第11話 新しい仲間
ホテルの馬車に揺られてヒロシは、商会に向かっている。
もうつく頃かと、ヒロシが外を見ると、若い男が、小学生位の小さな女の子の手を引いて、必死に走っている姿が見えた。
馬車は若い男と女の子を追い抜いて走り去る。
見覚えのある通りに入った。
商会はもうすぐだ。
ノガーミ商会モスノフ支店ーー
俺は、店内に入るとカウンターの女性に、軽キャンをホテルまで持っていく事を言って、その事をソイラに伝えるように頼んでから、店を出た。
店の横手に、軽キャンを駐車してある。
俺は、いそいそと鍵を開けて軽キャンの運転席に座った。
では!
「いざ!レイラが待つ、ベッドに向かい発進じゃい!」
そう言って、エンジンをかけた。
期待と股間を膨らませ、いざ行こ…
「ぅわっ!」
「お待ちください!ノガミ様~!!」
出発しようとした軽キャンの前に走ってきた、グラスが立ちはだかった。
……ったく、何だよ? 早く行きたいんですけど?
「何か、粗相がありましたか?」
グラスが、心配そうに軽キャンの横に来て言った。
あー、そんな事? 俺は、思ったが、
「ん? いや、無いよ。この車取りに来ただけだよ」
と、言ってやった。
そして、今日は、久々に広いベッドでのお楽しみが待ってるんだから、邪魔するな! 殺すぞ! とも、思った。
勿論、顔には出さないがね。
「そうで、ございましたか~」
グラスが、ホッとして言った。
もういいか? と、思ったら、グラスのバカが、軽キャンの車内をキョロキョロと、うかがっている。
……どうせ、レイラだろ?
「あの、レイラ様は~、ご一緒では?」
やっぱり! 俺が、思った通りの事をグラスが言ってきた。
「レイラなら、ホテルで俺の帰りを待ってるから、早く帰ってやらないと」
そう言うわけだ、残念だったな。
「そうで、ございましたか……」
グラスが、凄く落胆した表情をした。
なんだ? 失礼な奴だな!
大体な、人の奥さんに、ちょっかいだすなんて奴は、最低だぜ!
ゼノスの奧さんのカローラに、散々セクハラをした最低な奴、野上博志は自分の事を棚にあげて、そう思うのであった。
「そんじゃ、俺行くからな!」
俺は、グラスにそう言って、出発した。
・
・
・
ホテルまでは、軽キャンで行って無いので、ナビには登録されていない。
なので、自力でホテルに戻らねばならない。
俺は、馬車で通ってきた、先程の道を走ろうと進む。
しかし……歳を重ねる毎に、物覚えが悪くなっていくもので……
この道で合ってるのか?
不安になりながらも、キョロキョロして、軽キャンを走らせた。
「……んっ、あれは?」
先ほど馬車ですれ違った、若い男と女の子ではないか?
気になった俺は、軽キャンを若い男の近くに移動させた。
目の前にまで移動させると、
「やぁ、何してるの?」
と、俺は、凄く自然な感じで、男に話しかけた。
このロリコン野郎は、誘拐の疑いがある……
刺激しないように、女の子を救出せねば!
正義の男、それが俺!
「……長距離馬車を……待っている」
男は、周りを気にしながら言った。
挙動不審!
最早、間違いあるまい……!
この男、女の子を誘拐して、逃亡を謀っとる!
名探偵ヒロシの推理が冴え渡った!
女の子を見る俺。
可哀想に……不安が伝わってくるようだ。
……許せぬ。
俺は、男を見た。
「あー、君。ちょっと、そこに移動して」
俺が、そう言いながら、悪党の男を、手で誘導する。
訳がわからない男は、少しだけ移動した。
「もうちょい右、それ左だから! ああー、行き過ぎ! ……そう、そこ。そこね。 食らえ!」
ドンっ!
俺は、軽キャンを、悪党にぶつけてやった!
「これで、良し!」
颯爽と軽キャンを降りた俺は、撥ね飛ばされた悪党を見た。
よし、動かないな。
では、女の子の保護を、
ガツッ!
「痛ァーーい」
石で殴られたかのような痛みが、俺を襲った。
「クソジジィ! お兄様に何をする!」
女の子が、俺に叫ぶ。
兄?!
俺は、女の子を見た。
手には、石が握られてる。
やっぱ、石じゃねぇか!
「お兄様? なの? 誘拐されて……無いの?」
頭から、ピューピュー血を出しながら俺は、言った。
「何、訳のわかんねぇ事、言ってんだ! この、クソジジィが、ぶん殴るぞ!」
女の子は手にした石を掲げ、怒りながら言った。
てか、もう殴ったじゃん!
その石で、思いっきり、殴ったじゃんよ!
行こう。
俺は、軽キャンに乗って、さっさと、この場を去ろうと、ドアに手をかけた。
痛いし、とにかく早く帰りたい……
女の子は、そんなヒロシに、
「おいおいおいおい、クソジジィ、どこ行くんだよ? 怪我人ほっといて」
と、言いながら、走ってきて、ヒロシの服を掴んだ。
「いや、俺も怪我してるし…帰りたいんだけど?」
ブロロロ~
俺は、今、頭からドクドク血を流して、軽キャンを運転しています。
痛いです。
凄く、痛いです。
後ろには、怪我をした兄と、暴力的な妹がのっています。
そして、ホテルに向かっています。
どうして、こうなった?
・
・
・
頭が痛い。
ちゅーちゅー血が出て止まらぬ。
これは、ヤバイかもしれん。
俺は、路肩に軽キャンを停めた。
後ろに乗った少女が激しく俺を罵倒しているが、無視じゃ無視。しかし口が悪い、育ちが悪いのだろう。
俺は、ナビを操作して治療に使えそうなものがないか探した。
「これだな」
ナビに如何にもなものがあった。
・全回復(所有者専用) 1000
・体リペア(所有者専用) 10000
・回復薬(小)×1 200 アイテムボックスへ
・回復薬(中)×1 400 アイテムボックスへ
・回復薬(大)×1 800 アイテムボックスへ
この年になるまでに、何やかんやで魔力も大分増えていた。
魔法は未だに使えないので、あんまり気にしていなかったのだが。こう言うときに役に立つ。
俺は、迷わず全回復を選択。
次の瞬間、魔力を消費して怪我が治り、体力も回復した。
「何これ? 無敵じゃないか!」
大喜びの俺。
少女は驚いて固まっていたが、次の瞬間、後ろから俺の首を絞めてきやがった!
「ジジィ、お兄様も治療しろ」
少女は言いながら、俺の首を締め上げる。
何で、こんなに暴力的なんだ、この娘は、
「わ、わかった……から、はなせ」
首が締まって顔が真っ赤になりながら俺は、ナビに表示されている回復薬(小)を選択する。
少女が俺の首から手を放すと、兄の側に行き状態を確認する。
「クソジジィ! 全然ダメじゃねぇか!」
少女は喚いてる。
無視して俺は、軽キャンから降りて、車の後ろにあるサイクルキャリアに設置してあるアイテムボックスから、回復薬(小)を取り出して軽キャンの中に戻る。
ソファーで倒れている若い男に、回復薬(小)を飲ませようとするが上手くいかない。
見かねた少女は、回復薬(小)を、俺から引ったくって、口に含み若い男に口移しで何回かに分けて飲ませた。ちょっとビックリした。
「うっ、……此処は?」
若い男が気がついたようだ。
スゲーな回復薬(小)! と、思ったが顔に出さず、さも当然と言った顔でいる。
「お兄ぃ様!」
そう言って、少女は兄に抱きついた。
「キャスカ」
そう言って、兄の方が妹の頭を撫でる。
「大丈夫なようだな」
俺は、兄の方に言った。
「貴方が私を助けてくれたのですね、本当にありがとうございます」
頭を下げて言ってきたので俺も、
「気にするな」
と、返した。
キャスカとか言う少女にスゲー睨まれた。
ちっ、わかったよ。
「不幸な事故だった。些細なミスで、誤ってお前に車をぶつけてしまった。悪かったスマン」
俺は、真摯に謝った。
「え?手で誘導しませんでした?」
兄の方が腑に落ちない、と言った感じで難癖をつけてきたが、クレーマー処理には自信のある俺が、会社員時代に身につけたスキルを発動させる。
「してないよ」
そう、言い切った。
俺に兄の方が、え?みたいな顔をしたが、
「え? あれ? なんか、すいません」
と、謝ってきた。
「気にするな、勘違いは誰にでもあるさ」
爽やかな笑顔で俺は、グッと親指を立てる。
「俺は、ノガミ。ノガミ ヒロシだ! 妻と、悠々自適に旅を楽しんでいる者だ」
「私は、ルファス、こっちは妹のキャスカ」
キャスカは、緊張が解けたのか、安心してルファスの胸で眠っていた。
「そのまま寝かせてあげなさい」
俺は、キャスカを起こそうとしたルファスに優しく言った。
奴が起きたら、また面倒なことになりそうだからな!
「私達の素性ですが……」
ルファスが口ごもっている。
「あー、いいから。言いたきゃ言えばいいし、言いたくないなら言わないで、別にいいんじゃないの? 俺も聞かねーし」
妹の様子から俺は、やさぐれた両親の元で録な環境ではないところで育ってきたのだろう…と、容易に想像できた。兄妹で悪いこともしてきたに違いない。今、着てる服も、盗んだ物なのだろう。
そんな高価そうな服、お前たちの親が買えるはずなどない。
アル中で、家族に暴力を振るう父親。
外に男を作って、子育てを放棄して、遊びまわるアバズレな母親。
で、そんな生活に耐えきれずに、ヤクザな親から逃げてきた! そんなとこだろう。
いや、きっとそうだ!
お前たち、苦労してきたんだな。
お前たちの境遇を思うと、泣けてくるぜ。
「……逃げて、きたんだろう?」
俺は、ぼそりと言った。
「! ……なんで、」
ルファスが驚く。やはり図星か。
「何も言うな! 今まで、……辛かったな」
俺は、ルファスの肩にそっと手を置いた。
俺の顔を見て、視線をキャスカに戻すルファス。
「キャスカは、お前に救われたんだ」
俺は、言った。
「……でも、本当に? ……そうなのか不安で……」
余程辛い日々だったのだろう、不安な心境をルファスは、吐露した。
俺は、ルファスに背を向け、軽キャンのドアを開けて言った、
「お前、辛かったな。甘えられる、味方になって守ってくれる。そんな、大人が側に居なかったのに、よく、……よく頑張ってきたな! もう心配するな! あんなところに戻る必要はない! この俺が何があってもお前らを守ってやる! だから、黙って、……俺に、ついてこい!!」
俺は言って、軽キャンの居住部分のドアを閉じた。
前に回り、運転席に乗り込みと、
「ノガミさん、……宜しく……お願いします」
ルファスの声と嗚咽が、聞こえた。
「おう」
と、だけ答えた俺は、ナビの画面の回復薬関係のを何回か選択して、アイテムボックスに回復薬のストックを貯めた。
後、 体リペア ってのも使用魔力が異様に多いので、選択してみた。
そしたら、体が光った!
「わっ」
俺は、驚いて声が出た。
……が、特に何もなかったので、魔力の無駄使いしたなと思った。
俺は、窓を少し開けて、タバコに火をつけて吸った。
フーッと、タバコの煙を出した後、
「じゃぁ、行こうか」
と言って、軽キャンを走らせる。
ヒロシは、思い込みと勘違いにより、ルファス達を仲間にしたのだった。
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