てごらん」

ルファスは手紙をみせる。


少し出掛けるので、出発の用意しといてください

と書いてある。


「嘘ですわ。あの男は最初から、お兄様の金が目当てっだたんですわ」

「ノガミさんは、そんな人じゃないよ」

ルファスは、笑ってキャスカに言った

「でも……」

キャスカは納得いかない顔をして下を向いた

ルファスは、そんなキャスカを抱き締めキスをした。

「心配ないよ。俺がキャスカの側にいるから…」

そう言ってルファスはキスをする。

「ん、お兄様……ズルいですわ」

キャスカは背を伸ばしてルファスに抱きつきキスをする。

「キャスカは可愛いな」

ルファスはそういってキャスカと長いキスをした。

それから、二人はベッドに行きたいのを必死で我慢して出発の準備をする。


ノガミ達が暫くして帰ってきたので、少し焦りつつ、二人は我慢して良かったと思った。


ホテル前。

「ノガミさん、軽キャンの後ろに」

ルファスが不思議そうに言った。

「お前たち用のキャンピングトレーラーだ。休憩や寝るときに使ってくれ」

俺はそう言ってから、みんな軽キャンに乗り込むように言った。


「さぁ~って、出発だー!」

俺は元気いっぱいに言った。

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